お茶菓子のお味は?
「どうぞ、お召し上がりください」
そう言って紅茶の入ったカップを置いたのは、黒い燕尾服がよく似合う、王妃付きの執事だった。
白髪に口ひげ、柔らかな表情は、思わずじいやと呼びたくなるような雰囲気がある。背景に広がる、手入れが行き届いた美しい庭園ともよく合っていた。
ルシアの前にはクロスの敷かれたテーブル。その上には花の絵付けがされたティーセットに香り高い紅茶、干しブドウに焼きたてのクッキー。
どれを取っても平民一か月分の生活費より高いものであることは、ルシアでも察することができた。
そんなお茶会の場を用意させた王妃はテーブルを挟んだ反対の席に座っている。
きれいな姿勢で座りながら、嬉しそうにニコニコした顔でルシアを見つめている。
(穴が開きそう)
王妃の瞳は太陽の光を思わせる金色。年の功か、王族故か、力強い眼差しは謁見の間の時とはまた違った居心地の悪さに襲われる。
ふと、謁見の間で王妃が宣言した言葉を思い出す。
(この人がお母さんのお母さん……おばあちゃん、なのね)
そしてルシアは王妃の子どもの子ども――つまりは孫であり、本当はお姫様。それが謁見の間で王妃が大々的に告げた、ルシアも知らなかった真実だった。
小さく身をよじってルシアは目を逸らすと、手前に置かれた丸いクッキーに手を伸ばした。
下の者から上の者に声をかけるのはマナー違反だと、どこかで聞いたことがある。
いつになったら質問できるのだろうかと思いながら、お菓子を口の中に放り込む。が――
(い……っ。岩みたい。で、甘くない)
奥歯を使ってもクッキーは割れなかった。
慌てて紅茶を口に含み、柔らかくなったところで何とか飲み込む。
ソーサーに紅茶の減ったカップを静かに置くと、ルシアはがっくり肩を落とした。
(こ、これが国で一番高貴な人のお菓子がこれなんて! 夢に見た、もっとこう……サクサクっとして、破壊的な甘さはどこに……?)
かすかに揺れる水面には、ショックの隠せていないルシアの顔が映る。
だが、気を取り直して隣にあった干しブドウを食べると、その表情が一瞬で明るくなる。
(甘いっ!)
新たな発見に、ルシアはひとつ、またひとつと食べていく。
口の中に広がる甘味は、ウガルテ村名産のオレンジとはまた違うまろやかな味わいで、用意された少し渋みのある紅茶ともぴったりだった。
(前世では好んで食べるものじゃなかったけれど、この世界じゃ甘味は貴重だから、いくらでも食べられちゃうわね)
ふにゃりと、ルシアは顔全体を使ったような笑みを浮かべる。
表情がコロコロと変わるルシアに、王妃と執事は顔を見合わせ、密やかに微笑んでいた。