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 あれから数日、私は帰る方法一つ見つからないまま救世主として活動しながら日々を過ごしている。


 そして現在進行形で救世主の活動中だ。


「いや、これただの掃除……」


 ぽつりと零れてしまった言葉。そう、これはただの掃除だ。ゴミを拾い、屑籠へ入れる。それをゴミがなくなるまで続けるのだ。


 これ、救世主じゃなくて一般の人もできることだから。私一人しかできないわけじゃないから。だからさ、見てないで手伝ってくれ。


 まあ、さっきそのことを言ったら「僕たちは救世主様のように不浄に触れて無事でいられる体じゃないから」って言われたんだけど。いや、何でたよ。あなたたちが出したゴミでしょ。何が不浄だよ。自分達で片付けてくれ。何で町の中に捨てるんだ。屑籠へ捨てればこうはならないんだよ。


 いや……自分よ、ぶつぶつ言ってても終わらないぞ。頑張れー。


 自分を応援したところで、またゴミを広い屑籠へ。時々、伸びをして腰を叩く。


 え、来てから数日間こういう作業をやっていたのかって。ええ、やりましたとも。いろんなところへ行き『清めの儀』という名のただのゴミ拾いを。


 足腰に負担がかかりつつ、汗水滴ながら一人でゴミ拾いして。綺麗になったと思ったら、またすぐに汚されて。それを黙々と拾って屑籠へ入れる作業を繰り返したさ。


 もうね、途中から何これ苛められてるのってなりましたよね。これが試練だなんて言ったら許さないわ、絶対。


 だってみんながやってること、ただのポイ捨てだもの。外でゴミが出たら、外の道端に捨てる。これ、この世界の常識らしい。注意みたいなことをしたら、きょとんとしながら「不浄に触っていたら、病気になるんですよ。ああ、救世主様はご存じなかったですよね。すみません。我々はあなた様のように強くありませんので」と嫌みよろしく言われましたよね。


 死ぬのが怖い私でもさすがにその言葉には頭にきたよ。


 この世界を不浄だらけにしてる人たちが不浄をどうにかしてくれって頭おかしいんじゃないの。


 こっちは救うか死ぬかの選択を迫られたっていうのに。ふざけないでよ、本当に。これはもう救う救わないの話じゃなくて、その行為をどうにかしたら不浄という名のゴミは減るんだよ。なんで私一人で全て片付けなきゃならないんだ。それによくこんなに汚いところで生活できるな。不浄どうのこうのじゃなくて体調が悪くなるだろうに。悪臭が酷いところもあったし。


 あの、本当に屑籠を設置しましょう。そう何度も言ったけどさ、国王様に。必要だよ。絶対に屑籠。この現状をどうにかしないことには進めないでしょうに。


 ……まあ、また言っても却下されるのが目に見えているが。お得意の『救世主がー』って言われる。絶対。そして用意してもらえない。


 まあ、建物の中で出たゴミは流石に屑籠の中だったのには、すっごく安心した。


 だがしかし私の怒りは、そろそろ爆発するかもしれない。いや、しないけど。自分の命大切だし。


「きゃー! 救世主様ー! 素敵ー!」


「こっち向いてくださーい!」


 私と同年代くらいの少女たちが、ゴミを拾う私を見てきゃっきゃっと楽しそうにはじゃぎながら手を振っている。まるでアイドルか何かになったような気分だ。あ、今は救世主か。そうじゃない。彼女たちは何が楽しいんだ。


 こっちはあなたたちが平然とポイ捨てしたゴミを必死に拾ってるんだよ。このままだとまた睡眠時間を削るはめになるわ。


「ねえ、今こっちを見てくれたわ! 目も合ったし私ね! 救世主様ー!」


「違うわよ! 今のは私を見てくれたの! ねえ、救世主様ー!」


 ……はあ。もういいや。ゴミ拾い頑張るよ。だから静かに家の中にいて。


 そう思いつつ、黙々とゴミ拾い始める。そして回りを見て、小さくため息を吐く。


 ああ、今日もまた睡眠時間を削らなきゃ終わらないんだろうなあ。

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