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「なぜあなた様がお礼を言うのですか?」


 そう言ったのはクロウ。それに続いて頷くリーヤたち。私は温かい気持ちのまま無意識に音になったお礼について答える。


「私を待っていてくれたことへの感謝です。とても嬉しかったから」


 笑顔でそう伝えると誰よりも早くユーリが反応して、私にタックルするような勢いで抱きついた。


「雪さんっ! 帰ってきてくれてありがとう! あとは雪さんが帰るだけ。僕、雪さんが安全に帰れる方法を探すからね。だから大丈夫だよ」


「っ、ユーリ……」


 背中に回されたユーリの手がぎゅっと服を掴み「もう、雪さんに行き来してほしいなんて思ってないから……だから、僕が言ったこと忘れてね。雪さんはただ帰ることだけを考えて」と少し震えている声が耳に届いた。


「ユーリ、ありがとう」


 私はユーリを包むように抱き寄せる。


「ユーリのその優しさが嬉しい。本当にありがとう。だけど私ね、この世界と向こうの世界を行き来したい。ユーリとこの話をしたあの日、心の奥底でいいとは思っていなかった。でも今は違う。今の私はみんなのことが好きで、お別れが淋しいって思うの」


「……雪さん」


「だから今は行き来したいって、心から思う。ユーリお願い。これからは私と一緒に行き来できる方法を探してくれませんか」


「う、ん……! もちろんだよ」


 背中に回された腕に力が入ってユーリがぐっと私を抱き締める。


「雪さん、ありがとう。一緒に探そうね。僕頑張るから」


「ありがとう。私も頑張る。急だけどこのあと時間あるか、な……フォールマ?」


「頑張るのはいいが一度休んでからだ」


「疲れてないから大丈夫だよ。むしろいつもより元気かもしれない」


 頭をぽむっとチョップされた私が振り返るとフォールマが呆れた表情をしていた。そして小さくため息を吐いて「それは力の影響だ」と言った。


「なるほど?」


「神にとってユヅキさんは居心地がいいらしい。神が潤い満たされているのを感じる、と言うよりは世界を見れば一目瞭然だな」


 すっとフォールマの視線が外へと移る。それに続いて私も外を見ると、今までと同じ景色が目に映る。けれど違うのがわかる。


 空気は柔らかく、あたたかな命の音が聴こえる。流れる水、吹く風……全てから(おもい)を感じ、すうっと体に馴染んでいく感じ。


『ーー』


「ペンタス」


『ーー』


 姿を現してくれたペンタスへと手を伸ばし、頬を撫で笑いかける。するとペンタスは愛しそうに目を細め私の手へとすり寄ると翼を広げ空へと飛んでいく。


『ーー』


 青く美しい空の下、美しいペンタス(白い鳥)が愛を口ずさみ飛んでいる。そしてペンタスが羽を動かすたび、暖かな色をした愛が地上へと降ってくる。


 その柔らかさ、温かさに手を伸ばす。


「救世主殿っ!」


 どこか焦ったような大きな声で呼ばれたと思ったら、手首を強い力で掴まれた。


「シーヴァさん?」


「っ、申し訳ありません。あなたが人でなくなってしまいそうな気がして、それが恐ろしくなりました」


 団長さんと目が合わなかったけれど、ふっと団長さんの瞳が私を捉える。そして言葉を続けた。


「私からすればあなたは見た目が変わって力を得ただけで、私の知るあなたのままです」


 そのまっすぐな言葉に、私の心は救われる。私はなぜだか泣きそうになってしまって、でも笑って団長さんを見て口を開く。


「シーヴァさん、ありがとうございます。あなたのその言葉がとても嬉しいです」


「救世主、殿……」


 きゅっと唇を閉じ笑みを浮かべる団長さんも、私と同じように泣き出してしまいそうな表情をしていた。


「シーヴァさん。遅くなりましたが、ただいま戻りました」


「はい。おかえりなさいませ」


 笑って伝えると団長さんも笑ってくれて安心する。


「ギルベルト・フライクとドウマンさんもただいま!」


「救世主様、おかえりなさいませ」


「おかえり」


「ちょっと姿変わっちゃった」


「そうですね。ですが変わらず可愛らしいですよ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえると照れちゃいますね」


「雪月」


「いたいっ……!」


 ギルベルト・フライクは私の両頬を摘まみ伸ばす。それはもう力加減や遠慮もなく思いっきり伸ばされる。


「君が帰ってきてくれて安心したさ! だけどな! 君の姿と(ちから)を見たら、その安心は消えた……帰れなかったらどうするんだ」


「ま、前向きに動くからきっと大丈夫」


「大丈夫じゃなかったらどうするんだ」


「大丈夫だよ! 言霊とかあるし! 前向きさ大切。好転するのに必要不可欠な感情! だからギルベルト・フライクも私が帰れるって思って言葉にしてよ」


「……」


「あ、でも行き来できるようにしたいから帰れるだけじゃ駄目なんだ。行き来できるように願って言葉にしてくれると嬉しい」


「……はあ」


「幸せ逃げちゃうよ。ほら、吸って吸って」


「もう本当に、はあ……わかった。行き来できるようにだな。後悔するなよ」


「しないよ」


 笑おうとして思い出す。まだ私の両頬は摘ままれたままだということに。じわじわと痛みが増してきてじんじんする。


「ギルベルト・フライク、あのさ両頬が痛い」


「ごめんっ! 忘れていた!」


「じんじんする」


「赤くなっていますね。これをお使いください」


「ありがとう、ドウマン」


 ドウマンが冷えた布を手渡してくれたのでそれで頬を冷やす。


「本当にごめん」


「いいよ。大丈夫だから気にしないで。それに心配をかけた私も悪いし」


 そう言ってもしょんぼりとしてしまっているので、私もギルベルト・フライクの両頬を摘まんで伸ばす。瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。


「すごく、すべすべだ……」


 あまりにも触り心地のよい肌に思わず伸ばすのをやめて包むように触れてしまう。


「俺の肌が気に入った?」


「気に入ったというか、すごい素敵美肌」


「好きなだけどうぞ」


「え、あ、もう大丈夫です。あんまり触ると悪いし、話も逸れちゃったから……え? アメリアさんとエミリオどうしたの」


「僕の肌もいいと思う。きっと雪月が好きだ」


「私の肌もいいと思います」


「確かに二人も素敵美肌だと思いますけど、圧が強い! ずいずい寄ってこないでください! 強い強いっ!」


 とても圧強く二人が迫ってくるから私は後ろへと下がる。なぜだ。なぜこういうことになっている。


「ギルベルト・フライク! 笑ってる場合じゃないからね! あなたが素敵美肌だったからこういうことになってるんだぞ!」


「みたいだな」


 あっさり切り捨てられた感があるけれど、和やかな雰囲気になっているから良しだ。でもこれだけ言わせてほしい。


「私、ルナとリーヤの頬っぺたが好き!」


 その言葉にルナとリーヤの頬っぺたが狙われたので、あとでルナとリーヤには謝る。ごめん。

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