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今度は詩人が死んだ

山田鈴子は

他人の死を予知できた。

事故であれ病であれ

死が近づいた者の背後に

黒い影が見えると言っていた。


「ええ人やったで。職業は詩人と書いている。浮き世離れした芸術家タイプやね。身体は大きいのに少年みたいな綺麗な目をしてたわ。埋葬したチワワは16才やった。大切にされてたみたいやな。……裕福そうに見えたよ。車も身につけてる服や時計……綺麗な指。詩集置いて行った。まだ読む暇ないけど」




「4日前なら、影を連れている、筈ってコトですか?」

「そうやねん。私にとっては前例の無い経験や。なあ、何でやと思う?」

 問われて考える。


「社長の力が(理由はわからないが)消えてしまったのかも」

「私も最初は、そうかと。嬉しかったんや。人が死んだのに不謹慎やけどな」

 人の死を予知できるなんて

 重荷で怖い。

 無い方が良いに決まっている。


「そやけど、さっきデパ地下で、しっかり見てしまった」

 車椅子の老人が、黒い影を連れているのを見た。


「そうなんですか……なんでだろう。……すぐには思いつかない。でも気になるんで考えてみます」

「ごめんな。にいちゃんに聞いて貰っただけで少し気分が軽くなった。ありがとう」

 聖が、

疑問にすぐ答えられるなんて思っていない。

 同じ厄介な力を抱えている同士に、

聞いて貰いたかっただけのようだった。


「マユ、何でだと思う?」

 聖は生身のヒトで無いマユなら

 答えが出ると期待して聞いた。


「セイ、誰かが事故や事件で死んだ場合、他人は、想定外の思いも寄らぬと言いながら、どこかで、その人の運命だと受け取るでしょう。それはある意味正しいかも。4日前なら見える筈と社長は言ったのね。それは事故死の運命は4日前に決まってるってコトかしら」

「そうなのか?……なんだか恐ろしい話だな」

 

「たとえばね、乗った飛行機が墜落して死んじゃうと、するでしょう。その便に乗り合わせたのは偶然よね。なのに、四日前には決まっているのよ」

「なんで?」

 納得出来ない。

 非論理的ではないか

 非科学的な話なんだけど。


「アクシデントで搭乗予定変更は良くあることだよ。急にお腹が痛くなったとか」

「急にお腹が痛くなった、としましょう。何故、お腹が痛くなったか原因を考えてみましょう」

「腹痛……病気だろ。急性胃炎か腸炎か。神経性かも。元々胃腸が弱い、食べたものが悪かった」

「本人の身体に腹痛の原因があれば4日前に兆しはあるかも」

「食べた物が原因なら?……いつ何を食べるかなんて分からない。不可能だよ。先のことなんて……」

  

「先の事はわからない、それって予知など不可能ってこと?……社長の能力を疑うの?」

「疑って無いよ。当たったのは一度や二度じゃ無い。でもさ、俺が明日の昼に何を喰うかは明日にならなきゃ、俺自身にも分からない。その時の、食材と気分で決めるからね」

「推理してみては? 普段の行動パターンと冷蔵庫の中身から予測するの」

「……?」

どうして、そんなアホなコトするの?

口には出せず(マユには逆らえない)、作業室へ冷蔵庫と冷凍庫の中を見に行った。


「どう?」

「冷凍室の大きなアンチョビピザかな。多分」

今日解体したボーダーコリーで冷凍庫は飽和状態。

じゃまな食材から消費するのが、合理的。


「当たる確率が高い予測みたいね……それは予知と呼べるかも」

「でもさ、もしカオルがまたお好み焼き持って来たり、山田社長に御馳走になれば、俺のランチは替わるよ」

「そっちも推理して。可能性は高いの?」

 結月薫は最近有給を取って尋ねてきたばかり

 明日来る可能性は限りなくゼロに近い。

 山田鈴子はどうだ?

