表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/92

 あのあとどうにか気持ちを落ち着かせて、ルナにお礼を言ってからエドさんと話をした。そして三番目の救世主の人のところへは今日の午後二時くらいに会えることになった。ちゃんと待ち合わせ場所と時間も決めたので大丈夫。


 話が終わったらエドさんはルナを抱き締めて別れを伝え、私とは握手をしてくれて午後に会おうと笑顔で言ってくれた。


 そのあとは本来の目的だった井戸まで行って水を汲み飲んだ。井戸の水は臭みや苦味などなく冷たくて美味しかった。


 目的を果たした私がルナと一緒に階段を下りていくと、階段の一番下でミーシェさんが立っていた。私は笑顔で手を振る。そして駆け足で階段を下りて最後の一段を降りようとした瞬間、ミーシェさんに止められる。私は疑問に思いながらもその場に留まった。


「ミーシェさん、何かありましたか?」


 私の言葉にミーシェさんは柔らかく笑ったあと、申し訳なさそうに眉を下げ「私はあなたを試しました。あなたが信用足る人間かどうかを。この世界の人間があなたを身勝手に喚んだのにも関わらず、あなたを試したこと本当に申し訳ありません」と言って頭を下げようとした。なので私は最後の一段を下りてミーシェさんに笑いかける。するとミーシェさんは驚いたような顔をして私を見た。


「ミーシェさん。ありがとうございます。私さっきとても綺麗で素敵な景色を観てきたんです。それにこれを見てください。とっても綺麗な模様が浮き出て白いワンピースを彩ってて心が踊りますね」


「ユヅキさん……」


「ミーシェさんは私に毒を盛りましたか。私の心や体を傷つけましたか」


 私は笑ってミーシェさんに問いかけ、そして言葉を続ける。


「毒に関しては遅効性のものを使われていたらわかりません。だけど私の心や体は傷ついていません。むしろ心は踊っているし、体も綺麗な空気を吸えて元気です」


「毒などは盛っていませんが、私はあなたの心や体を傷つけてしまうでしょう。だから私はあなたに……私を許さないでほしいのです」


「どうしてですか? 傷つくかもしれないのは未来の私で、今の私ではないので私はミーシェさんを許す選択も許さない選択もできません」


「……私は今まであなたが出会ってきた人間の中で一番酷い人間だと思います。だって私はあなたに私たちを救ってほしい。この世界を変えてほしいという願いから、あなたの命を危険にさらしているのだから」


「……」


 うーん。もし仮にミーシェさんが私の出会ってきた人たちの中で一番酷い人間だったら、あの悪の権化と言っても過言ではない王様はなんだと言うんだという話になってしまう。それに表情変えずに私の肩を刺した人もかなりの酷い人間だ、と言うより酷くない人間にほぼ会えていないというのが現状。ミーシェさんが一番酷い人なら私の酷い人認識はかなり低くなる。つまり……。


「私からしたらミーシェさんは酷い人ではないです。それに酷い人は本人に謝りませんよ」


「……」


 私の言葉に、ミーシェさんは少し俯いてしまって表情が見えない。


「大丈夫ですよ。私死ぬ覚悟はないですけど、生き残る根性だけはあるので。だからミーシェさんは何も背負う必要なんてないんです。あ、でもできれば私の無事を祈って頂けると嬉しいです」


「ええ……。ええ。あなたがこの世界にいてくれる限りあなたの無事を祈り続けるわ」


 私は笑顔でミーシェさんを呼ぶ。そうしたらミーシェさんは顔を上げてくれて私を見てくれた。


「ミーシェさん。ありがとうございます。私を心配してくれて嬉しかったです」


「っ……こちらこそありがとう」


 お礼の言葉と一緒にぽろりとミーシェさんの瞳から涙が零れた。それを見た私は一瞬だけ固まって、それから慌ててハンカチを探す。


「あ……」


 そうだった。私、拭くもの持っていないんだった。だからさっき手を自然乾燥させたばかりだというのに。そのことを思いっきり忘れていた。どうしよう。いきなり私の手で涙を拭うなんて驚くと思うし、失礼にあたりそう。となると今拭けるものがあるとすればワンピースだけだ。でもこれで拭うのもどうかと思うし。本当にどうしよう。


