第一話:白崎センパイは今日も綺麗
この学校の中で、一番綺麗だと思った。違う、今まで出会った人間の中で一番綺麗だと思った。透き通る金髪、白い肌、整った顔出ち。週に2回だけ見られるその姿。知り合いになりたいとも思ってなかった。そう、教室の窓から見るだけでよかったのに……。
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「岳!カラオケいこ!」
期末テストが終わった教室、机につっぷして寝てると晴れ晴れとした表情の晶が話しかけてきた。俺、晶、淳一、真の4人はいつもつるんでいて、期末テストの時はいつも帰りにカラオケ行ってファミレスのコース。
「せ、や、な゛ぁ~~ン!!って言いたいところやねんけど、初日やすんでもーたからこれからテスト続きやねん。先行っといて」
「はぁ?受ける意味なくね?まぁええわ、おっけ、いつもんとこね、部屋番号LINEするわ」
「おん。またあとで」
珍しく体調を崩してテスト初日に休んだ俺は初日の2科目分を最終日の今日に受けなければならず、1人教室でたいして答えられもしないテストに向かった。ジャアジャアとセミがうるさくて集中できない。いや、セミ鳴いてなくても集中なんてできないんやけど。監視してた先生も途中で用事があると出て行ってしまい、ぼーっと外を見る。真っ青な空に白い雲、机の上の数式との対比がすごい。もうこれ以上答えも埋まらんし、さっさと先生戻ってこんかな。はよ終わりにしてカラオケいきたい。しっかし、暑いなぁ。
……あ、王子。
窓の外、校内で1,2を争う有名人「王子」こと白崎センパイが1人校庭をあるいているのが見えた。1年の時から、王子が一度目に入ると視界からいなくなるまでずっと追ってしまう。週に2回、移動教室で3年の教室の前を通る時に目に入るだけやねんけど。話しかけたことも無いし、向こうはもちろん俺の存在なんて知らんと思う。別に知られたいわけでもない。でも俺の目はどうしても、彼を追ってしまう。
王子は1人校門を出て帰って行った。こんなに暑いのに、なんであんな綺麗なままなんやろ。って俺キモ!キモすぎやって。そんな自分の雑念を振り払うように再度テスト用紙に視線を落とした。
雑に終わらせたテストを提出し、あいつらが待ってるカラオケに向かうためにLINEを開くと部屋番号が送られてきていて<OK!>とスタンプだけ送る。うだるような暑さの中、AirPodsを差すと、ランダムで流れてきたフロントメモリーが心地よくて自然と早足になった。今日は何を歌おう。RAD歌うと淳一が暗いって言うんやけどあいつほんまわかっとらんね……
「はぁ?!っぁん?!!!」
角を曲がるとそこには大きな塊があり、少し蹴った。え、なに、人、え、え?!王子やん!ちょ、え???道端に王子が落ちとる。えっ、何?!どうしよ
「あ、あの、あの~?大丈夫っすか?」
「……う、ん」
顔を見るとでこまで赤い。苦しそうやし、これあれや、熱中症や。でも俺いま水とか持ってないし。人も全然通らんし。
「え、あ、立てます?あ、ダメそうやんな、え、どうしよ」
「……あ、おまえ……岳……あ、」
うずくまっていた王子は後ろに倒れそうになり、咄嗟に腕がでた。暑い、やばい、次の瞬間俺は荷物をほっぽりだし、王子をお姫様のように抱えて学校へと走った。