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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
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勝利へのカツカレー4

 アマガとモルゲニーが入浴を終え、かわりにメリコが風呂へ入っていく。

 アマガは進常のTシャツとジャージに着替えて、湯上がりの炭酸水を楽しんでいた。

 おもむろに口を開く。

「地球っていいところですよね。食べ物はおいしいし、服はきれいでたくさん種類があるし。わたくし、この戦いが終わったら地球に住みたいと思います」


 カレーの仕上げにかかりながら鈴木は言った。

「メリコちゃんも同じようなこと言ってましたよ。地球ってそんなにいいとこなのかな」


 アマガは何気ない口調で言った。

「スズキ、一緒に暮らしませんか」

「え、えぇっ!?」


 またもや同居の誘いに、鈴木の心臓は高鳴った。

 アマガは二十歳前後に見える。

 少なくともメリコよりは年上だ。

 一緒に暮らすという意味がメリコとは違うかもしれない。

 いや、やはり宇宙の常識的には同じものだという可能性もある。

 いや、違うとしても同じとしてもえらいことだった。

 いきなり二人もの女性に同居を打診されるなんて。


 鈴木が耳まで赤くしてなんと答えるか逡巡していると、モルゲニーが言った。

「わらわもママ、いや母上に陳情し、この地球に別荘を建ててもらおうと思う! スズキも住まわせてやってもよいぞ。一緒に暮らすか」


 これで同居の提案三人めだ。

 というか仲良くなった異星人全員から申し込まれた。

 これは宇宙の常識なのだろうか。

 自分のモテ期到来に、鈴木は軽くめまいを覚えた。


 鈴木が答えられずにいると、代わりに進常が舌打ちした。

「なんてこった。宇宙の常識では鈴木くんみたいのがモテるんか。なんでみんな鈴木くんと暮らしたがるんだ、わたしもいるのに。つーか、わたしならまとめて面倒みてやるっちゅーのに。十億円所持者だぞ。まだもらってないけど」


 モルゲニーが言った。

「なぜならスズキは頼りになる男だからじゃ! 宇宙広しといえど、こんな男なかなかおらん」

「そうですよ。スズキは頼りがいがありますから」

 アマガも頷いた。


 進常は渋々認めた。

「まあ、アンタたちが地球に来てからの行動だけ見てれば、鈴木くんもかっこいいかもしれないけどさー。地球じゃ鈴木くんはまだ子供だから。男女二人で暮らすとかダメだから。モルゲニーだって子供じゃん。アマガは大人かもしれないけど、でも鈴木くんが子供だからダメ」


