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プロローグ

「おお!生まれましたぞ!」

「これが次世代の王か……!」


「遂に人間と魔族の戦争を終わらせることが出来るものが生まれたか」

「王よ!この度は誠におめでとうございます!これで魔族の悲願も……!」

「うむ、我が息子のクレイが人間を滅ぼすであろう」


 はぁ、騒々しい。

 自分が生まれて盛大に喜ぶ親と家臣達の声を聞くのはこれで……


 〝2度目〟だ。


 ―――


 俺はただ平和に、楽しく暮らしたかった。

 旅の途中で出会った村娘と結婚して、木こりでもやりながら子供を育てる。

 夜には仲間で集まって酒を飲み交わすことが唯一の楽しみ。

 そんな平凡な人生で良かったんだ。


 龍人。

 しかも魔王の息子として生まれてしまった俺の人生は、生まれた瞬間から俺だけの人生ではなかった。


将来魔王になって人間を滅ぼすのだ、と言われ続け、

強制的に厳しい肉体と魔法の特訓、ひたすら続く勉強を毎日課せられていた。


10歳にもなると先生も相手にならず、覚えることは無くなってきた。

天狗になっていたのだろう、俺はもう一人でやっていけると思っていた。


平凡な生活を追い求めて、〝一度目〟の人生では魔王になるのを放棄し、世界を旅することにした。


旅に出る時は魔王である親父と殺し合いをした。

「お前は魔王になる者、勝手は許されぬ」とか言っていたな。

 じいが間に入らなかったら本当にどっちか死んでいただろう。

どっちかっていっても俺だろうけど。


今思い返しても親父はあの時、確実に本気出していなかった。

そんな無茶をして人間の世界に出たが、現実は残酷だった。


龍人である俺は、ぱっと見て人間ではないとわかる特徴が一つだけある。

それが髪色。

龍人は必ず白髪で生まれてくるのだ。


 この髪色を見た途端に人は泣き叫び、気づけば衛兵や冒険者に囲まれていた。

 何人か倒したら賞金をかけられた。

 そんな事があって自分の〝生まれ〟では普通の生活なんて出来ないって、すぐにわかった。


 無駄な争いはしたくなかったし、目立ちたくなかったから頭をフードで隠し、街を避けて旅をするようになった。

 そのうちに山小屋で暮らす老夫婦に出会った。

 山からほとんど出たことがない夫婦は、髪色による種族判別を知らなかったみたいで、俺を息子のように可愛がっ てくれた。


 俺はそこで人間の常識や価値観を知ることが出来たんだ。

 何年かは忘れたけど、そこで暮らした。

 木こりの手伝いなんかしながらゆっくりとした時が流れていった。

 戦いもほぼなかった、老夫婦の見ていないところで猪と素手で戦ったくらいだ。


 しかし、幸せの日々は突然終わりを告げた。

 今思い出してもはらわたが煮え繰り返りそうになる、あの日が来てしまった。

 

 勇者を名乗る人間達が俺を殺しに来た。

 山で木の伐採をしていた時に髪色を冒険者あたりに見られてしまっていたんだろうか。

 正直、冒険者が何人きたところで相手にもならないし、余裕だと思っていた。

 あの老夫婦にバレないようにサクッと殺して埋めてしまえば良いと。


だが、人間は弱い分、ずる賢いとじいに言われたことを忘れていた。

その日も山菜狩りをして、山菜料理でも婆さんに教わろうと思っていた。


しかし帰ってみるといつもと違う点があった。

いつも薪割りしている爺さんの姿がどこにもない。

家の中を見たら婆さんもいなくなっていた。


しかし見慣れない家紋のついた手紙が置いてあった。

【この罪人は預かっている。川を北に進んだ洞窟までこい】


罪人...?なんのことだ?

なぜ爺さんと婆さんが?

いや、そんなことよりもこれは俺にあてられた手紙だ。

急いでいかなければ。


洞窟の中には縄で繋がれた老夫婦がいた。

外部から接触できないように、入り口には結界が貼ってあるようだ。


洞窟の前で5人の男女がニヤニヤと笑いながら俺を待っていたようだ。


「なんだ、お前ら。とりあえず話を聞いてやるからその二人を解放しろ」

「クレイ!!あんたきちゃダメだよ!逃げなさい!」

「ありがとう婆さん、俺は大丈夫だから、ちょっと待っててくれ。」


「おい、クソ魔族。馬鹿な爺共を殺されたくなかったら抵抗するな。勇者アサロン様の手柄になって、さっさと死ね。」

「龍族を仕留められたら、またアサロンの名声が上がっちゃうねぇ!」


勇者だと......?


「ていうか、このジジイとババア、龍人を匿ってるとか正気か?こりゃ、どっちにしろ死刑だな。」


「りゅ、龍人......?そ、そんなはずは......。」

俺を見る目が、孫に向ける心配の眼差しから、異質なものを見る目に変わっていった。


「おいおい、白髪は龍人の特徴だろうが!そんなことも知らないでよく生きてこれたなお前!」

「あんたら二人はどうせ死ぬの、無知な自分達を恨みなさいな」


ゲラゲラ笑いながら老夫婦を馬鹿にする勇者一行

会話しながらも隙を探すが、どの角度から魔法を打っても老夫婦が殺される方が早い。


老夫婦の命を諦めれば、大魔法一発であんな奴ら消し飛ばせる。

だが、あんなに優しくしてくれた爺さんと婆さんを見捨てられるのか?


いや、俺にはできない。

無理だ。


「わかった、俺は抵抗しない。お前の名声の一部になってやる。だからその二人を解放しろ。」


「うわ、マジかよ、お前本当に龍人か?その言葉が本当ならこの魔法の縄で縛らせろ。

仲間を殺した瞬間にジジイ共の命もないと思え」


「わかっている。早くしろ」

俺の手足は拘束された。

「これで約束は果たせるだろ。俺はもう何もできない。さっさと二人を解放しろ。」


「あぁ、そうだなぁ!」

え......?


バサリ、という音の直後にドサッという音がなり、爺さんの首が落ちた。

その直後に婆さんの悲鳴が一瞬聞こえたが、もう一度同じ音がなり婆さんの首が落ちた。


「ああああああああああああああああああああ!!!」


喉から声が絞り出てきた。

叫びにならない叫びを上げた。

あの優しい二人がなぜ殺されたんだ。


こいつは殺さなければいけない。

今すぐに。

そう思うが魔法のロープを解くことはできない。

そして、


「うるせえよ。」


その言葉で剣が振り下ろされ、俺は死んだ。


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