勝利へのカツカレー1
メリコとモルゲニーの諍いも長くは続かなかった。
ちょうど昼飯どきに達していたので、二人とも「お腹が減った」と戦うのをやめたのだった。
鈴木を巡る争いよりも食欲を優先するらしい。
食料は持ってきていたが、山のなかは思っていたほど爽やかではなかったので、
いったん進常の部屋へ帰ることにした。
薄暗く蒸し暑い森のなかより、明るくクーラーが効いていて涼しい部屋のほうがよい。
メリコが腹を鳴らし、アマガは寝、
モルゲニーは進常の運転に興味津々のなか、四十分ほどドライブして帰宅する。
部屋に戻ると、進常はリビングのテーブルの上に、リュックの中身をぶちまけた。
おにぎり、サンドイッチ、惣菜パンがテーブルの上に広がる。
進常は言った。
「さあ者ども、好きなものを手にとれ。モルゲニーはわたしの分を切り分けてやるから」
メリコは目を輝かせた。
「うぁあ! どれもおいしそう! 迷う! どれから食べればいい?」
鈴木が言った。
「まずカレーパンはおすすめだね。これ」と、カレーパンの袋をメリコに渡す。
アマガはハムレタスサンドを手にとった。
「わたくしはカラフルなこれにしてみましょう」
進常はカレーパンとサンドイッチをペティナイフで切り分けて皿に載せた。
それをモルゲニーの前に出してやる。
そのあいだに鈴木が全員分の紅茶を淹れた。
それで食事の準備が整った。
進常が席につく。
「さあ食べよう。いただきまーす!」
「いただきまーす!」
一同は声を揃えて言った。
モルゲニーもわけがわからず同じ言葉を復唱する。
「い、いただきます……」
メリコが勢いよくカレーパンにかじりつく。
モルゲニーも自分の顔ほどの大きさのあるカレーパンの切れ端を頬張った。
メリコが咀嚼しながら目を丸くする。
「おいしい! なんか甘くてしょっぱくてピリピリしていい香り!」
モルゲニーも頷いた。
「不可思議な味のハーモニーじゃ。スパイスの使い方も妙であろう。見事な一品じゃ」
二人は同時に決定的な感想を口にした。
「カレーパンおいしい!」
そして二人は顔を合わせ、和やかに微笑みあう。
「ふふふ……」
「ふふふ……」
その様子はまるで、旧知の間柄と思わせるほど仲睦まじく見えた。
微笑みあう二人を眺めて、進常が言った。
「鈴木くん見たか。この二人を。これが地球文明の力だ。一緒においしいものを食べると相争う異星人のあいだであっても平和が生まれる。平和とまではいえないとしても、ある種の同意が生まれることは確かだ。それが平和につながる」
鈴木はおにぎりを食べていた。食べる手を止めて答える。
「テホルル・ペットフーズの社員ひとりひとりに地球の食べ物を食べさせる機会があればいいんですけどね。それこそみんな仲間になってくれて平和的解決ですよ、きっと。ぼくの髪の毛も減らないし、進常さんも太らなくて済むし。なんかそんな方法があればなー。ないか……」
鈴木はアマガが無口になっていることに気づいた。声をかける。
「アマガさん静かですね。サンドイッチは口に合いませんか?」
アマガは口に残ったものを飲み下してから答えた。
「サンドイッチはおいしいです。地球の食べ物はどれもおいしいので、もう驚かなくなっただけです。このおいしさはわたくしに強い決意を与えてくれます。こんな、おいしいものが当たり前に出てくる地球文明、やっぱり滅ぼしてはいけません、宇宙の損失です。いままでテホルル・ペットフーズが地球のような優れた文明をいくつも滅ぼしてきた可能性を考えると、うすら寒い思いに因われます。そんなことあってはならないのです。チャンスのあるときに、つまりこのチャンスに、テホルル・ペットフーズを止めなければなりません。わたくしとしてはできることをするだけでしかありませんが、必ずミッションシップを直してみせます! 宇宙の命運はお二人にかかっています!」
熱弁に気押されるように進常は頷いた。
「お、おう……。殺らなきゃ殺られるだけだしな……」
