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始まり、終わり

 部屋から出た私があの場所へと続く通路を走っていると、何人かの足音が聞こえ振り返る。見えたのは団長さんたちがこちらに向かって走ってきている姿だった。そしてすぐに私の前までやって来て、団長さんが口を開いた。


「救世主殿。なぜ私たちに何も言わずお一人で行こうとなさるのですか。私たちはあなたの矛であり盾です。おそばにいさせてください」


「団長の言う通りだよ。雪さん、僕たちはあなたを守るためにいる。一緒に行こう」


「シーヴァさん、ユーリ。それからフォールマにドウマン……ごめんなさい。いろいろとあって、感情のまま勝手に動いてしまいました。その、それで、みんなのこと頭から抜けてました。本当に、ごめんなさい」


「ユヅキさん、いいよ。俺たちのことを忘れていても。でも、俺たちが一緒に行くことを嫌がらないでほしい」


「私たちはあなたのことで後悔したくない。あなただけが頑張るだなんて、そんなことあっていいはすがないのですから」


 みんなの言葉の温かさが、じんわりと私の中で広がる。その温もりは……どこか、力に似ていた。


「そうだよ。お姫様は一人でどうにかしようとしすぎ」


「クロウ……」


「お姫様が一人で行ってしまいそうだったから、フライクと一緒に団長たちに声をかけに行っちゃったよ」


「雪月ごめんな。勝手なことをした」


「ううん。ありがとう。私、そこまで頭が回ってなかったから……みんなが来てくれて、心強いよ」


「雪さん!」


 ユーリが駆け寄ってきてばっと抱きつかれる。勢いによろけたところを素早く私の後ろへ回った団長さんが支えてくれた。


「危ないだろう、ユーリ」


「ごめんなさい。ただ、雪さんに心強いって言ってもらえたのが嬉しくって」


「それはわかるが救世主殿が怪我をしたら大変だろう」


「そうだよね。団長ありがとう」


 私を挟んでの会話に少しそわそわする。だって私にも、ユーリの嬉しいが伝わってきたから。だからかな、思わずそっと抱き締めてしまう。


「雪さん……?」


「みんな、無事でいてね。私もちゃんと戻ってくるから」


「うん。わかった。約束するね。あ、団長。それからみんなも無理しちゃ駄目だよ。雪さんからのお願いだからね」


「わかっている」


「ユヅキさんからのお願いだ。必ず守るよ」


「私も必ず守りますのでご安心を」


「お姫様からのお願いだ。もちろん守るし、何より気合いが入るよね」


「雪月、前だけを見て進め。想いのままに」


「っ……ありがとうございます。それから、お願いします」


 ユーリから離れて、みんなに頭を下げる。そしてみんなの顔を順番に見て、忘れないよう戻ってこられるよう心に刻む。


「それでは行きましょう! これが最後です!」


 私はそう言って、あの場所に向かってまた走り出す。暫く走っていると、徐々に気温が下がっていっていることに気づく。


「なんだか冷えてきましたね」


「救世主殿、大丈夫ですか?」


「はい。団長さんたちも大丈夫ですか」


 私の問いにみんな「大丈夫」だと答えてくれる。それに安心しつつも、眉間に皺が寄る。


 この道はこんなに冷えていなかった。もっと……暗くてじめじめして暑かったはずだ。


『ひと……で……』


「っ……! な、に?」


「どうしました?」


「声が、聞こえた気がしたんです」


「声?」


「雪月。彼女の声か?」


『一人で、おいで。ここまで』


「っ、あ……違う。ひなたさんじゃない」


「それじゃあ誰の声かわかるか?」


『おいで』


 瞬間、見えた光景。それは恐らくスターチスが視せてくれたもの。


 ああ、力とは恐ろしいな。怖くて、悲しくて淋しい。


「……」


 あの光景が訪れるのなら、みんなにはここで待っていてもらったほうがいい。


 ひなたちゃんを守ってもらうためにはーー。


「雪月?」


「ごめんなさい。一緒にって言ったのに、私ここから先は一人で行きます」


「何を……」


 ギルベルト・フライクが何か言おうとしていたけど、私の顔を見た瞬間にぐっと何かを堪えるように口を閉じた。


「救世主殿……何かお考えがあるのですね」


 私は団長さんの問いに頷き「みんなにお願いがあります。私が戻ってきたら、幼い女の子を守ってください。私より、その子を優先で」と伝える。すると団長さんが何かを察したように、勢いよく私の腕を掴んだ。


「それはできません。もちろんその者はお守りいたします。ですが救世主殿はちゃんと我々の元へ……」


「シヴィ、それ以上の問いかけは駄目だ」


「フォー。だが……」


「シヴィ。ユヅキさんのお願いだ。ユヅキさんより優先でその子を守る。それだけだろう」


「……っ、承知いたしました。お前たちもわかっているな」


「うん。雪さん、信じてるからね」


「うん」


「救世主様、お気を付けて」


「ありがとうございます」


 私は、笑った。

 恐怖を隠して、笑った。


 死ぬかもしれない。

 生きていても、帰れないかもしれない。


 それでもーー。


「ルナ。リーヤ。アリシアさん。エミリオ。スターチス。みんなもここにいてね。ここで、待っていてね」


 震えそうになる体は心に正直だ。


 呼ばれたみんなは今の私の心がわかっているのだろう。どこか表情が硬いような気がした。でも何も言わずにいてくれて、そっと抱き締めてくれる。そしてみんな笑顔を見せてくれた。


「……」


 心に優しさが馴染んで、恐怖を掬いとってくれる。


『はやく、おいでよ』


「……いま、行くよ」


 振り返った先には口元に笑みを浮かべた、()かが立っていた。


 私は逃げ出さないように気合いを入れる。ここまで来て、恐怖に飲み込まれそうになるなんて……どれだけ守ってもらっていたのかに気づくよ。


「行ってきます」


 振り返らずに駆け出す。そして凍えそうなくらい冷たいその場所へと、迷わず足を踏み入れ奥まで走り抜ける。そうして私が喚ばれた場所の中央までたどり着いた。


 中央に立って下を見る。すると冷たい風が下からこちら側へと流れていた。


「入り口は、ここじゃないんだ……」


 それじゃあ、どこかに下へと続く通路があるはず。


「全部確認していくしかない」


 床については歩く音で探りつつ、違うところがあったら確認。壁は耳をあてて、叩いて衝撃を与えてつつかな。


 そうと決めて確認していく。ゆっくり、でも確実に。見逃すわけにはいかない。


「あれ、ここの模様……」


 他の壁にもこのお花の模様が描かれていたけど、花弁が少し少ない。


 そっと指先から触れる。すると模様が光り、壁を流れて少なかった花弁が増えていく。そして美しく咲き、まるで花が舞うかのようにひらひらと壁が消える。


「……っ、あ、あった!」


 思わず大きな声を出す。


 この先に、ひなたちゃんがいる。遅くなってしまったけど……会える。


 下へと続く道は暗くて何も見えない。だけど、不思議なことに見えている。


「怖くない」


 私は一歩を踏み出し、下へと向かう。

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