<回想>三人の女性たち
この世界では魔法が存在する。
知ってはいたものの、実際に使える人のことや、魔法が込められたものを見聞きするのはこれが初めてだった。
灯台下暗しとはこういうときにこそ使うのだろう。
というのも、近年では使える者はほとんどいない。
故に、使える者は好待遇で王城内にある魔法の塔――魔塔で、研究者や魔術師として働けるのだという。
(前世で言うところの凄腕の本物占い師みたいな感覚よね)
例にならって自分も転生特典として使えるのではないか、と思ったことがあるも
この十六年間、そんな気配は微塵もなかった。
そんなことを考えていると、首にズシっと重みを感じた。
いつの間にか俯いた視界の中、ルシアは自分のペンダントが振り子のように揺れていることに気付いた。
慌てて顔を上げれば、そこには王妃が立っていて、目が合うとにっこりと微笑んだ。
「あらあら。退屈な話ばかりで疲れたみたいね。顔色も良くないわ」
「い、いえ。そんなことは……」
「さあ。謁見はこれまでにしましょう。いらっしゃい。一緒にお茶でも飲みましょう」
(いや本当に気分悪くないんだけど)
優しい声にも関わらず有無を言わせない口調に、貴族たちも自然と頭を下げていく。
王妃はルシアの手を取って立ち上がらせると、そのままスタスタと出口に向かって歩いて行ってしまう。
「王妃様。まだお話は終わっていません」
「いいえ終わりです。そんなにルシアを信じられないというなら、ペンダントを手に取ってごらんなさい。他の者が触れれば魔法の雷に打たれる。父からそのように聞いていますよ」
「くっ……」
ドレスの裾を摘み、王妃に駆け寄ろうとしていた側妃はその場で歩みを止める。
側妃の悔しそうな顔に、王妃はフッと笑うと、再び玉座に背を向けて歩きだした。
小さくも力強い王妃の手に引っ張られる中、側妃にぎろりと睨みつけられた。
美人の怒った顔は迫力があった。
恐ろしさに思わず、ルシアは肩を震わせた。