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 私的にあの団長さんとの会話以外特に問題もなくメラグルカへと到着した。そして現在、二手に別れて情報収集のため街の人たちに話を聞いているところだ。


 私はギルベルト・フライクとペアで団長さんはルナとペア。情報収集後の待ち合わせは街のなかにある大きな噴水の前ということになっている。


 ふう……ギルベルト・フライクも団長さんとルナも情報収集をしてくれているのに、私はギルベルト・フライクの後ろを付いて歩いてるだけ。仕事しなさいよ、私。


「ありがとう。助かったよ」


「ふふ、いいのよ。でも私の話が救世主様の役に立てるかしら?」


「あなたの話はとても有益なものだ。役に立つとも」


「ならよかった。救世主様。頑張ってくださいね」


「はい。お話ありがとうございました」


「さ、次に行こうか」


「うん」


 ギルベルト・フライクが先に歩き出して、私がそれに続いて行こうと体の向きを変えるほんの僅かな瞬間……私は見てしまった。


「……」


 話をしてくれた彼女の表情が憎悪の滲んだものになったのを--。


「っ……」


 何も見ていない、気のせいだと自分に言い聞かせて歩き出した私の背中に刺さる視線が痛い。


 その視線は、確実に私にだけ向けられている。そうだとわかるくらいの視線。


 ……思い当たる節はある。団長さんが救世主である私に怒りをぶつけたときの言葉だ。あのとき団長さんは『あなたに不浄にされる覚悟で』と言った。つまり前の団長さんは前の救世主によって不浄にされたということだろう。もしそれをこの街の人たちも知っていたとしたら……私に対する憎悪の視線も頷ける。


「……」


 私に対して表立った動きや食事とか口に含むものに毒などが盛られなければいいけど。例え盛られたとしても私は気づくことなく口にしてしまうだろうし、武装して来られたら私には太刀打ちできない。その時点で私に待っているのは『死』だ。


 今までなんとか回避してきた死だけど、どこまで無事でいられるかわからない。もうほぼ運だけで生き残ってきたと言っても過言ではないし。


 ……どうしたものか。ここは恐らくギルベルト・フライクや団長に伝えたほうが私の生存率は上がる。だけど団長さんに伝えるのは悩むぞ。だってこの地は団長さんの故郷だから。それに突然近くなった距離感に戸惑いが隠せないし。


「……」


「大丈夫だよ。君は何も不安に思わなくていいから」


「え……?」


「君が考えてるようなことから守るから。安心していいよ。そういうのに対して耐性とかあるから匂いですぐわかる」


 そう言って振り返ったギルベルト・フライクは、私を安心させるように笑っていた。


「……ごめん」


「ん? なんで謝るんだ? 君が謝ることなんて何一つないだろ」


「気を使わせたから……」


「ふはっ。別に気なんて使ってないよ。大丈夫。君が気にすることじゃない」


「……」


「それにほら、俺が君のことを守りたいだけだから。そこは甘えてくれると嬉しい」


「……」


 ふー、と息を吐いて体から力を抜く。そして下げた視線をギルベルト・フライクに戻して口を開く。


「ありがとう」


 私がお礼を伝えると、ギルベルト・フライクはにっと子供のように笑って「こちらこそありがとう」と言った。


「ふふ、どうしてあなたがお礼を言うの? 私のことを守らせてしまうのに」


「それはもちろん、君が俺に守らせてくれるからだよ。だから、ありがとう」


 私は、その言葉にぱちぱちと瞬きを数回繰り返す。その間もギルベルト・フライクは笑顔で……そしてどこか嬉しそうに見える。


「ギルベルト・フライクは不思議な人だね」


「そうか?」


「うん。そういうところに少し救われる」


 つい、零れた本音。


 私はたぶんかなり精神的に参ってきている。だから零れた本音。


「……それはよかった」


 見えるところは笑っているように見えるのに、その奥では泣いているような表情をしている。


「ギルベルト・フライク……」


「俺もね……君に救われてる。だから君は変わらないで」


「……」


「頼むから……そのままでいて」


 私はじっとギルベルト・フライクを見つめていて、そして少しよりも長い間のあと頷く。


 ギルベルト・フライクはさっきと変わらない表情で「ありがとう」と言った。


 ……ギルベルト・フライクは『君は』と言った。つまりギルベルト・フライクにとって大切な人が変わってしまったのかもしれない。


「……」


 そして彼はこうも言った。『変わらないで』と。それはギルベルト・フライクにとって大切な人が救世主の可能性があるわけで。だから私に変わらないでと言った。それなら『君は』と言ったところにも納得がいく。


 団長さんは前の救世主を知っているし。ギルベルト・フライクの年齢はわからないけど、彼も私より前の救世主を知っていると仮定すると……もしかしたら深い仲とかだったのかもしれない。


「雪月」


「え……? あ、なに?」


「一度、合流場所まで行こうか。もしかしたらもうヴォルフ団長がいるかもしれないし」


「うん。そうだね。行こう」


 笑顔で返事をしたけど、どうしてか胸がざわつく。


 自分でも理由がわからないざわつきに小さく首を傾げる。そして先に歩き出していたギルベルト・フライクに着いていく。

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