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プロローグ

 付き合って7年になる彼氏がいた。初恋は実らない、そんな言葉を覆してまるで夢か何かのように彼の方から告白してくれた。

 嬉しかったし幸せだった、5つ年上の大人な彼のことが大好きで幸せだったし、遠距離で中々会えない環境であっても私の気持ちが変わることはなかった。

 初めてデートした日のことも、一緒にお祭りに行ったことも、彼の家で手料理を振舞ったことも、全部鮮明に覚えている。


 何度も、何度も繰り返される春夏秋冬の中で刻まれていく思い出たち。

 お互いのことを知りすぎて、話せないことは無かったし、ドキドキの気持ちは安心感へと変わっていったけど、それでも歳を重ねるごとに、いつかは一緒に暮らして、結婚して家族になるんだろうと……そう思っていたのに。



 久しぶりにお互いの仕事が落ち着いて、会えることが決まった。

 数ヶ月ぶりのデートに胸も躍っていたし、約束したその日は彼との記念日で、付き合ってから7年目となる大切な日だった。


 その日はいつもよりお洒落をして、古本屋の仕事中もなんだか浮かれてしまっていて、ソワソワとしていたのが店主にもバレバレなほどだった。

 そして、午前中で済ませた仕事の後、待ち合わせ場所である喫茶店に行き、席を取る。

 まだかな、なんて落ち着かない様子でスマホを操作していると、店内に来客を告げるベルが鳴り、彼がこちらへと歩いてくる。


 その姿に何故か照れを覚えながら、向かいの席に彼が座るのを待つ。

 と、先に口を開いたのは彼の方だった。


 「久しぶり、待たせたかな?」

 「全然! まだ来たばかりだったから」


 何となく気持ちが落ち着いてくれなくて、手元のアイスティーの方に視線を落としながらそう答える。


 「そうか、ならいいんだけどさ。あのさ、今日は大切な話があって」


 切り出した彼の言葉に心臓がドクンと早まっていく。大切な話、もしかしてプロポーズされる? そんな期待が脳裏をよぎる。

 顔をあげて、彼の方を見つめるのと、彼が言いにくそうに言葉の続きを話したのは同時だった。


 「俺、今彼女と同棲していて、その、結婚も考えてるんだ。だから、別れよう」

 「え……?」


 何を、言われてるのか理解できなかった。

 彼女? 同棲? 結婚? それって私達まだできてないよね。これから、2人で話し合って決めて、それからずっと一緒にいられる、そうじゃないの?

 きっと私は酷い顔をしていたんだろう、全身の血の気が引いていく感覚だけが自分でも分る。

 

 「雪には悪いと思ったし、好きじゃない訳じゃなかった。だけど年月が経つにつれて恋愛感情じゃなくて、雪は妹みたいな存在だなって思い始めて。それで、勝手だとは思うけど、今日で終わりにしよう」

 「…………」


 妹みたい? いつから? 急にどうして。私は今までの全部を貴方に捧げてたっていうのに。

 思考がぐちゃぐちゃする、気持ちが追いつかないしまとまらない。

 言いたい事、言わないといけない事は沢山あるはずなのに。思い出すのは彼との楽しかった思い出ばかりで、怒りすら塗り潰されていく。


 黙ったままの私に、困った様子の彼。それを見て、ああ本当にこの人はもう私を女としては見ていないんだなと、どこか冷静な私が脳裏で呟いた。


 「……分った、さようなら」


 どのくらいの時間黙ったままでいたのか、自分ではよく分らない。

 ただ重たい空気が漂う中、自分でも聞いたことの無いような低い声で最後の別れを告げた。


 そうして会うまでの浮かれた気持ちが嘘みたいに、重く暗い気持ちを抱えたまま喫茶店を出る。

 悲しいとかそういう気持ちよりも、虚無感の方が強くて、どうやってそこから家まで帰ったのか記憶が無い。


 自宅のベットにダイブして、虚ろな視線でスマホを見る。

 もう彼から連絡がくることはないし、私からすることもない。

 私は、1人になったんだ、瞼を閉じ、そう痛感するとさっきまで少しも悲しくなかったのに、ポロポロと涙が溢れてくる。


 「寂しい、辛い、なんで、どうして」


 誰もいない一室で子供みたいに泣きじゃくる。

 何がいけなかったんだろう、私が子供っぽいから? 中々会えなかったから? 歳が離れていたから?

 考えても考えても返事が返ってくるわけではない。

 分ってるけど、一度考え出したら止まらなくて、24にもなってバカみたいに嗚咽を零しながら泣き続けた。


 しばらく泣くと、慣れない事が続いて体が疲れていたのか睡魔が訪れる。

 普段ならばお風呂に入ってからだとか、晩御飯食べなくちゃなんて思考が生まれて無理にでも体を起こすのだが、今はとてもそんな気にはなれなくて、睡魔に抗うことなく眠りに落ちる。


 夢くらい、幸せなものが見たい。そんな風に考えながら眠りに落ちていく、その時に聞こえた声。






 ――助けて、どうかこの世界を……聖女達と共に





 悲痛なその声は、やけにはっきりと聞こえ、無意識に答えてしまっていたのだ。


 「助けるよ、だから、待っていて」



 これが私の異世界への旅へと続く最初の出来事。

 知らない世界で出会う大切な人達とその世界を救う物語のプロローグだ。

読んで下さった皆様ありがとうございます

この物語は、主人公雪の新たな恋愛模様を書くと共に、異世界を救う話となっています

拙い文章ではありますが楽しんで頂ければ幸いです

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