淑女とか令嬢は緊急事態に不要
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私とクリスの出会いはまた追々語るとして。
王太子の婚約者であり、学園の女子生徒たちから圧倒的人気を誇るクリスの元へ私は走った。淑女とか令嬢なんていう言葉は緊急事態には要らないのである。
クリスの情報網により、あと2人、ストーカー被害に遭っていたご令嬢たちが特定された。
そしてそのご令嬢たちが人目に付かないように聞き取りをし、クリスと私と学園関係者で張り込みをしたのだ。ちなみに、学園関係者というのは用務員のおじちゃんと学園長だ。大事なことなのでもう1回言う。学園長も張り込みをした。しかも、学園長とは王弟殿下である。中々快適な張り込みだった。学園の天井裏でお菓子を食べながらみんなでトランプしたんだよね。用務員のおじちゃんの一人勝ちだったけど。
みんなで楽しい張り込みをして、その結果、なんとエリオット・グルーバーが件のご令嬢たちの机に例のブツを入れるのを目撃したわけだ。楽しい張り込みの話もまた追々話そう。
やばい~、姉の婚約者がストーカー男とかどうしよう~となっていた矢先に、姉の駆け落ちだ。
私はゲスなことに、エリオット・グルーバーがご令嬢たちをストーカーしていた件をここで使えると思ってしまったのだ。このゲスな考えは、ちゃんと事前にクリスにもルカにも話した。ご令嬢たちもあまり広く知られたくないと言うので私のゲス案は承諾された。
ルカは王太子殿下にまで話を持って行ってくれた。
姉はこのストーカーの件については全く知らない。エリオットが自分の好みではない濃い顔になりだしてから、姉は婚約者に興味なんてなかったし、学園に入ってからは忙しいと言って最低限の交流しかしていなかった。
さて、回想はここまでだ。まずは目の前で素知らぬ顔を決め込んでいるコイツをぎゃふんと言わせねば。
「学園関係者が張り込みをして、犯人を特定しました。そしてこの件を知った王太子殿下が、手紙の筆跡鑑定を行ったのです。その結果がこちらです」
ルカはさらに紙を取り出す。エリオット・グルーバーが課題として提出したレポートと王宮のベテラン専門職員による筆跡鑑定の結果だ。
「学園関係者の目撃情報、および、筆跡鑑定から一連のストーカーを行っていたのはエリオット・グルーバーであることが判明しました」
「なにを……僕のレポートまで持ち出して筆跡鑑定の偽証ですか?」
エリオットは先ほどよりやや顔色を悪くしているが、気丈にも偽証と言い放つ。
「偽証ではありません。ちなみに、あなたがご令嬢たちの机に何かを入れて出て行くところを目撃したのは学園長です。そして、この筆跡鑑定は王宮のベテラン職員が担当したものです」
ルカの言葉に顔色を1番変えたのはグルーバー伯爵家の当主だった。エリオットもやっと真っ青になっている。
まぁ、今のルカの言葉は、「お前、王家と花形の王宮職員を侮辱してんのか? てめぇが王宮で働けると思うなよ」というニュアンスが含まれている。
「王太子殿下はこの件を知って大変嘆いてらっしゃいます。公表も致し方ないとおっしゃってますが……ご令嬢たちのことも考えると……ここは穏便に済ますこともお考えです」
あの腹黒い王太子が嘆くわけない……。めっちゃ笑顔で怒ってはいたけど。
「お、穏便にというのは……?」
ここで、グルーバー伯爵家の当主が貴族の駆け引きなんてどこかに置き忘れて質問してくる。
「この件が公表されたら、婚約者がストーカーしていたことに心を痛めたペネロぺ嬢が失踪したと皆さん、思われるでしょうね」
ルカは直球で要求を言わず、じわじわと攻める。
しかもこのセリフを放つと、後は自分で考えろとばかりに沈黙である。
ずっと目の前の2人を見ているのも疲れるので、隣の父の頭に目をやる。うーん、お父様、やっぱりあのお茶は効果ないと思うのよ。