 今晩電話を架けてきて、

 明日会おうと言ってくるほど、暇じゃ無い。


「じゃあ、アンチョビピザで決まりじゃ無いの」

 マユは微笑む。


「いや、待ってよ……例えば大きな地震がきたら、昼飯どころじゃないよ。地震は推理できない」

「地震の予測できないけれど、地殻の都合は、もう決まっているんじゃないの。セイの明日の昼ご飯は、今の時点でほぼ決まってそうね。地震、或いは滅多に無いけど、隕石が落ちてきて死んじゃうアクシデントが無ければアンチョビピザね」

「そっか。明日の昼飯のバリエーションは災害で無しか、アンチョビピザの2択なのか」

「昼ご飯だけじゃ無いわ。明日セイが何時に何処へ行くか、アクシデントが無い限り、ほぼ決まってるかも」

「明日の予定……夕方に、例のコンビニに出るだけ。もしアポなしで客が来たら出れない。予想外のアクシデントでいくらだって予定は変わる」

「アクシデントね。セイにとってはアクシデントだけど、誰かがもう、明日此処に来る予定を立てているかもしれない。明日起こりうるアクシデントも今、決まってる」

 今、既に明日の運命は決まっているの?

 そういうものなのか 

 平穏でも突然死しても

 数日前には

 そこに至るアクシデントもスタンバイしてるのか。


 決まっているから

 鈴子は予知できる、のか?

 

「思い出したんだけど……マユは前に言ったよね。社長が見ている黒い影は、他所からきたモノではなく、死期が近い人の中から出ていると」

 地震の前にネズミが逃げると

 俗説にあるように

 死にゆく人の内部から

 何かが逃げて行くのだと。


「マユ、それは、何なんだろう?」

「分からないわ。……人間の脳ミソでは分からないモノでしょうね」

「人間のことなのに?」


「世界の現象をすべて解明できてはいないでしょ。だって生物は元々生命維持に必要な機能を与えられているだけ。数十年生きるのに必要な思考回路しか持って無いかも」

 山田鈴子が視ている黒い影が

 何なのか

 説明する言葉は

 待っていないと

 知らないと

 幽霊のマユは言った。

 

 <人間の脳ミソではわからない>

マユの言葉に

聖の能ミソの一部が勝手に反応し、

亡き父との会話を

生々しく再生させた。


小学生、低学年だった。

地球が凄い早さで回り続けていると知って恐ろしかった。

夜空に光る星が

今は存在しないというのも想像出来なかった。

何より、

宇宙が果てしない、のが理解出来なかった。

果てが無い?

宇宙エリアの先はどうなってる?

そっちも果てがないの?

果てが無いって、どう?

 

 疑問を父にぶつけた。

 何を聞いても、ゆっくり、わかりやすく答えをくれる父に。

 

あの時に

<人間の脳ミソではわからない>

 父は言ったのだった。


「山田社長が、死ぬ運命の人に、黒い影を視ているのは事実なんだ。なぜ今回は視なかったのか?」

「前例が無いと言ったんでしょう」

「うん。予測不能の事故死だったから、かな。運命を外れたアクシデント。ちょっと足が滑ってバランスが崩れて転倒しちゃった」

「事故、なのね?」

 問われて確かめてみた。

 続報が出ているかもと。


 結果、事故では無さそうだ。


(両手を挙げてバンザーイと叫んで、後ろ向きに飛んだんです)

(エスカレーターを上って降りて、何回もしてました。変な人やと。上がるときには後ろ振り返って見てましたね)


 目撃証言と防犯カメラ映像から

 A(42才)は故意に

 後ろ向きにジャンプしたと判明した。

 登りエスカレーターの上階に近い位置で。

 後ろに居た人たちはなぎ倒された。

不特定多数を巻き添えにした

自殺、であった。

目撃者が流した

事故直後の動画は

地獄絵巻さながら。


重なり合い血を流し

倒れ、動けない人たち。


「自殺みたいだよ」

「たまたま側にいた人たちを、巻き添えにしたのね」


 数秒前まで

 楽しそうに推理ごっこをしていた

 マユの微笑みが消えた。 




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