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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
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大宇宙のルール1

 読んでいたプリントアウトを捨てるように置いて、


 鈴木翔夢すずき・しょうむは口を開いた。


「進常さんはなんでいつもおっさんで出てくるんですか?」


「わたしみたいな美人がそのまま出ても面白くないだろ。おっさんだから面白いんだぞ」


 ペンネーム進常椀富しんじょう・わんぷ、


 本名高橋美玲たかはしみれいはコーヒーを啜りながら答える。


 自分で言うだけあって顔は整っているが、スタイルのほうはさらに良い。


 スリムで出るところは出てる悩殺体型だった。


 普段からデニムに無地のシャツという服装なので、ボディラインは目立つ。




 見た目だけは優雅に伸びをしながら進常は聞いた。


「で、どうよ今作は? イケてるっしょ?」


「どうっていうか、やっぱ宇宙人とか飽き飽きですよ、進常さんの作品て八割がた宇宙人じゃないですか」


「カーッ、わかってないねぇ、この小僧は!」




 鈴木翔夢十四歳、進常椀富こと高橋美玲三十歳。


 二人は倍以上も歳が離れていた。


 センスのズレがあっても不思議じゃない年齢差だが、


 進常はあくまで鈴木にウケると思って書いている。




 はっきりとウケていないのだが、進常はまるで鈴木が悪いかのように口を尖らせた。


「宇宙には無限の可能性があるんだぞ。宇宙人がいないわけない。だったらそれを書かなきゃならないじゃないか、作家としては! このロマンがわからないのかい」


「てゆうか、作中のぼくも飽き飽きだって言ってるじゃないですか。ほんとは進常さんもマンネリだってわかってるんでしょ、宇宙人しか書けないだけで」


「そこはフィクションだろ! 容赦ねえなおめぇも! 宇宙人しか書けないわけじゃないもん! 好きなだけで! 宇宙人モノもまたいつか流行る! 流行は繰り返すってゆうし……」




 夏休みが始まったばかりの午後。


 鈴木家の居間である。


 鈴木の両親は昆虫の研究者で、いまアマゾンに行っている。


 二ヶ月は帰ってこない。


 その両親の師ともいえる存在が進常の両親だった。


 夫婦学者としてのノウハウを教授し、公私ともに親しく付き合っていた。


 その関係で、いまは一人暮らしの鈴木の家へ、進常が入り浸っている。


 進常の両親は一昨年、飛行機事故で他界していた。


 両親が遺産を多く残したので進常は無職で遊んでいられる。


 これは進常の創作ではよくある設定だったが、事実でもあった。


 ほかに無職であることに説得力のある設定を思いつけないらしい。


 無職の暇にあかして書いた創作小説を鈴木は無理やり読まされる。


 とはいえ、要求されたとおりに進常のことをペンネームで呼んでいるあたり、


 鈴木もつきあいは悪くない。




 家の外ではセミが元気に鳴いていた。




 夏の午後の気だるさのせいか、鈴木の口からつい本音がこぼれでた。


「ああー、一生に一度しかない十四歳の夏が、こんな小説家ごっこで終わっちゃうのかなー。ああー……」


 鈴木は自分で作ったレモネードを口に含む。なんとなくしょっぱいような味がした。




 我が家のごとく寝そべっていた進常が、タブレットをいじりながら聞いた。


「友達いないの?」


「進常さんこそどうなんですか?」


「いない」


 その率直さに、鈴木は言葉に詰まった。


 だが、なにか言い返さなければ負けると思い、慌てて口を開く。


「ぼ、ぼくは友達いますよ、いっぱい! み、みんな忙しいだけです!」


「なるほど。友達はみんな忙しくしてるのに君はひきこもりか」


「ぼくはゆったりマイペース派なんです! 知ってるでしょ!」


「知ってるけどさー。友達がいないこととか」


「あ? いま何つった」




 進常は頭をかいた。


「エアコンは快適だけど、せっかくの夏だし、ちょっとは外に出るかぁー。プールでも行く?」


「イヤですよ、進常さんとプールなんて。中年のおばさんと中学生が二人でプールなんて寂しさが増すじゃないですか、まるで友達いないみたいだ!」


「いないじゃん」


「ぐっ……」


 鈴木は黙ってうつむくと、しばらくして肩を震わせながら言葉を紡いでいく。


「お、お、おんなのこの友達が欲しい……です。可愛くて明るい性格で、みんなの人気者だけど、ぼくだけを特別視してくれるような、優しい女の子の友達が欲しいです……!」


「わたしも女の子の友達欲しー」




 家でだらだらしていても解決しない願望を口にし、怠惰にくつろぐふたり。


 不意に進常がペンを手に取った。


 放ってあった雑誌を開き、白い部分の多い広告ページになにかを書き始める。


「な、なんだこれ……?」


「落書きはやめてくださいよ進常さん。その雑誌まだ読み終わってないんだから」


「ちょっと待って。なんか書きたい……勝手に手が動くよ……まるで自動書記だ、なんだこれ……」


 ざざざっと書きなぐって進常の手が止まる。書かれた文字は……。




 もうすでにそこにいる


 右 左 右 撃て




「わけわかんないじゃないですか」


 鈴木が覗きこんで言う。


 そのとき、さっと空気がそよいだ。


 次いで、鈴を転がすような少女の声がする。


「やっぱり母星とコネクトした原住生物って侮れなーい。ウチらが来ること予知しちゃうなんて。こんな宇宙ゴミさっさと片づけちゃわないとー」 




 鈴木が振り返る。進常も目をそちらへ向けた。


 テーブルの前に少女が立っていた。


 ピンク色の髪をポニーテールにし、きらきら輝くメタリックなスーツを着ている。


 鼻と唇は瑞々しく整っているが目はバイザーに隠されていて見えない。




 少女はテーブルに置かれていた進常のプリントアウトを読み、


 ペラペラと何度かめくっていた。




 鈴木が口をわななかせる。


「き、きみだれ? ここぼくの家だけど……」


「聞きたい? すぐ死ぬのに?」


 少女は腰のホルスターから無造作に銃を抜きだす。


 いかにも光線銃といった感じのデザインで、


 とても本当の殺傷力があるとは思えない代物だった。




 少女は銃を顔の横まで持ち上げて印象的なポーズをとる。


「中央宇宙テホルル・ペットフーズ、対原住生物対策部、切込み社員メリコ149! まずおまえらを始末する!」




 進常の書いた掌編そのままのシチュエーション。


 メリコの名前までそのままだった。




 鈴木は緊張を解き、進常へ疑わしい目つきを向ける。


「けっきょく進常さんの知り合いなんでしょ? こんな凝ったコスプレまでさせて」


「だからわたしはいつも言っているだろう、宇宙人は必ずいるって」


「あーあー、暇とお金がたっぷりある人はいいなー、ホント羨ましいー」


 この事態にあって、二人の会話は微妙に噛み合わなかった。




 進常がメリコに聞く。


「で、あなた誰? その掌編、まだ鈴木くんにしか見せてないし」


 ここにきて鈴木は再び驚く。


「え、知り合いじゃないの!?  誰?!」


 メリコが鈴木に銃の先端を向ける。


「そろそろ撃っていい?」


 進常が慌てて手を振る。


「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って! 待って待って!」

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