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『ーー』


 大きな白い鳥が表現できない音で鳴いた。そしてその鳴き声に続くように、様々な色が世界を彩るように広がる。


「わたしの、力じゃない。これは……」


 ひなたさんが私を見た。そして顔を青くしたひなたさんの手が私の頬に触れる。


 その青い表情の意味を、私はわかっている。私がひなたさんの立場でも同じ表情をするから。


「ひなたさん。大丈夫ですよ」


「っ……!」


 目覚めた(ちから)が私に馴染んで、そして私に寄り添ってくれる。


 だから私は(ちから)を拒絶しない。受け入れて、(ちから)と寄り添い生きていく。


「……」


 ひなたさんと大きな白い鳥を交互に見る。


 心のどこかで、願っていた。ひなたさんから力を取り出せることを。


 諦めかけていた(おも)いが、今叶った。


 私の頬を包むひなたさんから、今までのような力を感じない。


「これで……」


 楓さんたちと同じ、ただの女の子に戻れた。


 ーー帰ろう。元の世界へ。そしてそれぞれの大切な人たちの元へ。


「ひなたさん。帰りましょう」


「ゆづきさん……?」


 ひなたさんの手に触れて、そっと私から離す。そして優しく握り、私は笑顔を浮かべる。


『ーー』


 大きな白い鳥が私の想いに共鳴するように鳴く。


『それがあなたの後悔の道(正しさ)なのね』


「うん。だってやっぱり納得いかない。私だけが帰れる未来には」


『……』


 彼女が私に近づく。私もひなたさんから手を放して、彼女に近づく。


(わたし)加護(おもい)をあなたに』


 そう言って彼女は私の額に口づけを落とす。


 神から、神へ。


 終わりを願う彼女から、終わりを綴る私へ。


『ーー』


 大きな白い鳥が穏やかに鳴く。その姿を見た私の口からは自然と、その名が出ていた。


「ペンタス」


『ーー』


「私と一緒に、最後を歩いて」


 ペンタスへと手を伸ばし微笑む。するとペンタスも目を細めた。


「ひなたさん。みんなで帰りましょうね。それぞれの大切な人たちの元へ」


「っ、ゆづきさん……」


 ひなたさんが焦ったような表情で伸ばしてくれた手を、私は笑顔で断る。そして二人から離れ、自分の体内を流れる力を外へと少しずつ出していく。


 朝露が地に落ちるような美しさを。そして画用紙に落とした水が広がるような、想像が掻き立てられるような自由さをイメージして。


「私は、(あなた)になる」


『ーー』


 ペンタスが私の上空を飛び、様々な色に輝く光の水が降る。


 私の(ちから)が天と地の両方からこの世界に馴染んでいく。そのおかげでよく視える。


「……」


 この世界から救世主(みんな)の全てを掬い上げる。


 魂も。想いも。肉体も。余すことなく、全てを掬う。そうして掬った彼女たちは光の中で眠っている。


 光を抱き締めるように手を伸ばし、腕を回す。そして少しの間そうしてから、ペンタスへ向けて光を持ち上げる。


「ペンタス。彼女たちから、この世界に関する全てを消して。この世界のことも、救世主としての役割や力についても。そしてその中で感じた想いや抱いたものも、ぜんぶ……全部消して。彼女たちに残るのは、生まれた世界でこれまで培ってきたものだけ」


『ーー』


「ただこの世界からは、彼女たちが関わった全てを消さないで。ここはそのまま続く。この世界は、何があったのか忘れてはいけないの」


 ペンタスはじっと私を見つめ、そして頷くように大きく鳴いた。


「ありがとう。お願いします」


『ーー』


 ペンタスが光の回りを旋回し、そして彼女たちを元の世界へ導くように上昇する。


「繋がれ」


 彼女たちの世界へ。彼女たちが視せてくれた世界。その世界が私には視える。だから視える世界へ繋げる。


 繋がった瞬間、まるでオーロラのような揺らぎが現れた。ペンタスは迷わず光と共にその間を通って姿を消す。


「無事に帰れますように」


 彼女たちが元の世界へ近づくにつれ、この世界のことは消えていく。そして徐々に本当の彼女たちに戻る。


 大丈夫。彼女たちの世界の時間は、彼女たちがここへ喚ばれる瞬間のまま。もうこの世界へは喚ばれないから、彼女たちはそのまま元の生活を送れる。


「っ……」


 ふと、目で見るのではなく意識の中で視えるその姿に微笑む。


『ゆづきさん、ありがとう。どんどん穏やかな気持ちになっていってるわ。それからアネモネとも話すことができて、ちゃんとお別れもできた。本当にありがとう』


「よかったです。アネモネさんのことはまだ力の加減とかがわからなくて会えるか不安でしたが、お話しできたって聞いて安心しました。ひなたさん、もう少しで帰れますよ」


『ゆづきさん。私は、あなたに……』


 ひなたさんは言い淀み目を伏せた。それから音にならなかった言葉が私に届く。でもそれに気づかないふりをする。だってひなたさんはこの謝罪(ことば)を私に言うか悩んで、私のことを考えて言うのをやめたのだから。


『っ……ゆづきさん! 私を、私たちを助けてくれてありがとう!』


 私はその言葉に笑顔を返す。そして手を振り見送った。



     ***



「ふ……よかった」


 無事に彼女たちが帰れたのを見届けることができて、ふっと肩の力が抜ける。ただ、まだ私がやりたいことは終わっていない。


 私は冬夜雪月(わたし)のほうを向く。


「ありがとう。あなたのおかげで、力が暴走せずに彼女たちを無事に送り届けられた」


『お礼を言われることではないの。あなたと、彼女たちへの贖罪なのだから……彼女たちが無事に帰ることができて、よかったわ』


 きゅっと目を伏せ左腕を握る彼女を見て、私は彼女に近づき抱き締める。


「今の、あなたのお願いを(わたし)に教えて」


『……』


「大丈夫だよ。なんでもとは言えないけれど、叶えられることなら迷わないから」


『……人として、最期を迎えたい』


「うん」


『あと、私の軸の碧月ひなたに会いたい』


「会いに行こう。ひなたちゃんも、あなたを待ってる」


 小さく震える背中を撫でて、そしてもう一度ぎゅうっと抱き締める。そして冬夜雪月(わたし)の中から(ちから)を掬い取って私の中へと入れていく。


『あなた……っ』


「貰っていくね。大丈夫だよ。あなたの軸の(ちから)は全部、私の軸の(ちから)と共に私の中で生きる」


『……』


「あなたは、人間だよ」


『っ……ありがとう』


 そう言った彼女の瞳をじんわりと薄い涙の膜が覆う。私は彼女に笑いかけ「さあ、ひなたさんに会いに行こう」と優しく彼女の手を引く。


 光の道が現れ、色とりどりの可愛らしい花が光の道を彩る。


 冬夜雪月(わたし)に会うために、ひなたちゃんをさいごの場所(あそこ)から連れ出した。だけどルナがひなたちゃんを連れていってくれている。だから私も冬夜雪月(わたし)を連れていくよ。

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