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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
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じっしつむげん3

 まずは進常の指示で、三人は服飾品売り場に乗りこんだ。

 進常は鼻息も荒く、服を吟味する。

 けっきょくゆるいシルエットのふわっとしたワンピースを三着購入。

 新しい下着も買った。

 服がもうパツパツだったのでその場で着替える。


 鈴木は後頭部からうなじにかけて日除けの付いている帽子を買ってもらった。

 これでハゲが隠せるというものだ。


 メリコにも裾の長い長袖のワンピースを買った。

 カンパニースーツは目立ちすぎるのでカモフラージュのために上から着てもらう。

 メリコはもともと細身だったため、

 そんなワンピースを着ると、ちょっといいとこのお嬢さんに見えなくもない。

 髪はピンクだったが。


 三人は装いを新たにした。

「こんなワンピース、すっかりおばさんじゃねーかよー」

 進常が己の姿に不平を言う。

 鈴木は帽子の具合を確かめながら言った。

「いままで若作りだっただけで実際おばさんなんですし。ぼくだってこんな帽子おっさんくさいじゃないですか。しかたないですよ。力を使った代償です」

「なんだと! 家直してやらんぞ!」

「進常さんはどんな服着てても若々しいですよ! 二十代にしか見えない!」

「それでいい」


「ふんふーん」 

 メリコはくるくる回ってスカートの裾がひるがえるのを楽しんでいた。

 足は銀色のメタリックスーツに包まれたままだった。

「こんなにいろいろ楽しい服があるなんて、地球文明ってすてきー」

 はしゃぐメリコを横目に、進常が言った。

「いくらわたしたちがアメーバに見えるっていったって家や家具を見れば人間型をしてそうなことぐらい推測ができないかね。こんな服売り場を見せることができれば確実だ」


 鈴木が疑問に答える。 

「あの壊れたバイザー、きっと洗脳装置的なものだったんでしょうね。ちょっとやそっとのことだったら認識を歪めてしまうんですよ、きっと」

「そうだったのかもしれないな。新手が現れてもバイザーさえ剥ぎ取るか壊してしまえば、戦いはそこまでだ。向こうだって騙されてるんだろうからあまり手荒なことはしたくない」

