第14話 賭け
-ケルビィ視点-
次の攻撃が最後ですかね。
これまで二人の攻撃を全て捌いた彼女は心の中でそう思った。
ケルビィは桜に教えた付与系の魔法と空に教えた斬翔と一部のスキル以外を知らなかった。
故に先程の桜の光弾や火弾を初見で避け空の斬翔を受け流した際に、技のレパートリーは二人ともまだ多くはなく威力も想定内で自身の驚異とはなり得ないと考えていたからだ。
ポーションを飲んで最初の様に自身を挟んで身構える二人に、今日初めて自身の持つ攻撃用のスキルを使う構えをとった。
「白天剣舞 壱ノ型 瞬閃」
最初に円に入って来た空に対し技を繰り出す。
白天剣舞は壱~拾と終ノ型の11種類からなるスキルであり、“壱ノ型 瞬閃”は一部例外を除く全てのスキルの中で最速と言われる技であった。
この攻撃で二人を倒して終わり。そう確信していた。
……だがその刃を空は避けた。
予想外の展開に驚き、僅かに動きを止めた。
すぐに空からの攻撃を予測し回避行動に移ろうとしたが背に光弾が当たりほんの少しだけ体制を崩す。
ここで“違和感”を覚えたが間髪入れずに光弾が迫って来ていたので1度その思考をやめ回避に専念した。
後にその判断が戦闘を左右することになることに気付くこと無く。
昨日二人のステータスを確認した時は両方レベル25であり、レベルが700を越えるケルビィにはかすり傷にもなりはしない。
だが数十発もある光弾に当たり怯んだ所を以前空に教えた吹き飛ばしの効果を持つスキル、斬波を受ければ円の外に押しきられてしまう可能性もあった。
そして彼女の読み通り空は斬波を放つ構えをしていた。
だかここで彼女は自身の読みと”違う部分“にさらに違和感を感じた。
最初の一撃以外全ての光弾を避け、怯んでもいないのになぜそのスキルを放とうとしたのかと。
そしてそのタイミングで後方から桜がこちらに向かって走って来ていることに気付いた。
「白天剣舞 弐ノ型 輪閃」
とりあえず今の状況をどうにかしようと初めの辺りで桜が全方位から放った魔法を消した様に、自身から一定の間隔を保ちどの位置からでも迎撃出来るスキルで空と桜に対応しようとした。
「…そう言うことですか」
この時に気付いた。
どちらかを防いだ所でもう片方の攻撃が当たってしまうことに。
桜が全方位から魔法を放った時はそれぞれの弾にラグがあったからこそ全てに対応出来た。
だが今回はすでに至近距離で斬波を放とうとする空、自分自身にかけた身体強化の付与魔法を使って目前に迫っていた桜、二人の攻撃が干渉出来る距離に来るタイミングがほぼ同じだったのだ。
ならば明確に現状自身を吹き飛ばす可能性のある空に輪閃を放つ。
ここは一度距離を取って二人が円の外に出るまでに迎え討つのがベストですかね。
桜の攻撃を受けてでも距離を取ることを優先した彼女の判断は正しかった。
ただしそれは、“桜が攻撃を仕掛ける”場合の話であった。
「…えっ!?…」
二人の行動に思わず驚き声を漏らす。
桜は攻撃せずケルビィにしがみつき、それで動きを止めた所に空が斬波を放ったのだ。
桜ごと吹き飛ばされ、踏ん張りはしたものの自身の片足が円の外にはみ出していることに気付く。
「まさかそんなそんな手段を選ぶとは思いませんでした。」
私ならともかく同レベルである桜さんが空さんの攻撃を受けて無事でいれる可能性は低い…それは二人とも理解出来ていたでしょう…。
「はぁ…はぁ…へへっ、どうですかケルビィさん。」
桜はそう言った後、意識を失い倒れる。
その奥では満身創痍だったであろう空もその場に膝をついていた。
「ルール通りこれで終わりですよ。」
私は抱き止めた桜さんにそう声をかけた。
…私は考えを改めなければならないのかもしれない。
けど、まずは“彼”に確認する必要がありそうね。