12
あのあとすぐに輝きから出たけど冬夜雪月はもういなかった。きっと私へ繋いだからだと思う。そして木蓮さんの元へ行って、お礼とお別れを伝えた。
意識を戻す帰り道で見た景色。それは悲しさと辛さ、苦しさがあった。そして怒りも……だけどその道があったから私の知る未来がある。
会いたい、と思った。
会って、名を呼びたいと思った。
だから……戻ったら私は名を呼ぶ。
「……ん」
適度な重力と疲労を感じ目を開ける。するとほっとしたようなギルベルト・フライクと目があった。
「おかえり」
「ただいま」
「得たいものは得られたか」
「うん、わっ……」
返事をしながら体を起こそうとしたけど、思ったより体が動かなくて後ろへ倒れる。すかさずギルベルト・フライクが支えてくれたおかけで、どこにもぶつけずにすんだ。そして背中を支えて体を起こすのを手伝ってくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「あ、そういえばクロウは?」
「あそこにいるよ」
ギルベルト・フライクの視線を追うと、大樹の近くにクロウが立っていた。私はお腹に力を入れて「クロウ」と呼ぶ。するとはっと気づいたような表情をして、クロウは私たちのところまで駆け寄った。
「……おかえりなさい」
「ただいま。それから、待っていてくれてありがとう」
「はい」
クロウははにかんで私の頬に触れ撫でた。その手はやはり温かい。
「クロウの手、あったかいね」
「この温かさは、雪月様がくれたんだよ。だから、僕を大切にしてね」
「うん。大切にする」
クロウはふっと花開くような柔らかさで笑った。それにつられて私の頬も緩む。
風がどこからか吹き、大樹の葉を撫でていく。するとざあっという音と共に『雪月』と柔らかな声で私を呼んだ。
「木蓮さん……っ、と、わっ」
「大丈夫か。いきなり動こうとするのは危ないだろう。まだ戻ってきたばかりなんだから」
「雪月様。木蓮様は逃げません。だからゆっくり行きましょう」
「ごめん。そうだね。二人とも支えてくれてありがとう」
ギルベルト・フライクが支えてくれて、クロウがそっと手を引いてくれるのを頼りに木蓮さんのところまで行く。そして手を伸ばし、抱き締めるように全身を寄せる。
大樹の中から聞こえる、とくんとくんという音。それはまるで心臓の音のようで。大樹が……木蓮さんが生きている音だ。
『雪月。悲しまないでおくれ。我は、そちが選んだ道が正しいと思っている』
「っ、木蓮さん……」
『ああ、泣かないでおくれ』
木蓮さんの言葉に、風がまるで涙を拭うかのように吹いた。
『そちの涙を拭い、抱き締める力は残っておる。それにただ姿が変わっただけのこと。悲観する必要はないよ』
「っ、はい」
『さあ、お行き』
「はい。木蓮さん、全てが終わったら会いに来てもいいですか」
『もちろんだとも』
「ありがとうございます! 木蓮さん……行ってきます」
『気をつけてな』
笑顔を見せて木蓮さんに背を向ける。
体がいつもの調子に戻ってる。きっと木蓮さんが力を分けてくれたんだ。
私はあの場所に入るための許可を得るため、城に向かうことにした。
***
陛下への謁見許可を得た私はあの日以来の緊張感で中へと入る。
「……っ」
きらびやかな広い部屋の中にその人はいた。美しい装飾が施された玉座に、優雅に且つ威圧感を放ちながら座る国王陛下。
凍えるような冷たい瞳はじっと私を捉えている。
いつものように狸国王なんて思えないくらいの圧。
びりびりと全身に緊張が走る。気を抜いたら腰を抜かしてしまいそうだ。
「して、急ぎ話とはなんだ。用件のみ述べよ」
「はい。私が召喚された場所へ入ることを許していただきたいのです」
「ほお……帰り道を探すつもりか? ふ、あはははははっ! だが残念だったな。あの場所へ行ったところで帰り道などありはしない。この世界へ喚ばれたら最後、帰ることは叶わぬ。一方通行なのだ」
「そうでしょうね。だからこそ陛下は私に死か救世主になるかを選ばせた」
「ふっ、それがわかっていながらも行きたいと申すか」
「はい。救世主として必要なこと故、どうかお許しをいただきたく」
陛下の瞳から逃げてはいけない。私は嘘など言っていないのだから。
私よ、堂々とあれ。そしてまっすぐと陛下を見続けるんだ。
「……許可しよう」
「ありがとうございます」
「貴様が何を成すのか見ものなだけだ」
私はその言葉に、思わず笑って答えてしまった。
「恐らく、陛下にはつまらないものです。私が成したいことは」
「……」
「ですが、きっと不浄は眠ります。穏やかに」
言い切って、私は陛下に頭を下げる。そしてあの場所へと向かうために歩きだす。