 モルゲニーが嘆息する。

「なんじゃ、地球も存外、厳しい慣習があるんじゃのう」


 進常は唇を尖らせた。

「だからわたしがお前らのめんどう見てやるつってんだろ。ウチに来いよ、地球に住むなら。ウェールカームッ!」


 アマガが微笑んだ。

「それも魅力的でいいのですが、スズキはイヤなんですか、わたくしと暮らすのは?」


 進常という防波堤ができたので、鈴木も落ちついて答えることができた。

「いや、イヤとかじゃなくてやっぱり自分には早いかな、女の人と暮らすなんて。地球ってそういうとこだから」

「いま、わたくしたち一緒に暮らしてるじゃないですか」

「いや、これとそれとは違うんだよねー、地球基準だと。いまは作戦行動中っていうか、非常時だから……」

「あー、いいお湯だったー!」

 メリコが風呂からあがってきた。

 アマガ同様、進常の服を着ている。


 アマガがメリコに聞いた。

「この戦いが終わったら、メリコはどうするつもりなんですか」

「アタシ、地球に住みたい! スズキと一緒に暮らせればいいかなって」

「わたくしもスズキと地球で暮らしたいと思っていました」

「えぇっ! アタシのほうが先でしょ! スズキと最初に会ったのアタシだし! 順番守って!」


 モルゲニーが勢いよく口を挟む。

「なにをいう! そんな道理が通ったらわらわが不利ではないか! そんなの許せん!」


 キャアキャアと言い合いが始まった。

 当の鈴木は置いてきぼりにして。


 進常が号令を発するように声を出した。

「そんなことよりトンカツできたぞ! カツカレー食うぞ、者ども! 明日の勝利のために!」


 それで三人の異星人たちからの同居の申し出はお流れになった。一時的に。

 鈴木は内心ほっとした。

 鈴木からすればみんな好きだが、誰かと恋人同士のようになるには気が早すぎた。


 宇宙は広い。

 一度別れたら二度と出会えないのが普通なのかもしれない。

 だから、これといった出会いがあったときには性急ともいえる早さでことを進めるのが常識なのかもしれなかった。

 同居の申し出は、嬉しくないといえば嘘になるが、どうにも話が急すぎる。

 それにどっちにしろ、明日勝たないとお話にならない。

 鈴木たちが負ければ地球人類は滅ぶのだ。

 あんまり実感はなかったが。


 進常がトンカツを切り、鈴木がカレーを盛りつける。

 モルゲニー用の小サイズも作ってやった。

 食事が始まる。

 例によって「おいしい、おいしい」の大合唱。

 にぎやかな食卓となった。


 異星娘たちはたっぷりと食べ、鈴木と進常が順番に入浴しているあいだに寝てしまった。

 嵐の前の静けさか、この晩にはもうなにも起こらない。

 進常の予知が働くことはなかった。

 鈴木と進常もよく眠った。




 翌朝。残りのカレーで朝食をとった一同は、そろって鈴木の家へ向かった。

 今朝もセミが元気よく鳴いている。

 晴れ渡った空は雲もなく、

 日差しは強烈で、街ゆく人々は不安な様子もなく活気に満ちている。

 これから地球人類の命運を決する闘いがはじまるとは、とても思えない朝だった。


 鈴木家に入ると、唸るミッションシップの前で、一同は手順を確認した。


 鈴木が言う。

「モルゲニーちゃんに眠らせてもらったあと、全員でミッションシップへ乗る。メリコちゃんはマザーシップと連絡をとって、ぼくたちを倒したという。そしたら飛んでいって向こうへ突入。あとは通信機まで一気に踏みこむ。これでオーケー?」