鈴木も声を大きくした。
「ぼくもまだ死にたくありません! せっかくメリコちゃんやモルゲニーちゃんと友達になれたのに、それを失うわけにはいかない!」
メリコが身を乗りだす。
「スズキ! アタシを失いたくないのね!」
モルゲニーも勢いこんで言う。
「スズキはわらわを失いたくないのじゃ!」
鈴木は真面目な顔で言った。
「二人とも大事に決まってるじゃないか。ぼくたち三人は、異星文明が仲良くできるってことの証拠だ。地球の食べ物で宇宙に平和をもたらすためにも、ぼくたちは手を取りあってテホルル・ペットフーズを倒さなきゃならない。勝つんだ!」
進常が口を挟む。
「いいけどさ。その髪型、キンチョー感が出ないんだよ、君」
一同、どっとウケる。
鈴木はおかっぱ頭を指して真っ赤になった。
「これは地球を救った代償です! 名誉の勲章なんです! かっこ悪くても!」
メリコが笑いながらフォローする。
「だからカワイイって。そんな気にするな」
モルゲニーは驚いていた。
「なんと、スズキはもともとそんな髪型ではなかったのか!?」
進常が言った。
「まあ鈴木くんの髪型はまだ変わっていく可能性あるからね。髪が少なくなっていく方向で。可能性のある男だよ」
鈴木はすっかり肩を落としていた。
「あぁー、戦うのはやっぱイヤだなー。いけないよ、戦いは。髪がこれ以上なくなるのいけない……」
進常は唇を尖らせた。
「それでも戦いは続くんです! わたしの体重が増えていくように! さあ、みんなさっさと食べちゃって。今日はまだやることあるよ!」
五人の食事はにぎやかに続いた。
食事が終わって食休みも済ませると、今度は全員そろって鈴木家へ移動した。
もちろんメリコのミッションシップを直すためだ。
蒸し暑い家のなかへ入って、すべての窓を開ける。
そよ風が吹き抜けて人心地つくと、アマガが言った。
「ミッションシップはわたくしが直しますが、それとは別にサイコグラスもどうにかしなければなりません。わたくしたちの標準装備ですし、洗脳装置でもあるならば着用していないと怪しまれてしまいます」
メリコのサイコグラスは粉々になり、アマガのサイコグラスはメリコが丸めて壊した。
二つとも失われている。
鈴木は困った顔で聞いた。
「そんなこといわれても、ぼくたちにはそんなものを作る技術力ないよ」
「サイコグラスそのものであったら困ります。なんといっても洗脳装置なんですから。あくまで見た目だけ誤魔化せればいいのです。偽物のおもちゃでじゅうぶんなのですが」
「それならなんとかなるかな」
進常が口を開く。
「じゃ、材料買ってきて工作するか。まかせといてくれ」
そのようなやりとりがあり、
鈴木と進常はホームセンターや百円ショップを回って材料を集めてきた。
花粉防護ゴーグル、銀色のスプレー缶、プラスチックの板、接着剤など。
鈴木と進常はそれらの材料を使って、汗をたらたら流しながらせっせと工作した。
モルゲニーは暇を持て余して、キッチンの調理台でごろごろしている。
そこがいちばん冷たくて気持ちいいらしかった。
アマガは黙々と作業を続け、メリコはそれを手伝いながら、
ときおり鈴木と進常にサイコグラスの形状をアドバイスする。
鈴木は工作などずいぶん久しぶりだったので、思わず夢中になってしまった。
プラスティック板を細切りにして、花粉ゴーグルへ接着していく。
元来手先が器用なほうなので、サイコグラスの偽物もなかなかそれらしくなっていった。
進常のほうは鈴木の工作を参考にして作業を進めた。
銀色のスプレーでゴーグルを吹き終わると、鈴木は手を止めた。
「よし、完成」
「こっちもできたぞ」
進常もゴーグルにスプレーし終わって言った。
モルゲニーが宙を飛び回りながら感心した声をだす。
「すごいぞ、スズキ! 見事なものじゃの!」
進常が自分のゴーグルを指差す。
「わたしも褒めてよ」
「シンジョーのはそこらじゅうに指紋がついてて汚いぞ」
「これでも頑張ったんですぅー」




