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あのあとエミリオ、アリシアさんと話をした。その流れで彼が刺したせいで残ってしまった傷痕を治してもらうため医務室へ行くこととなり、フォールマのいる医務室へと来た私たち。
エミリオは自分は男だからと外で待つと言ってくれ、アリシアさんは一緒にいてくれようとしてくれたけど私が丁重にお断りした。だって医務室へ入ったときのフォールマの顔に「二人で話をしようか」って書いてあったから。なので現在私はフォールマと二人だけで医務室にいる。そしてつい数秒前にフォールマの丁寧な治療を受けて綺麗に傷痕が治ったところだ。
「……」
「それで?」
「いや、その、アリシアさんとお話をして流れでエミリオともお話をした感じです。はい」
「怪我は?」
「ありません。無傷です」
「……はあ。無事で本当によかった」
「ごめん。心配をかけて」
「本当にな。あなたが二人を引き連れてきたときは流石に肝が冷えた」
椅子に座るフォールマは肘を膝につけて俯いた。それを見て罪悪感で居心地の悪い私は、もう一度謝罪の言葉を口にする。
「本当にごめん」
フォールマが顔を上げて、じっと私を見る。そして手を組んだフォールマは真顔で「こういうことが今後ないように、あなたを常日頃から持ち運ぶぞ」と言った。
「それは、困るな……」
「ふ、そんなに困った顔をしないでくれ。冗談だから。言っただろう。俺はあなたを信じると。ただまあ、心配はした」
謝罪の言葉を口にしようとしたけど、フォールマの顔を見て口を閉じる。
「姫と話をして、何か思うところがあったんだろう」
「うん。アリシアさんと一対一で話ができて、二人のことを知る機会ができたの。そうしたらエミリオとも話がしたいって思った」
「そうか」
「うん。あ、フォールマ。傷痕を治してくれてありがとう」
「どういたしまして。それからすまない。傷痕に気づかなくて」
「え? いやいや。私がフォールマに傷痕に関して何も言ってないんだから謝らないでよ。それにもう治ったしね。とっても感謝してるんだよ」
言いながらにっと笑ってフォールマを見る。するとフォールマは肩から力を抜いてふっと笑った。
「もう、本当に……困ったな」
「ごめん。今、何か言った? ちょっと聞き取れなくて」
「いや。姫はさん付けなのに王子は呼び捨てなんだなと言っただけだ」
「あー、それね。それはあれなんだよ。私も最初はエミリオさんって呼ぼうと思ってたんだけど、エミリオにごり押しされて呼び捨てになったの。でもやっぱりまずいよね。王子を呼び捨てにするのは」
「寧ろ地位や周囲の目を気にして、王子が望む呼び方以外で呼ぶほうが失礼に値すると思うぞ。それにユヅキさんに呼ばれると王子は柔らかく笑っていたしな。ユヅキさんに呼ばれるのが嬉しいのだと思う」
私はフォールマの言葉にぱちぱちと瞬きしてエミリオの顔を思い出す。
彼は柔らかく笑っていただろうか。
「……」
笑っていた。それはもう語彙力が消失するようなほど美しく、柔らかく笑っていた。
アリシアさんとエミリオは双子。それでアリシアさんは美人……ということはエミリオも美人さんということで。つまり私は医務室まで両手に花状態で来たわけか。
よくよく思い出してみるとすごい状況だったことに、がっと両手で頭を抱えてしまう。
「ユヅキさん。大丈夫か」
「大丈夫だよ。なんだか安心したからかな。ちょっと今更ながらに混乱してるだけ」
「話なら聞けるが、どうする? もう時間も時間だから眠たいだろう」
医務室の時計を見て、もうあと二時間もしたら朝日が昇るような時間だった。でも少しでも寝なければユーリとの訓練に支障が出てしまう。
「フォールマ。ごめん。部屋で寝てくる」
「ああ。それがいい」
私が立ち上がるとフォールマが私の額を撫でて「短時間でも疲れが取れるように呪いをかけておいた」と言った。
「ありがとう。それから起こしてごめんね。フォールマもゆっくり休んでね」
「ああ、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
医務室から出てアリシアさんたちに傷痕が治ったことを伝えて、部屋で寝ることを伝えた次の瞬間ーー私は部屋にいた。それに驚いたけれど、本格的に眠さが襲い始めた私は二人にお礼を伝えていつもの定位置で寝たのだった。
長い一日の終わりである。起きたら、また整理しな、きゃ……。