「ふ、ふふ……ごめんなさいね。あなたを困らせてしまって」


「い、いえ。私こそかっこよくハンカチを出せずすみません」


 ミーシェさんは首を横に振って、涙を拭いながら「ありがとう。あなたの気持ちがとっても嬉しいわ」と言ってくれた。


 今度からどんなときでもハンカチを忘れない。いや、まずハンカチを買わないと自分のがないという現実。買いにいくところから始めよう。うん。


「ユヅキちゃーん! おばあちゃーん! 朝ごはんできたわよー!」


「ユヅキさん。朝ごはんを食べに行きましょうか」


「はい」


「今日のご飯は昨日のご飯より美味しいわ」


「え?」


「ユヅキさんが井戸の水に触れて、水を飲んでくれたおかげで水が浄化されたの。だからとても綺麗でおいしい水で作っているから、昨日のご飯より美味しいのよ」


 ミーシェさんの言葉にぱちぱちと瞬きを数回繰り返す私。


「え、浄化……?」


 私の問いに頷いてミーシェさんは言葉を続けた。


「あの井戸の水は見極めの水とも呼ばれているの。水に触れ飲んだ者の心を、味や見た目に写す。故にその者の本質が見えることから見極めの水と呼ばれているのよ」


「……」


 つまり私の本質が綺麗ということになるのかな。それはかなり恥ずかしい。褒められているような気もするけど、ただただ恥ずかしい。


 この世界に来てからは特にたくさんの悪態やら暴言を心の中でぶちまけていたから、心が綺麗と言われるとすごく恥ずかしい。


「……」


 今すぐにでも顔を覆って走りだし、狭い隙間に勢いよく入り込みしばらくそこから出たくない気分だ。


「ここへ来る前に水を飲んだの。とても優しくて心が温まるような美味しさだったのよ」


「……あ、りがとうございます」


 少し途切れた不器用なお礼を伝えると、ミーシェさんは柔らかく笑って「こちらこそありがとう」と言った。そしてサラさんにもう一度大きな声で呼ばれたので、慌てつつも和やかな雰囲気で歩き出す。



    ******



「ご馳走さまでした。あっ……お皿私が洗います!」


「お粗末様でした。ありがとう。でもユヅキちゃんは気にしないで座ってて」


「いえ、そういうわけにはいきません。美味しいご飯をご馳走して頂いた上に、いろいろと気を使って頂いている身なのでお皿だけでも洗わせてください」


「ふふ、私の答えはダメ。ユヅキちゃんはお茶を飲んでゆっくりしててちょうだい」


 サラさんはウインクしてそう言ったあと、そのまま残っていたお皿を持って行ってしまった。


「……お言葉に甘えさせてもらおう」


 私は椅子に座り直し、コップに熱めのお茶を淹れる。それをふーっと少し冷まして口に含むと、ほどよい温かさと少し渋い味がした。


 好きだなあ。この渋い感じ。気持ちが落ち着いてくる。それにこの鼻を通るお茶の香りも好きだ。


「ふー」


 さて、私だけとても寛いでるけどいいのだろうか。いやまあ本当は駄目だろう。だけど団長さんには「救世主殿はゆっくり休んでいてください。救世主殿は午後から大変なのですから」と言われ、ギルベルト・フライクには「君の今の仕事はゆっくりすることだ。ちゃんと俺たちが帰ってくるまでゆっくりすること。いいな?」と言われて二人を見送ったわけだけど。まあ、私がご飯を食べ終わるのが遅かったのもあると思う。


