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ラムネs' in 世界

作者: 夏乃イロ

 じくじくと体の外を蝕むような。日差しの暑さから逃れるように木陰に身を隠すと、ふわり、と優しい風が頬を撫でた。




 特に何もすることのなかったその日、暇だしゲーセンにでも向かおうかな、中なら涼しいだろ、なんて調子にのって家を出た。

 それが不幸の始まりというか、そもそもは天気予報を見ればわかることだったから、自業自得なのだろう。



 その日は異様に暑かった。何も考えたくねぇな、なんて顔をしかめれば、眩しい太陽の光が目に入ってくる。

 もともとアウトドア系の自分はそれが嫌い、というわけではなかった。


 普段なら、自分の脳を覚醒させてくれるそれは、ぐらぐらと湯立つような脳みそには相性が最悪で。この感覚は目眩、というのだろう。とにかく頭がいたくて、どこかに寝転びたいな、なんて思って足を進めていた。

 ジジジ、と蝉の鳴き声がやけに煩くて、体のどこかに留まってるんじゃないか、なんて錯覚さえ感じるほどに。

 ぷしゅ、と爽やかな音が耳に刺さるように聞こえてきた。それは耳障り、とかでもなく、ただただ自分にとって魅力的な音で、思わず足を止める。

 行きつけの駄菓子屋。外を煩いほどに駆け回る子供立ち。中は冷房が効いてるだろうな、なんて思っていたら、いつの間にか体は木造のそこに滑り込んでいた。




 しゅわしゅわと弾けるような、ポップというのが丁度しっくりくるような、そんな音。

 手はベタついていたが、からんころんと可愛らしく鳴るガラス玉のお陰でそれもどうでもいいな、なんて考えていた。


 やはり、ラムネ瓶のデザインは素晴らしい。見ていて飽きないし、何よりも絶妙な飲みにくさがあるところが。

 単純に俺がそれから液体を飲むのが苦手なだけかもしれないが、それ以上に突っかかってくるガラス玉がうざったくて、それでもってなんとなく愛着が湧く。


 からころ、と紫色の線が入ったそれを眺めていると、某アプリの通知音がぽこん、と鳴った。


 いそいそとステテコパンツでベタついた手を拭き、片手にガラス瓶、片手にスマホの構図を作り出す。

 そこにあったのは友人からのメッセージで、GIF画像で作り出されたアイコンになんか腹が立って、通知をオフにしてやろうかと思った。

 でも、俺は優しいから見てやろう、なんて神様気取りで見てやるのも悪くはないな、と慣れた手付きでロックを解除した。

 添付された喫茶店のクリームソーダの写真が一番に目に入ってきたかと思えば、また通知音。



『なあなあ』



『これからゲーセン行くんだけどさ』



『お前も行かない?新しい格ゲー入ったらしいし』



 メッセージを見て、目を丸くした。そして、一人笑みが溢れる。なんだよ、こいつ。おんなじこと考えてやがる。


 俺もおんなじこと考えてたんだけど、なんて女々しい文章を送るのは恥ずかしかったから、OKの意味を込めて、よくわからない動物のスタンプを押してやった。

 既読はすぐにつき、まだ家を出てないか、この炎天下のなか、スマホ見ながら歩いてるんだろうな、バカだな、なんて鼻で笑う。


 せっかくだし、アイツのアイスでも買ってやろうか、なんて思ったが行くまでに溶けてしまうだろう。

 じゃあ……なんてきょろきょろと辺りを探し回っていると、面白いものを見つけた。



「北極キャンディー?こんなのあるんだ」



 駄菓子屋なら駄菓子!ではなくアイスとか10円のコスパのいいお菓子ばっかり買ってきた自分は、200円の棚なんてまじまじと見たこともなかったし、商品名からして夏限定のお菓子かなにかだろう。

 ふうん、と鼻を鳴らしていたものの、気になってとりあえずひとつ、購入。


 どんなものかと口に突っ込んでみると、ひんやりとした感覚が口のなかを襲い、ミントかメンソールかな、なんて冷静になった頭が考えていた。

 アイツ、別にミント嫌いなわけではなかったし、買っていってやろう。あとは……


 そう考えていると、自分の腰ほどの高さの冷蔵庫に入れられていた、統一されたガラス瓶を思い出す。

 ああ、あれをアイツに渡すのもありかもしれないな、夏の間は気圧で吹き出す可能性だってあるし___そう思った頃には100円するそれをレジに置いていた。


 いつも店番しているおばあちゃんとは違う、優しそうな女性がまた来たのか、と言わんばかりに首をかしげていた。


 はは、あいつめ、今に見てろよ。お前にもベタベタをお見舞いしてやる___にやにやと笑っていると怪訝そうな顔をされ、かさり、と紙袋に物が入れられ、渡された。ああ恥ずかしい。外の熱とは別の熱が顔を包む。



 じわじわとガラス瓶に付着した水蒸気だったそれらが紙袋を濡らす。ああ、楽しみだな、アイツの驚く顔。

 アイツより先についてたらどんな顔するだろうか___

 そんなことを思いながら少し軽い足取りでゲーセンに向かった。



 相変わらず外は暑いし、くらくらすることには変わりない。だから、だからこそだろう、紙袋の中のひんやり冷たいそれは、暑苦しいこの世界で、他にはないほどの存在感を放っていた。

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