脅威
どこか高い建物の上から遠くの高いビル群を見ながら、パーカーのフードを被る人物がいる。
「教授の寿命が戻った......」
スマホを見ながらそう言った。 すると、影から黒いローブを纏う骸骨が現れた。
「キャハハ、間違いねえ、他の天使が人間にアプリを渡したな」
そう言って笑う。
「それにしても、自分の寿命を与えるとはきとくな奴がいたな」
胸を押さえながら言う。
「で、どうする。また寿命を減らすのか」
「......いいや、後にしておく」
「まさか、やめねえよな」
「当然だ......」
フードの青年は杖をついて立ち上がると、街の明かりを見ながら、
「これは、罰なんだ......命の価値を決める傲慢な者達へのな」
そう言って苦しそうに笑う。
「人間が使っている......」
俺が眉を潜める。
「ああ、それは人間にしか使えん......」
サマエルはそう言った。
「個人的な恨みか......それで俺にこれを渡したのは何故なんだ」
「......俺達、天使は、人の寿命が見える。 ここいらの人間の寿命が定まらないのさ」
「定まらない?」
「ああ、上は様々だが、下が2が多く行き来してる」
「どう言うことだ......下が2、2日、まさか......」
「ああ、あと2日で最悪、1000人単位で人が死ぬ......」
「なっ!?」
驚く俺に、サマエルは続ける。
「お前にそれを渡したのは、お前にチャンスをやろうと思ってな。 それで救える命がある......」
「......」
俺は言葉を返さず、パソコンを操作した。
「ノゾム、聞いてんのか、パソコンいじってんじゃねえよ......」
「......アプリを使う奴の目的を探ってるんだ」
「理由なんてないだろ。 ただの快楽殺人者じゃねーのか」
「だったら、何で教授だけ、他の人間と違って今日殺す必要がある」
「あっ......」
「そうだ。 犯人は確実に教授を殺したい理由があるんだ」
「でもよ、理由なんてわかるはずないだろ」
「......そうでもない。 快楽殺人者以外が、それだけの人間を殺そうとするなら動機がある。 狂ってようが思想や理念がな。 そして教授は生命倫理の専門家で、本の著作や講演、テレビ出演など、そこそこ有名人だからな」
俺はパソコンで命 授一郎で検索をかけ近くあった教授の講演やシンポジウム参加の情報サイトをサマエルに見せた。
「おい、ガイコツ、このサイトの中で最近、他にアプリで死んでる奴がわかるか?」
「ガイコツって言うな! あん? えっとなここにはねえ、他を見せろ......ここにもねえ......ん? ここ! こいつら三人は死んでるな!」
「当たりか......これは命を考えるシンポジウムか、出演者で死んでるのは政治家の人寄、弁護士の不護、そして宗教家の神無か、皆死刑廃止論者だな......特に有名な死刑廃止の急先鋒だ」
「と言うことは、死刑廃止をうたってる奴らを殺してるってことか......」
「まだ断定はできないが、だとしたら、殺人犯の被害者遺族、または反対の思想を持ってる奴か......」
「まあ、それがわかっても、犯人には近づけんだろう」
サマエルがあくびをして言った。
「接近はできる。 犯人は必ず教授を殺したいんだろ。 ならまた殺しに来るか、アプリで助けた俺の方を殺そうとするはずだ」
「なるほどな......向こうもお前を探してるってことか......」
俺はサマエルの方を見つめた。
「......なんだよ」
「......お前なんでそんなに熱心なんだ。 どう考えても真面目な奴じゃないだろ」
「見た目で判断するな! ......と言いたい所だが、あたっている。 俺がちゃんとやるのは仕事だからだよ」
「報酬か......金って訳じゃないよな」
「当たり前だ......報酬は寿命だ」
「寿命? なんだ以外に俗物だな。 天使が人とかわらないなんて、そんなに長生きがしたいのか」
「フン......所詮は人間だな。 価値観が狭いぜ」
「なんだと」
「俺が欲しいのは寿命を減らすことだ」
「......寿命を減らす」
「俺達、天使も元々は人間だったのさ、だが生前犯した罪で天使にされた」
「罪で天使に......」
「天使になると、途方もない寿命を与えられる。 最初は大抵喜ぶが、永劫に続く長い長い時間、あっと言うまにすることがなくなる。 そうまさに暇と退屈で気が狂いそうになるのさ、だから仕事をして寿命を、減らして貰うのさ」
「......」
その時サマエルが付けていたテレビを指差した。
「どうした?」
「こいつ、アプリで殺されたぞ」
「なに!?」
見ると画面には、明日大規模な反原発デモが計画されているニュースに速報のテロップがでていた。
「殺されたのは、志賀 翼か、10人無差別に殺した快楽殺人鬼の死刑囚が、突然意識不明か......おいノゾム! こいつ助けんのかよ!」
「仕方ないだろ......殺されるんだからな」
「......」
サマエルはこっちを見つめている。
「やはり、こいつに殺された遺族の線か......」
「殺してもお前にバレる......」
「死刑囚だから、ほっとくと考えたかもしれない......俺の存在に気づいてるから早く殺さないと、と考えたかだ」
「まあ可能性はあるがな......」
サマエルは、何かを訴えるように、こちらを見つめながら言った。