鼻歌とスキップとダッシュ
お読みいただきありがとうございます!
頭に?マークを浮かべながら、当主は紙を手に取ってすぐに顔色が悪くなった。残念ながら、大変わかりやすい。エリオットはほとんど表情を変えない。眉を少し動かしたくらい。
ちなみに、うちの父には空気になってもらっている。
「これが何か?」
「これは学園で複数名のご令嬢たちの机に入れられていた手紙です。少し読み上げてみましょう。『君はいつも地味な恰好をしている。君にはグリーンよりもピンクなんかの方が似合うはずだ。君の婚約者は何も君のことを分かっていない』あー、これはわりと最初の頃の手紙ですね。えっと、あ、これこれ。『僕の方が君のことをよく分かっている。なのになぜあんな低俗なカフェに行ってあんな男と嬉しそうにしているんだ。僕とだったらもっと高級な場所に連れて行ってあげるのに』うーん、読んでても気持ち悪いですね。もっとマズイ内容の手紙もあるんですけどね」
ルカリオスはやや芝居がかった様子で手紙を読み上げ、ニヤッと笑う。
当主は可哀そうなくらい顔が青くなっている。
「まぁ……この手紙はいわゆるストーカーというやつです。手紙と一緒に花や小さい贈り物が机に入れられていたりしました。ストーカーに悩んでいたご令嬢たちをたまたまフランシーヌが発見して、このことが発覚しました」
私は神妙な顔をして頷く。私の人徳によって相談を受けたとか、冴えわたる頭脳によって見抜いたなら胸を張れるのだが……。
気色悪い手紙が机に入れられていたのは、男爵家や子爵家の大人しいご令嬢達だった。みんな小柄で可愛いく婚約者がすでにいるという共通点がある。
ある日、私が誰もいないからと学園の廊下を鼻歌を歌いながらスキップしていたら、曲がり角で今にも泣きだしそうな真っ青なご令嬢とゴッツンコしてしまったのだ。
あまりの彼女の顔色の悪さにヤバい!私がぶつかったせいか!と思った私はすぐにご令嬢を医務室に連行した。
そのときに彼女が握りしめていたのが気色悪い手紙である。その手紙がたまたま床に落ちたのを、私がたまたま読んだだけだ。好奇心マックスだったのは否定しないけど、いやぁ気持ち悪かった……。
そのご令嬢はストーカーに悩まされていたのだ。今のところは机にいつの間にか入っている手紙と贈り物だけだが、手紙にはご令嬢が休日に出かけた先でのことがサラリと書かれていたりして、私と違って大人しいご令嬢は恐怖に震えたのだ。どこでも見られている感じがして気が休まらず、誰かに言ったらその人にも被害が及ぶのではと考えたご令嬢は誰にも相談できずに段々精神的に追い詰められていたのだ。
その話を医務室でなだめすかしてご令嬢から聞き出した時、私は激怒した。私は婚約者はいるが、男女の機微などまるで分らぬ。あ、なんか怒りのあまり口調がおかしくなった。
とりあえず、私の怒りはコソコソしてないで表へ出やがれ、である。
そこで、私は怒りのままにスキップではなくダッシュでクリスの元へ向かったのだ。
クリスとは、クリスティアン・マクベス公爵令嬢のことである。やんごとなきお生まれの上に、なんと王太子殿下の婚約者である。ちなみに王太子殿下とは、私とルカの出会いのお茶会で嘘くさい笑みを張り付けていた王子だ。間違っても私がエルボーを食らわせた方ではない。