予想外が大渋滞を起こしています
(ど……どうしてこんなことになった!)
ざわめき立つ謁見の間で、ルシアは顔を真っ青にしながら頭を垂れていた。
その先には、玉座にふんぞり返りながら冷めた表情でルシアを見下ろす男がひとり。
名は、ナシオ・パトリシオ・デ・ディオドラール。春の女神プリマヴェーラと、黄金のドラゴンにより建国されたという神話が残る、歴史あるディオドラール王国の国王である。
そして、どこにでもいる平民にすぎない(はずの)ルシアを突然、城に呼び出した人物のひとりである。
正直、王として以前に人としてその座り方はどうかと思う。
見た目はおじさん以上、おじいさん未満。そのうえ、権力もある男性が椅子にどっかりと座る姿はハッキリ言ってだらしがないし、かっこ悪い。
(せめて頬杖をつくのだけは、やめたらいいのに)
そう思う一方で、ルシアは心の片隅では感謝をしていた。
というのも、平民が王族に謁見するなんて、天地がひっくり返ってもおかしくないくらいの出来事であるからだ。
おまけに、用意された乗り物が神獣である二頭のユニコーンが引く豪華絢爛な馬車だった。
表現方法に左右反転を追加しても控えめなくらいだ。
そんなこともあり、使者を通して「今すぐ登城しろ」という王命が下されたルシアはガッチガチに緊張していた。が、今は周囲をさり気なく観察するくらいの余裕があった。
威厳が脱走している男の隣には空っぽの玉座。
王が座っているものよりも明らかに金の装飾が多い。
王が座る場所を間違えているのだろうか。なんて思いそうになるが、先ほどまでそこには一人の女性が座っていた。
玉座の主はグロリア・エマ・デ・ディオドラール。この国の王妃であり、謁見の間から突如いなくなって、現在の何ともいえない空気を作り出してしまった張本人である。
(早く戻ってこないかなぁ)
王妃が玉座を離れて、かれこれ数十分が経っていた。その間、ルシアの顔はずっと地面に向いている。
ルシアは頭を動かさずに目だけ横に動かした。
謁見の間には、今回のために呼ばれたというたくさんの貴族たち。色とりどりのドレスや金銀に宝石を身に着けた恰好は、同じくらい煌びやかな謁見の間に馴染んでいた。
(それに対して私は)
ルシアは自分の恰好に目を向けた。
形の崩れたヨレヨレの靴に、色もデザインもどこかパッとしない服。
一般的な庶民の恰好だが、この場の誰よりもみすぼらしい姿である。
そのためか、彼らはどこか怪しむような、哀れむような眼差しをしている。
ルシアはさりげなく身なりを整えると小さくため息をつく。もう何度目になるか分からなかった。
(だって仕方ないじゃない。アポイントもなしに城に来いって言われたんだもの。ドレスを用意する時間なんてなかったし……)
(っていうか、そんなお金あったら砂糖とか大量に買ってお菓子作りするってのコノヤロー!)
そんなことを言えたらどんなに楽だろうか。
誰に言えるわけでもない愚痴を胸の内で叫び、居心地の悪い状況をなんとか紛らわした。