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懐かしい日々

それから王妃は静かに語ってくれた。


自身の娘である亡き王女、そしてルシアの母である、マリアのこと。

そんな王女の心を射止めたルシアの父――ルシエル・ウガルテのことを。


当時、王女には他国との縁談話が進んでいた。

いわゆる政略結婚というものだった。


王女は恋仲になっている騎士団長がいるから当然反対をした。

しかし、本人の意志とは裏腹に話は進んでいった。


そんなある日、王女は女神と黄金のドラゴンを祀る聖地である、コンティーゴ大聖堂への巡礼中、不慮の事故により亡くなってしまう。


護衛についていた騎士団長を含む騎士たちと共に、一行は前日の嵐によって氾濫する川に流されて遺体も見つからなかった。


それが、母親でもある王妃にも内緒で、王女が独断専行で立てた決死の作戦だったことを。



「ちょ、ちょっと待ってください。父が、騎士団長? 領主の圧政に耐えられなくて、おじい……他の領民と一緒にウガルテ村を作ったって。それに父は、子どもに剣術を教える先生だったって……」


おじいちゃん。それはウガルテ村村長でありルシアの祖父である、ヘラルド・ウガルテ。


村長が筆頭となって作り上げた村だからウガルテ村。

ルシアは幼い頃から、そう教えられていた。


王妃は可笑しそうに笑い声を上げた。


「間違いないわ。ルシエル騎士団長は有名な人よ。平民だったけれど、剣の実力を認められて準男爵になり、騎士団長にまで上り詰めた人。今でも民たちにとっての英雄で、騎士を目指す子供たちの憧れよ。私自身、彼以上の実力を持つ騎士は、未だお目にかかったことがないわ」


「えぇ……?」


ルシアは信じられないと言わんばかりの顔で呟いた。


というのも、生前の父親の姿からは、とても想像ができなかったからだ。


父は村の周囲に出る魔獣を討伐する、自衛団に所属していた。


団長になったという話は聞いたことがなく、常に後ろからみんなについて行き、薄くてボロボロの防具と剣で戦っていることは聞いていた。


父が家に帰ってくれば、返り血やら土汚れで汚いまま入ってくるなと母に怒られる。


母に叱られ、しょんぼりしながら汚れを落とすために井戸へ向かう父の背中は未だ脳裏に濃く焼き付いていた。


そんな父は、自衛団の仕事がない日は、村のこどもたちに剣術指南をしていた。


普段は木剣を使って素振りや打ち込みをする中、真剣を持ち出して稽古する人物がいた。

ルカだった。


ルシアも何度か、その練習試合を見学することがあったから、父が子どものルカに圧勝していたのは知っている。


だけど、ルカが成長するにつれて父が苦戦していっているのは素人目でも明らかだった。


そうして、ルカとルシアともに15歳になる頃には、父が試合に負けて膝をつく姿も珍しいものではなくなっていった。


魔獣の討伐で帰ってきた時も、ルカに負けて体中が土や切り傷まみれになっても、

父はいつもへらへらと人の良さそうな顔で笑っていた。

それがルシアの中の父だった。


(騎士団長。騎士団長……。やっぱりしっくりこないなぁ。城下町を巡回する兵士だったら、まだ納得できるんだけど……)


小さく唸り声を上げながら考え込むルシアを、王妃は気難しそうな表情で見つめていた。


「あなたは、本当にマリアそっくりね」


「え?」


母の名前が出てきてルシアは顔を上げる。

王妃は指で自身の目元を指で指し示した。


どこか懐かしそうに細められた目の色は、前世では見慣れて意識もしなかった懐かしい黒色だった


「若い時の姿と瓜二つよ。違うのは目の色くらいね。赤い目は、王国建国をされた黄金のドラゴン様と同じ色。そして髪は女神様の金色。これは素晴らしいことよね」


王妃が顔を横に向けると、背筋を伸ばして立っていた執事が笑みを深めて会釈をした。


(黄金のドラゴンの色? 女神様の金色?)


それは一体どういう意味か。聞き出せないまま、王妃の話は続いた。

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