話し合いに向けて
お茶会の翌日にルカは両親とともにうちへやってきて、なぜか私と婚約したのよね。
しかも会場にいたオールバックイケオジがルカの父親で宰相様だなんて知らなかった~。
あの時もうちの両親は子供の私が情けなくなるくらいオロオロしていた。まぁ急に公爵家が婚約してくれときたらビビるよね。私もビビった。
ルカとしては王族へのエルボーと蹴りが良かったらしい。
でも、姉が「妹が先に婚約するなんてずるい!私も婚約したい!むしろ私が婚約すべき!」と駄々をこねてそれを宥める方が大変だった。姉としてはイケメンと婚約出来る私が羨ましかったのだろうが、昨日あんた王子にすり寄ってたじゃん…とツッコミを入れたかった。
ちなみにうちの両親は姉とルカとの婚約をすすめたが、姉の態度を見たルカのお母様に迫力のある笑顔でばっさり断られた。
「亡くなった妹に似てるから結構よ」
とのことだった。その一言で屋敷中が静かになったが、まぁその理由は追々。
にゃあみゃあ
「お姉さまはあなたを連れて行かなかったのね」
餌が欲しい時にしかすり寄ってこない姉のネコが、あざとく可愛く鳴きながらサロンに我が物顔で入ってきた。こういう悪びれもしない堂々とした態度は姉そっくりだ。
この白いネコは姉が10歳くらいの誕生日プレゼントに親にねだってうちに来た。ねだったわりに世話はしない、しかしネコを触りたいだけ触るので残念ながら懐かれていない。そして駆け落ち先には連れて行かなかったようだ。飼育放棄である。まぁ、姉よりも使用人に懐いているから連れて行かない方がネコにとって良かったかもしれない。
私は同じ年にイヌを飼うことを許してもらった。名前はアレックスだ。ルカがアレクサンドル1世なんていう壮大な名前を候補として出してきたことがこの名前の発端である。
ネコがルカの方にすり寄っていくのを見て、ルカが持ってきてくれた書類にもう一度目を落とす。
姉はちゃっちゃと入籍済だった。駆け落ちした日に入籍していたから気づいたときには既に手遅れだった。相手は中堅商会の跡取り息子である。でも跡取り息子なだけで商会ではまだまだ下っ端だ。彼の親、つまり商会のトップが買い付けに長期間出かけている間に入籍しているから親は知らないのだろう。ちなみに姉はその商会跡取り息子の家にいるようだ。
役所関係や姉の行き先はルカが公爵家の権力を使って調べてくれた。私の方はどうしてもグルーバー伯爵家との話し合いの準備に時間を割かないといけなかったからだ。
「明日が勝負だね」
ルカはネコを撫でながら言う。私はため息を吐きながら頷いた。
母は姉が入籍済みと聞くとまた倒れてしまった。倒れたい気持ちは分かるが、倒れても何も問題は解決しない。明日の話し合い、上手くいくといいんだけど。