 よくよく考えなくても、今回一緒にいるのが団長さんとギルベルト・フライクだからこういう状況になって無事でいられるわけで。それ以外の人だったらどうなるのかを考えると、やはり一番に浮かぶのは命の危険だ。きっと救世主としての勤めを果たさない人間は必要ないとか言われる気がする。それで選択を迫られるんだ。最初のときにあの狸国王がしたような究極の選択を。もしくはそういう選択もくれずに刺されたり切られたりして殺されるかもしれない。


「……」


 いやまあ、あくまで想像だけど。でもあの狸国王の人選だから怖い。団長さんは一対一で話したことがあるから見方とか変わったけど、それに関してだってルナがいてくれたおかけで私が冷静でいられたというのがよかったのだと思う。話す前は関わりたくなかったし、関わってほしくなかった。だけど今は団長さんのことを優しい人だと思う。最近距離感おかしいけど。ギルベルト・フライクは最初に会ったときから雰囲気がまわりの人たちと違ったし、私との距離を測ってくれて踏み込みすぎないところにいてくれる人。


「やっぱり行こう……」


 やっぱり私だけ何もしないのは駄目だと思う。


 私は熱いお茶を飲み干し、立ち上がる。舌をちょっと火傷したけど気にしないでいこう。


「ウォン!」


 ルナの声が聞こえて動きが止まる。するとルナが走ってきて私の体をぐいぐいと押す。


「え? どうしたの?」


「ワンッ」


「座ってってこと?」


「ウォン!」


「いや、あのね……」


「ワン!」


 ルナは私の言葉を聞かないようになのか耳をぺたんと器用に倒してしまう。くっ、可愛い。


「ワンッ!」


「わかった。座るから。ね?」


「ワン!」


 降参のポーズをしながら椅子に座り直すと、満足そうな顔をして鳴くルナ。その姿が可愛くてわしゃわしゃと撫で回す。


「クウ」


「可愛い。ルナ、可愛いね」


「ワン」


「ふふ、仲良しね。ユヅキさんとルナは」


「あ、ミーシェさん」


「ユヅキさん。エドワードと約束した時間は二時くらいだったわよね?」


「はい」


「突然で申し訳ないのだけど、私にユヅキさんの髪を結い直させてもらえないかしら?」


「え? あ、はい」


 私はエドさんから貰った髪飾りを外して、それからゴムを取る。


「ありがとう」


「いえ」


 ミーシェさんが棚からブラシを持ってきて私の髪をといてくれる。その手つきが優しくて心地がいい。なんだかお母さんみたい。優しくて、あったかくて。そう言えば、小さい頃はよく髪を結ってもらってたなあ。


「ユヅキさん」


「なんですか?」


「今この家にいるのは私とあなただけだから気を使わずに話すわね」


「……?」


「私たちウォルフ家とクロワイル家は三番目の救世主の血を引いているの。そしてウォルフ家の長女がこの世界の真実が隠されている場所への扉を開く鍵とそのために必要な情報を持ち、ウォルフ家とクロワイル家の男は救世主を探すためこの地から離れる」


「……」


「男たちがこの地へ救世主を何度か連れてきたわ。けれど誰一人、真実を知るにふさわしい人間はいなかった。私の代になってからは、二人の救世主に会ったわ。一人目はエドワードを不浄へと変えてしまった救世主。そして二人目は、ユヅキさん。あなたよ」


「……」


「私はあなたを待っていたのね。初めて会った日、私は直感的にそう思ったの」


「ワンッ!」


「ルナ。あなたもそうだったのね」


「ウォン!」


「ミーシェさん。私は……」


 私はミーシェさんに、エドさんに伝えたことと同じ言葉を伝えていく。そして私の気持ちを聞き終えたミーシェさんは、私の気持ちを聞く前と変わらない優しい声のままエドさんと同じように私の気持ちを肯定してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