「オーケー!」

 一同は同意の声をあげた。準備に入る。


 メリコとアマガはカムフラージュの地球服を脱ぎ、

 メタリックのカンパニースーツ姿になった。

 鈴木と進常が工作したサイコグラスも身につける。

 モルゲニーは頭の冠の位置を直した。

 鈴木はTシャツにデニム。進常はゆるふわワンピース。

 いつもどおりの格好だ。

 戦いに向いた頑丈な服でもあれば別だが、

 二人ともそんなものは持っていなかったのだからしかたない。


 進常は無重力でも予知をメモに書けるように、ペンを鉛筆に変えていた。

 準備ができたのはその程度のことだった。


 鈴木と進常は、破片に気をつけて床に寝そべった。

 モルゲニーの針を受けるためだ。


 進常はもごもごと言った。

「痛くしないでくれよ」

「ちくっとするだけじゃ。たぶん」

 モルゲニーは進常の首筋に尾の針を刺す。

「ぐがー……」

 とたんにいびきをかきはじめる進常。

 痛くはなさそうだと鈴木は安心した。

「じゃ、ぼくのほうも頼むよ」

「ちょ、ちょっとだけじゃぞ」

 少し恥ずかしそうに、モルゲニーは鈴木の首筋にも針を刺した。

「うぅーん……」

 鈴木も意識を失った。


「それではわたくしの出番ですね」

 アマガはカンパニースーツの力で、眠る二人を軽々と持ちあげた。

「じゃあみんな乗って」

 メリコが操縦席に入っていき、アマガとモルゲニーもそれに続いた。

 メリコはシートにつき、アマガは直立。

 モルゲニーは眠る鈴木の上に止まった。

 ミッションシップの操縦席はすし詰めとなった。


「スズキとシンジョーが映らないように気をつけてね、アマガ」

「わかっています」

 メリコは通信機を起動した。

「マザーシップ、聞こえますか、メリコ149です。応答願います」

 画面にサイコグラスをつけた若い女が映る。

 女は言った。

「メリコ149、確認しました。状況を……」


 そこで画面が切り替わった。

 女に変わって年配の男が映る。

 やはりサイコグラスをつけているが、眉が太く、あごが四角く張りだしていた。

 マザーシップの艦長、ハデット部長だった。

 この男が地球侵攻のボスである。


 ハデットはあごを振るわせて言った。

「メリコ149、無事だったか。直前まで超体と活動していたようだが、状況はどうなっておるんだ」


 メリコは口からでまかせを言った。

「数日間囚われの身となっていましたが、さっき、超体が油断したところを仕留めました。超体抹殺に成功しました。アマガ162も無事で一緒にいます」


 ハデットは凄みのある笑みを見せた。

「よくやったメリコ149! 帰還を許可する! おまえが戻ってきたら地球文明採集作戦の最終フェーズを発動する。これまでの分析でわかったことだが、地球文明は非常に好戦的な非人類が構成したものにしては利用価値が高いものだとわかった。この作戦が終了した暁にはおまえの苦労に報いて、特等社員に格上げしてやろう。今回の成果をもってすればわたしの辺境勤務も終わるだろう。晴れて中央星系に栄転だ。どうだ喜ばしかろう。メリコ149、おまえのような優秀なみどころのある社員は、わたしとともに来るがよい、連れていってやろう。勤続二十年、思えば波乱万丈の道のりだった。だが辺境勤めでも……」

「話なが……」

 メリコは思わずつぶやく。


 そのとき、メリコの背後で不穏ないびきが聞こえた。

「ぐー……」

 アマガは寝た。

 ハデットの話が退屈すぎて。

 腕から力が抜け、鈴木と進常がメリコの上に落ちてくる。


「ぎゃー!」

 メリコたちは狭い操縦席のなかで団子状になった。


 気分よく話していたハデットが血相を変える。

「そいつらはなんだ!? 原住生物ではないか! どういうことか説明せよ!」


 押し潰されそうになりながら、メリコは必死に取り繕う。

「これは標本、標本です! 幸運にもほとんど無傷で倒せたので、貴重なサンプルになるだろうと回収しました!」

「ならん! 捨ててこい! いや、貴様、サイコグラスはどうした!」


 メリコは画面に顔を押しつけるような格好になっていたので、

 サイコグラスが偽物だということもバレてしまった。


 開き直ったようにメリコは声を荒げた。

「地球人はいい人たちだよ! アンタはわたしたちを騙して人型生命体を侵略させたんだ! 違法操業で訴えてやるからね!」


 ハデットは顔を紅潮させて怒鳴った。

「貴様、精神侵襲を受けてるな! 超体を無力化したならそのままにしておけ、救援隊を向かわせる。帰還はならん! 本艦に近づいた場合は容赦なく迎撃する! 繰り返す、帰還はならん!」

「そうはいかないのっ! アマガ、起きて!」

 メリコは後ろ足で蹴飛ばしてアマガを起こした。


 アマガは事態を悟ってうろたえる。

「話が退屈過ぎて寝てしまいました。わたくしはなんということを……」

「もういいから! モルゲニー! スズキとシンジョーを起こして! 二人の力が必要になった!」

「まったくうまくいかないものじゃのう」

 モルゲニーは隙間から出てきて、鈴木と進常に針を刺した。

 二人が覚醒する。


 鈴木が目覚めたとき、身体がねじれて痛かった。

 操縦席のなかで全員がくんずほぐれつになっている。


 通信機らしきものの画面では男が怒鳴っていた。

「ばかもの! ばかもの! ばかものぉおおおおおー!」


 鈴木と進常はふたたび持ちあげられて、天井近くの余裕ある空間に逃れた。

 アマガの手の上で進常が言った。

「みなまでいうな。うまくいかなかったのはわかってる」


「これからぶっ飛ぶよ!」

 メリコはフレームアクセラレーターのペダルを踏んだ。

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