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「さすがに限界だ……」


 かれこれ一週間。夜更けになると必ずユーリがやって来て扉を引っ掻いたり小さく叩いたり、私のことを呼び続けている。


 枕で耳を塞いだりしているけど、なぜかはっきりと音が聞こえるからたちが悪い。魔力の漏れとかが原因だろうか。


「でもユーリだよ……」


 魔力の漏れが原因とは考えづらい。


「……」


 朝になって会うと普通だから、夜になると無意識で私のところに来ているんじゃないかとだんだん思い始めた。もしくはユーリの演技。


 どれにしても、さすがに一週間もろくに寝れていないと辛い。団長さんにも隈について聞かれたし。もちろんユーリにもだ。寝疲れと適当なことを言ってきたが、これ以上誤魔化すことはできないだろう。


 ……本当のことを言うのが正しいことだというのはわかる。だけどそれを言って団長さんに何かあったら大変だ。それにユーリの琴線がわからない以上言えない。だから本当のことを言わないというのが私が出した正解だ。


「それにしても、眠い……」


 頭がぼーっとするし、体もふらふらする。目も霞んでいるし、気を抜いたら寝てしまうかもしれない。


 この状態で力を使うのは危ない気がする。だけど誰かがそばにいる状態で寝るのは怖い。でも……これ以上寝ないのは無理そうだ。


 時計を確認すると、寝る時間はまだある。だけど起きられるかが問題。さて、どうしようか。


「ウォン」


「ピャッ」


「え……!?」


 声がしたほうに顔を向けると、ルナとルナの頭の上で私に向かって片腕を挙げているリーヤがいた。


 え、無意識にルナとリーヤを喚んじゃったのか。それはまずい。いや、ルナに関してはずっと喚び出していたけど。でもルナはこの部屋で休んでいたわけじゃないから……ああ、頭がぐらぐらしてきた。


「ごめんね。無意識に喚び出しちゃったみたいで……」


「ピャッ。キュキュ」


 謝ってリーヤたちに戻ってもらおうと手を伸ばすと、リーヤがぶんぶんと手を振った。それがまるで私の言葉を否定しているかのようで。


「どうしたの? ちがうの?」


「ピュッキュ」


「ウォン」


「え? ルナたちの意思で出てきてくれたの?」


「ピャッ」


「ワン!」


「えと、ルナに寄りかかって寝ていいの?」


「ワンッ!」


「ピュッキュ」


 ルナとリーヤが元気よく肯定の返事をしてくれて、出てきてくれた理由がわかって少し力が抜けた。瞬間、ぐらりと体が傾く。


「ウォン!」


 右側にあたる、ふわふわの毛。


「ありがとう、ルナ」


「ウォン」


 ルナが咄嗟に支えてくれたことにお礼を伝えてちゃんと立とうとしたけど、どうやら本格的に体は限界のようで。ルナの毛や体温の心地よさに埋もれるように体が沈んでいく。


「クウ」


「ありがとう」


「ピャッ」


「リーヤもありがとう」


 ルナは私を支えたまま器用に座った。そして私もそのまま半分横になるような状態で座る。するとリーヤが小さな体で掛け布団を引っ張ってきてくれていた。それを受け取ってリーヤを手のひらに乗せる。


 ああ、リーヤも温かい。


「クウ」


「ピャッ。キュキュ」


「うん。おやす、み……」


 途切れる意識の中、ぎりぎりでルナたちに起きなきゃいけない時間を伝えて起こしてもらえるようにお願いした。



    ***



 ルナとリーヤが起こしてくれて、急いで顔を洗い朝ごはんを食べて待ち合わせの場所へ。どうにか時間に間に合った私は安堵の息を吐く。


「シーヴァさん、おはようございます」


「おはようございます。おや、今日は顔色がいいですね」


「本当だ。昨日よりも顔色がいいね。それからおはよう」


「おはよう。そうなの。今日は目覚ましでちゃんと起きられたからかな」


 言いながら、ユーリの顔を見て違和感。


「ユーリ。大丈夫? なんだか顔色が悪いけど……」


 そう私が聞くと、隣にいた団長さんがユーリの顔を覗き確認して首を傾げた。それに対し、ユーリは驚いたように目を見開いて私をじっと見ていた。そして笑って口を開いた。


「僕の調子はいいよ。救世主様の気のせいじゃないかな」


 ユーリの言葉に少し悩んで、一言謝ってから額に触れる。そのとき体が強張ったのに気づいたけど、無理はさせられないから気づかないふりをした。


「あつ……」


「っ……! 大丈夫だよ! このくらいの熱なら問題ないから……!」


「ユーリ。お前、熱があるのか?」


「あ……」


 ユーリの目が泳ぐ。初めて見る姿に、相当辛いのだろうと思う。


「ユーリ。今日はお休みにしよう」


「駄目だよ! 救世主様は急いでるんでしょう!? だったら僕がそばで見てなくちゃ! 絶対に無理をするでしょ!」


「落ち着くんだ。私が救世主殿のそばにいる。救世主殿に無理はさせないから、体調が悪いのならお前は休むべきだ」


「嫌だ……僕がそばにいる」


 弱々しく、でもはっきりと意思を伝えるユーリを見て考える。


 確かに力を早く扱えるようになりたいと思っている。だけどまだ私の体調も万全ではない。なら、今日は私もユーリと一緒にお休みにして、ユーリの看病に徹したほうがいいのではないだろうか。まあ、ユーリが嫌でなければの話だけど。


「ユーリ。私も今日は休むよ。それでユーリが嫌じゃなければ、私に看病させてほしいな」


「救世主殿……!?」


 団長さんはばっと勢いよく私に向き直り大きな声で呼ばれる。


「シーヴァさん、ごめんなさい。でもこのままじゃユーリは無理をして私に教えてくれると思うんです。それだと体調を悪化させてしまいます。それなら今日はお休みにしてゆっくりしたほうが有意義だと思ったんです」


「救世主殿がいいのならばそれに従いますが、看病を一人でするのは大変でしょうから手伝います」


「ありがとうございます。ね? ユーリ、今日はお休みにしよう」


「別に救世主様が気にすることじゃないよ。僕がやりたくてやってることだし……」


「ユーリも言ってくれるでしょう? 無理をしないこと。休むことも必要なんだよって。 だから今日は私もお休みにするの」


 安心してもらえるように笑ってみるけど、効果はないかもしれない。どうしよう。


「……ずっと、そばにいてくれる?」


「お手洗いとかで席を外したりすると思うから、ずっとは難しいかな。でもできるだけそばにいるよ」


「……」


「それじゃあ、駄目かな……?」


 ユーリは目を伏せて、小さく首を横に振った。


「それでいいよ。休む」


「ありがとう」


「ううん。僕こそ、ありがとう」


 ユーリの言葉に頷いて、ユーリに案内してもらいながら団長さんと一緒に部屋へと向かった。

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