行く先
「ゆづ、すごいぞ。上手だな」
「んふふ」
「お父さん、こんなにも上手に描けないな」
「わたし、おとうさんがかいたえすき! まほうつかいのおんなのこもすきだし、まほうつかいのおんなのこのおともだちもすき! みんななかよしになってくの!」
「そうかあ。お父さん嬉しいな」
「おとうさんのてはね、まほうつかいのおんなのことおんなじまほうがつかえるてなんだよ! とってもすごくてね、きらきらしてるの! ほんとうにすごいんだよ!」
『……』
目の前で繰り広げられる会話。
これは幼い頃の私の記憶。お父さんとの思い出の一つだ。それを第三者視点で見ている私がいる。
ゆっくりとお父さんと幼い私に近づく。
ここが夢なら二人は私に気づかない。
「ゆづ。実はゆづも魔法が使えるんだよ」
「え! ほんとう?」
「ああ。お父さんとお母さんを笑顔にしてくれて、とっても幸せな気持ちにさせてくれる。ゆづは優しくて素敵な魔法使いなんだよ」
お父さんの顔が鮮明に見える。とっても優しい、愛情が幼い私に降り注ぐような温かな笑顔。私の大好きな笑顔。
幼い私は眩しそうにお父さんを見ていて、徐々に思い出していく。
『確かお父さんが一緒に絵を描こうって誘ってくれて、久しぶりにお父さんと一緒にいられるのが嬉しくてはしゃいでたなあ』
あれ、そういえばあの日私は何を描いたんだっけ。確か見習い魔法使いの女の子のお話に出てくる……。
『っ……!』
慌てて私は幼い私が描いた絵を見る。そこには下手くそではあるけど、魔獣の姿のユーリが描かれていた。
『なんで、思い出さなかったんだ……』
じっと幼い私が描いた絵を確認して、そしてそれに触れて持ち上げる。
過る考えに頭を左右に振る。
『考えすぎだよ。流石にない、はず……』
でも待ってよ。本当に考えすぎか。だって始まりの救世主は長い間私を見ていたと桜さんが言っていた。
『つまりもしこの考えが正しければ、ユーリたちとの出会いは偶然ではなく必然』
思い出せ。何か他にお父さんと話したことややったことを。そこに始まりの救世主が私をこの世界に喚んだ答えがあるかもしれない。
『え……っ!?』
ぶわっと強い風が吹いたと思ったら、場面が変わっていた。また幼い私とお父さんが二人でいる。そして今回は何か読んでいるらしい。
「ねえ、おとうさん。どうしてこのおんなのこはひとりでがんばってるの? どうしてまわりのひとはみてるだけなの? へんなの。みんなもおんなのこといっしょにがんばったらいいのに」
「そうだね。ゆづの言う通りだ」
「わたしだったらいっしょにがんばるよ。それでおんなのこのおともだちになるの! ひとりだとさみしいもんね!」
『……』
「ゆづがこの女の子のお友達か。それならお父さんはゆづとこの女の子に喜んでもらえるような何かを作る職人になろうかな」
「おとうさんがしょくにんさん! おかあさんは?」
「え、私?」
「うん!」
「それじゃあお母さんはね、ゆづとその女の子に美味しいって言ってもらえるようなとびっきり美味しいお菓子を作ろうかな」
「わあ! おかし! おんなのことしあわせ!」
和気藹々とした三人はまだ何か話している。だけど会話が遠い。私の意識が今別のところにあるからだろう。
『……』
お話に出てきた一人で頑張っている女の子。
この世界を創り出した始まりの救世主。
一人で頑張っている女の子と友達になって一緒に頑張ると言った私。
始まりの救世主がお話に出てきた一人で頑張っている女の子と同じで、幼い頃の私に希望を見出だしたのだとしたら。
『私は……』
私は、始まりの救世主を知るべきだ。そして始まりの救世主が創った世界ではなく、本当のこの世界を知らなければならない。
『ただどう知るか、だよね』
楓さんの力なら視ることができると思う。だけど本当の世界を知るに至るかどうか。始まりの救世主に拒絶されてしまったら、私には成す術がない。
アリシアさんとエミリオの力も使う場面を選ぶ。それに視ることに関しては使えない。
『……』
私は目を閉じて、息を大きく吸う。そしてゆっくりと吐き出す。
『ひなたちゃんに会って聞く。それが一番かもしれない』
……ずっと考えないようにしていた。桜さんの話を聞いたときからずっと。でももう考えないようにして逃げている場合ではない。ちゃんと向き合わなければ。
ひなたちゃんが始まりの救世主で、私をこの世界へ喚んだという可能性をーー。
それに何より私はまだひなたちゃんとの約束を守れていない。だからまずはひなたちゃんに会いに行けるよう頑張るんだ。




