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7/13

薫の指摘

「にいちゃん、うちは、まだ信じられへん。自分の目で見たのに。……中川さんが死んだと、納得出来ない」

 山田鈴子は、また、言った。

 そして、また新しいワインを開けた。

 (この人が、こんなペースで飲むのは見た事が無い)


中川のアパートに2人で行き

中川の亡骸を発見した日から2週間過ぎていた。


2週間の間に、新しい年になった。

鈴子は年末年始忙しく(聖は暇)

1月8日の今日になって

夜も更けてから

神流剥製工房に来た。


「結月さん、遅いなあ」

 鈴子は時計を見た。

「さっきラインが入っていました。もう近くまで来てますよ」


偶然、結月薫が今夜来ると言ってきた。

長らく会っていない。

コンビニでの聞き込みを頼んできて、それ以来電話でも話もしていない。

薫はずっと、忙しそうだった。


「寒い。雪積もってるやんか」

 結月薫が来た。


「刑事はん、雪道の単車は危ないで。アンタまで死なんといてや」

 鈴子は真顔で言う。

「今日はタクシーで来ましてん。先へ行くのは怖いと、県道で降ろされてん。何はともあれ身体を温めないと」

 下げてきたコンビニ袋から日本酒を出した。


「カオル、中川さんの事、何か聞いてる?」

 中川の死はすぐにラインで知らせた。

 既読になったが、返事は無いまま。


「うん。大阪府警の知り合いに聞いたで。事件性は無い。遺書があった」


「いしょ、」

 鈴子と聖は同時に反復した。


「ベッドサイドのテーブルの上に携帯電話の下にあったらしい」

 (遺書)と表書きした封筒が在ったという。


 ……あの日、

 2人で中川の遺体を発見した後

 速やかに部屋から出たのだった。

 遺体の近くにあった遺書は

 逃げるようにその場を離れたので

 見ていないのだろう。


「そうか。セイ、部屋の中も、何にもチェックしてないねんな」

 事件現場なら何一つ触れてはいけないと思った?

 それもあるけれど、

 もっと別の理由で

 あの場に、中川の側に居たくないと感じたような……。


「刑事はん、おかしな事聞くんやけど中川さんに間違いないんやな?」

 鈴子が質問した。

 聖も同じ疑問を感じていた。

 合理的では無い疑問を。


 あの時、中川なのに見知らぬ老人に見えた。

 そして目に入った室内の雰囲気(雑然とした、味気ない、チープな)が

 自分の知っている中川(ダンディ、おしゃれ、高級感)にそぐわない感じがした。

 見知らぬ人の部屋と、その死体が

 気味悪く、早々に外に出たのではなかったか?


「中川さんですよ。免許証の写真と確認しています。……同じ顔や。しかし、なんか別人みたいやったんですかね?」

 大事な事のように聞く。

 聖と鈴子は大きく頷いた。


「自分も、その点は気になっていたので遺体写真を見せて貰いました」

 と薫。

 

(順番おかしいぞ。遺体写真を見て、気になったんじゃ無いの?)

 セイの疑問は顔に出た。

 薫の鋭い視線は聖を通過して

 鈴子へ。


「社長、実は自分が中川を別人のようやと最初に感じたのはね、去年の夏やったと記憶しています」

「へっ?」

 薫が何を言っているのか

 聖も鈴子も全然わからない。


「何と言えば良いのか。……俺の中川人物像の把握が雑かったかと解釈していたんだが……」

 薫は、そこで言葉を止め、テーブルのワインを日本酒が半分残っているコップに

 注いだ。

(どうしたカオル? 動揺してる? らしくないぞ)

 聖は

 固唾を飲んで話の続きを待った。


「あのね、あるとき、多分夏のある日、中川に久しぶりにあって……良く似た別の人と

俺は思ったんです」

 だが、別人では無いとすぐに分かった。

 中川が自分に話しかける言葉、

 鈴子と聖の様子も

 目の前の男が中川ではないと、

 疑う要素は無かった。


「気にしないことにした。そして、以降中川に会う度に、良い人や完璧やと、プラスの印象が重なった。しかし、頭の隅に疑惑は残った。この人、はじめから、こんな人やったかと」

 どうですか、と鈴子に問う。


「刑事はん、あの人は2年前にハローワークの紹介で来たんや、経歴も雰囲気も問題無く、控えめな……、そうや、控えめで、印象に残らん気配のうすーい」

「あ、そうでしたよ。俺も初めて会ったとき気配を感じさせない人だと。元保険調査員と聞いて探偵みたいにステルスが身体に染みついるのかと……」


「で? 直近の中川は、そんな爺さんでしたか?」


「う、あ」

 と鈴子と聖はまた同時に妙な声を出し

 揃って首を横に振った。


 中川は居るだけで、特別なオーラを放っているような

 誰もが魅了されるような

 見た目綺麗で知的でカッコイイ、シニア。

 


 しかし薫が指摘したとおり、

 初めは、そんな男では無かったのだ。

 




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― 新着の感想 ―
[良い点] いやもう、剥製、ってのがめっちゃ効いてますやん。 ルリコ(仙堂)様、素敵です!!! [一言] 沢山の方に、また、作者様にも、わけわからなくても構わないです。 豊かなご創作世界に、心揺さぶら…
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