表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/92

 あのあと日が暮れるまで体力づくりと今日初めて骨董品に触れて視る練習をした。そしてそれ以外は特に何もなく今日が終わろうしている。それに安心する。


 まあ、団長さんとユーリの空気が若干ピリついていたけど。


「何もなかったからよしだよね」


 ああ、でもあそこは本当にユーリのとっておきの場所なんだなあ。今日別の場所だったし。


 コンコンコン、とあまり大きすぎない音で扉がノックされる。


 こんな夜更けに誰だろうか。団長さんやギルベルト・フライクではないのは確かだ。あの人たちがこんな夜更けに訪ねてくるはずがない。


 返事をせず、足音を立てないようにそっと扉に近づきそう思う。


「救世主様。いるよね?」


 その声はユーリのものだった。


 それを認識した瞬間、体の芯が冷える感覚に陥る。


「開けて……」


「……」


「だめ?」


 甘えるような声色が扉の向こうから聞こえてくる。


「救世主様……ねえ、お昼のこと怒ってる? だから僕のこと無視するの?」


 怒ってるとか無視ではなく、夜更けだから寝てるとは考えてくれないのだろうか。いや、この声色からしてその考えが浮かばないのだろう。だからといって返事をしてしまえば、扉を開ける以外の選択肢は消えると思う。


 私の命で脅しをかけてくるからね、ユーリは。


「救世主様……ねえ、救世主様」


 カリカリ、トントン。私のことを呼びながら、幾度となく続く音。


「……」


 ホラーよりホラーな気がする。すっごく怖い。このままじゃ寝れないよ。誰か助けて……。


 そう心の中で思ったところで誰も助けてくれないのはわかってる。だけど思うだけはタダなので思わせてほしい。


「ごめんなさい……ごめんなさい。だからここを開けて……」


「……」


「ねえ、開けて……」


 鍵はかかっているけど無理矢理開けられないほど頑丈ではないだろう。でも開けてこないということは、それが駄目だとわかっている……もしくはこちらが開けないと駄目な理由があるのか。


「……」


 どちらにせよ今日は寝れないのだけは確かだ。



    ***



「……やっぱり寝れなかった」


 結局、日が昇る少し前まで音は続いた。それを扉横で聞き続けてしまった。


「いった……」


 立ち上がろうとしたら、ばきばきと嫌な音が体からしたし何より痛かった。


 ずっと座ったままだったから体が固まってしまったのだろう。でも動いて物音を立ててしまったらと思うと、この痛みと音は仕方ない。


 ぐっぐっと体を伸ばす。それから軽いストレッチをして体を解して、顔を洗って昨晩嫌な汗をかいたのでシャワーを浴びてから着替える。


「さて、どうしよう……」


 会ったらいつも通り挨拶をして昨晩のことは気づかないふりをしよう。それから昨晩のことについて聞かれたら、ぐっすり寝ていて気づかなかったと伝えて謝罪する。


 さっき顔を洗ったときはまだ眠そうな顔をしていたけど、顔色はよかったし隈もできていなかった。あれが今日だけなら誤魔化せる。


「でも、続くようなら……」


 いつまでも誤魔化し続けることはできない。


 団長さんは勘がいいから何かあったと気づきそうだけど。どうか今日は何も聞かないでください。


 そう心の中で祈る。祈り終わったら、訓練のために団長さんとユーリが待つ城の門へ向かう。



    ***



 結果から言って、特に何も言われなかったし聞かれなかった。


 いつも通り挨拶をして最初の走り込み。それが終わったら昨日初めて教えてもらった骨董品を視ることの練習。そして今はその骨董品を視る練習の真っ最中だ。


「救世主様。視る力だからって最初から視る努力をするのは駄目だよ。最初は作者がどういう気持ちで作ったのかを想像しながら触れるんだよ。それを続けたら少しずつ視ることができるはずだから」


 右隣で私の様子を見てくれているユーリがそう優しく伝えてくれる。それに頷く。そしてもう一度今触れている青い、波のような色合いのガラス細工に集中する。


「……」


 あ、この辺りは本当に波のように少しうねりがある。この青はあそこにあった青とは違うし。この青が途切れて透明になってるところは水しぶきみたいで綺麗。海が近かったのかな。いや、でも……。


「……」


 ちょっと待って。さっきから私の感想で、作者さんがどういう気持ちで作ったのかの想像じゃないな。これでは駄目だろう。でも想像するのが難しい。どうしても感想になってしまう。


 そう思っているせいか、ぐっと眉間に皺が寄ってしまう。


「救世主様。視るときそういう風に難しい顔をしていると、余計に視えなくなるよ。視る人間は穏やかに心を揺らさないこと。そして対象の感情や誘いに飲み込まれないようにすることが必要。だから難しい顔をしたり、負の感情を背負っているときに使ったら駄目なんだよ」


「ごめん。ありがとう」


「うん。焦る気持ちがあるのはわかるけど、それが遠回りさせてしまう原因にもなる。だから落ち着いてやろう」


「うん」


 もう一度ガラス細工に向き直る。ちなみに団長さんは少し離れた左隣の席で書類をすごい早さで捌いている。私を一人にさせないようにしてくれていて、仕事をここでさせてしまっているのだ。申し訳ない。それからありがとうございます。


 いろんな意味で早く独り立ちしなくては。


 私は気合いを入れつつ、穏やかな気持ちになれるように頑張りガラス細工に集中した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