「味方にできれば貴重な戦力ですしね……」

「なにより宇宙船を無傷で手にいれなきゃならん。操縦士も必要だ。鈴木くんのビームがどこまで都合よく使えるかにかかってるな」

「はぁー、またハゲるのかー。気が重いなー」

「ハゲ散らかしたらカツラも買ってやるから」

「慰めになりません」


 進常はメリコに声をかけた。

「さあ次は食べ物買いにいくぞ! 持てる限りにな! 今日はパーティーだ!」

「いえーい!」

 パーティーがなんなのか知ってか知らずか、メリコもノリノリだった。


 三人は荷物を抱えて地下の食品売り場へ移動する。

 売り場に着くや、壮麗に並べられた色とりどりの食べ物を見て、メリコは目を見開いた。

「うわぁー! これがみんな食べ物なの?! すごい! 地球文明すごい! こんなに食べ切れない!」

 鈴木は真顔で言った。

「スーパーにある食べ物食べきろうっていう考えは斬新だな」

 だが進常はメリコを煽った。

「メリコ! なんでも好きなもの選べ! フィーリングだ! なんでも買ってやる! ただし三人で持てる限りだからな、無限じゃないぞ、よく選べ!」


 メリコは手近にあった赤いリンゴをひとつ、手にとった。

「このかわいいのも食べられるの? 食べてみていい?」

 口へ持っていこうとするところを鈴木が押しとどめた。

「待った! 食べるのは買ってからだよ。まだ食べちゃだめ」

「えー、こんなにいっぱいあるのにー。ちょっとくらいよくない?」

「まあちょっとくらい我慢しなよ。メリコちゃんが作っているペットフードもただで奪われたら困るだろ」

「うーん、そこらへんは同じ価値観なんだ……」


 進常がプラスチックの買い物カゴをとってきた。

「ものども、カゴを持て! なに買っても構わないけど、何度も言ってるように持てるだけだからな! さあ散れ!」


 メリコもおっかなびっくり、カゴのタワーから一個を抜きとる。

 鈴木はカゴを持たなかった。

「ぼくはメリコちゃんが変なものを買わないようにチェックしてついてまわりますから、進常さんはメインになるものをお願いします」

「気が利くな鈴木くん! よし任せとけ! 肉ぅー!」

 精肉売り場へ走っていく進常を見送って鈴木はつぶやいた。

「進常さんダイエットしないつもりなのかな……」

それからメリコを振り返る。

「さあメリコちゃん、好きなものを選んで」

「うぅーむー……」

 メリコはまずさっきのリンゴをカゴに入れ、それからバナナを入れた。

 さらにナシ、オレンジを入れていく。

 本能的なものか、的確に果物を選んでいた。

 野菜は物珍しげに眺めるが、カゴに入れない。


 鈴木は感心した。

「すごいなメリコちゃん、甘いものばかり選んでる」

「そうなの? 見た目でおいしそうなの選んでるんだけど」

 あとは眺めるだけで青果コーナーは終わった。鮮魚のコーナーになる。


 鈴木はアジの開きを手にとってメリコに見せた。

「こういうのはどう?」

 メリコは眉間にシワを寄せる。

「グロい。魚みたい」

「魚だよ……」

「えっ! 魚はペットでしょ!? なんで食べるの?!」

「お、おいしいから……?」

 メリコは悩ましく身をよじった。

「うぅーん、おいしいのかー、うぅーん、魚って食べられるし、おいしいんだぁー? うぅーん……」

「こ、こういうのは進常さんに任せておくか」

 鈴木はアジの開きをそっと戻した。

 説明がめんどうになるので、形のわからない獣肉のことも黙っていようと決めた。


「向こういこ」

 鈴木はメリコのカゴを引っ張って奥へと連れていった。

 途中、調味料のコーナーでメリコは足をとめた。

「うぁ、なにこれ、おもしろい形! これおいしそー!」

 メリコは黄緑とクリーム色で彩色されたパッケージを手にした。マヨネーズだった。

 鈴木は少し困った。

「それはおいしいことはおいしいけど、たぶんきみが想定している食べ方とは違うと思うし、きっと進常さんちにあるから。戻して」

「ちぇー……」

「ここらへんにあるものはそのまま食べるものじゃないから、買っても君の期待には答えられないと思う。さ、もっとあっちあっち」


 鈴木はメリコを連れていくつもの棚を通り過ぎた。

 お菓子のコーナーにたどり着き、メリコのカゴを離す。

「ここいらにあるものならどれを選んでもおっけー。たぶん」

「これは? おいしそうに見えなくもないけど……」

 メリコはお菓子のパッケージを指差した。

 チョコレートケーキだった。

 パッケージに描かれているお菓子はおいしそうだが、

 パッケージであること自体がメリコの食事に似ているので警戒しているのかもしれない。


 鈴木は両手でおっけーマークを形作った。

「おっけー。おいしいよそれ。あとはどれを選んでもいいと思う」

「いえーい! じゃ、これとこれとこれと……」

 メリコは次々とお菓子をカゴへ放りこんでいく。

 カゴはあっというまにいっぱになった。

 色鮮やかなパッケージに包まれたチョコケーキ、クッキー、ゼリー、キャンディーなどが入っていた。

「あとは、えーと……、あとはー」

 鈴木はメリコを押し止めた。

「これくらいでじゅうぶんだろ。もうカゴに入らないし、どうせすぐには食べ切れないし」

 メリコは目を輝かせながらも自重した。

 自分のカゴを見てため息をつく。

「はぁー……。これみんな違う食べ物なんだぁー。すごいなー地球」


 そこへ進常が合流した。カゴは肉と野菜でいっぱいだった。

 進常は微笑んだ。

「じゃ、会計すっか」


 三人はレジに並んだ。

 急な買い物だったのでレジ袋も買う。

 店員がバーコードを読み取り、その後自動精算機にお金を入れるまで、

 メリコは目を見開いて観察していた。

 かくして数多の食料品は三人のものとなった。

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