生き方は人それぞれなんです
ルシアが前世の記憶を思い出したのは去年――十五歳の冬のこと。村の収入源であるオレンジを収穫する日だった。
物心ついたときから手伝いをしていたルシアもまた、幼馴染のルカや村のみんなと一緒にはしごを使って作業をしていた。
もはや体に染みついている慣れた作業。その慢心が油断を生んだのかもしれない。
地面に降りようとしたルシアの片足がはしごの足場をとらえきれず、ずるりと滑る。
「あっ」
その衝撃で立てかけていたはしごもルシアの体と共に樹の幹から離れていく。
ルシアは倒れゆくはしごをしっかり握ったまま動けなくなった。
襲いくる浮遊感。時間がゆっくり流れる感覚。叫び声。後頭部と背中を打ちつけた痛み。
(あれ、前にもどこかで……)
薄れゆく意識の中。ルシアは自分を取り囲むルカや村のみんなの顔をぼう、と見つめる。
その瞬間。ルシアの目には二つの景色が重なって見えた。
少し高くなった空に、たわわに実るオレンジの木々。目を瞑ってでも歩けるウガルテ村。
もうひとつは、天にまで届きそうな灰色の建物と喪服のような恰好をした人々の群れ。
まるでアリの行列のようだった。
(あ。これって、職場の近くじゃん)
思い出した。直後、ルシアは意識を手放した。
そして、夢を見た。というよりは、追体験をしていた。前世の記憶、というものを。
ルシアの前世は、都心の会社で営業として働くキャリアウーマンだった。
自分に合っていたのか、特に努力しなくても彼女は営業成績がよかった。
そんな彼女を快く思わなかった男の営業社員たちからは「女のくせに」と陰口を叩かれ、浮いた話のひとつもない彼女を笑い飛ばした。
(仕事中に愚痴ばっかり……。自分が口にした言葉に相手がどう思うのか考えないから、クライアントにも煙に巻かれているって気付かないのかしら?)
なお、彼女がそれを知ったのは、元は先輩が担当していたクライアントが教えてくれたからだ。つまり客観的な事実と言えよう。
そんな人たちに負けたくなんかない。彼女は仕事に関する勉強を始めた。夜遅くまで働いて、ひとつでも多くの仕事をこなしていった。
結果、彼女は営業チームを束ねるマネージャーになった。
当時の年齢は三十三歳。独身。プライベートではゲームやアニメ、漫画や小説に沼……もとい熱を注ぎ、恋愛以外では割と充実した生活を送っていた。
そんな彼女の運命は突然だった。
役職持ちになったことで彼女を認めるようになった人がいる一方、より辛辣な態度をとってくる人もいた。その筆頭が、部下であるのに彼女より先に入社をした父親ほども年の離れたおじさん社員だった。
その日は、階段を降りようとしていたところを呼び止められてしまった。
混み合うエレベーターを待っていられなかったのだ。
そんな行動が裏目に出てしまい、彼女は立ち往生していた。