<回想>ペンダントに込められたもの
「お待ちください!」
祝福に包まれた、謁見の間の空気を断ち切ったのは女性の声だった。
歓声が徐々に小さくなっていき、それに合わせてひとりの女性が前に出てきた。
それを見た王妃の眉がかすかにピクリと動いた。
(誰……?)
「レアンドラ……」
「いくらマリア王女のペンダントを所有していたからと言って、平民を王族にするな、」
「側妃。今はそのようなことを言っている場合ではないでしょう」
側妃が言い終わる前に、王妃がぴしゃりと言い放つ。
玉座に腰掛けているとはいえ、高い位置にいる王妃の見下ろした目はルシアがいる位置からでも圧力を感じる。
傍らにいる貴族たちの顔もかすかに強張っていた。
しかし、側妃だけは違っていた。
「ですが! それだけで彼女が亡きマリア王女の娘という証拠になるのですかっ?
誰かが売ったり、何者かに盗まれたものかもしれないでしょう!
こんな小汚い娘が同じ王族だなんて、」
「レアンドラ・イネス・デ・レイビダルマ! 言葉を慎みなさい!」
ざわっと。謁見の間が再び喧騒に包まれる。
(小汚くて悪かったわね)
しかし、彼女の正体は判明した。
側妃、レアンドラ。
村育ちのルシアでも知っている有名人の中の有名人である。
というのも、ディオドラール王国では、貴族であろうと基本的には一夫一妻制をとっている。
だから側妃は簡単に言えば王の愛妾。正式な奥さんではないのだ。
彼女がその立ち位置を許されているのはただひとつ。
王の寵愛を身に受けていることにあった。
そんな側妃の話は本にもなっていて、語り部たちが側妃と王の恋物語を音楽と共に語る姿は街の風物詩にもなっていた。
(たしかに、きれいな人よね)
離れたところからでも分かる、鼻筋の通った小顔。
出るところ出てて、ドレスによって一層くびれが強調されているほっそりとした体。
そしてすみれ色の艶やかな長い髪。
しかしその表情は今や怒気の色で溢れかえっていた。
貴族たちを一瞥した後に側妃は目をつり上げながら玉座を見上げた。
側妃の視線にいち早く反応した、王がわざとらしい咳払いをした。
「そ、そうだな。側妃の言う通りだ」
握り締めた手を口元に近づけ、再び王が咳払いをするも、貴族たちのお喋りが止むことはなかった。
「王女が何らかの事情で手放した可能性もある。
王妃。決め付けるのは、い、いささか、早計ではないか?」
横目で王妃を見ながら言う王。しどろもどろな口調も相まって、威厳の有無は王妃とは比べ物にもならない。
王妃はため息をついた。
「皆も聞きなさい。このペンダントは、我が父である前王エドゥアルド王が特別に作ったものです」
王妃の言葉に、貴族たちの声が一気に小さくなった。
どこかしこと「賢王様の?」「それじゃああれは……」と聞こえてくる。
王妃にも聞こえていたのか、口の端は持ち上がって弧を描いている。
「皆も知っての通り、エドゥアルド王は魔法に精通していました。このペンダントも然り。魔塔の者に確認させたところ、所有者を制限する魔法が込められていることが確認できました。エドゥアルド王の子孫でないと持つことを許されないものだと、ね」
(魔法!)
ルシアは思わず立ち上がって叫びそうになった。