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英雄騎士団長と私

 さて、この状況をどう切り抜けようか。


「お姫様は今から俺とデートに行くんだよ。だからお姫様は暇じゃないんだ。わかるかい?」


「はっ、何を言っている。彼女は今から私と出掛けるんだ。わかったらさっさと消えるんだ」


「お前のようなつまらない男と出掛けたって彼女は楽しくないよ。俺なら彼女を楽しませられる。わかったらお前こそその手を放して消えてくれないかな」


「ふっ。お前のような女にだらしない男が彼女を楽しませられるわけがないだろう。私のように誠実な男こそ彼女を楽しませられる」


 いや、どっちもごめんだよ。さっさと私の腕を解放して二人一緒にどっか行ってくれ。お願いだから。


 今はまだ困惑したような笑みで誤魔化してるけど、このままだと死んだ魚のような目を誤魔化せなくなるからな。それは私の立場からしたらまずいんだよ。だからお願いだ。早くどっかに行ってくれ。


 それからなんで朝っぱらからこんな鬱陶しいのに絡まれなきゃならないんだ。勘弁してよ。本当に。


 しかも今日の私は行きたいところがある。あのたぬきじ……いや、国王様からお金を頂いたからいろいろと買いたいのだ。だから朝早く起きて支度したというのに。


 運がないというか、タイミングが悪いというか……この世界に召喚された時点で運は絶対にないな。うん。


「だからお姫様は俺とデートするんだよ!」


「いいえ! 彼女は私と出掛けるんですよ! いい加減その手を放して消え失せなさい!」


「……」


 耳元でぎゃんぎゃん言い合うのをやめてくれ。耳が悪くなる。


 はあ、とため息を思いっきり吐き出したい気持ちになるが我慢だ。


 内心ではこのように威勢がいいが、絶対に本音を口にはしない。そしてこの二人が去るだけの嘘が見つからない。本当に困ったぞ。


「……」


「あー、お姫様が可哀想だなあ。朝早くからこんなつまらない男に話しかけられるなんて。早くどっかに行ってほしいよね。お姫様もそう思ってるでしょ?」


「はっ、何を勘違いしているんだ。彼女が早くどこかに行ってほしいと思っている相手はお前に決まっているだろう。お前のように女にだらしない男に話しかけられた挙げ句に手を握られているんだからな。早く彼女から手を放して消え失せなさい」


「あーあー、手を握る勇気もない男の僻みとか聞くに耐えないよねえ。そう思わない? お姫様」


「何が僻みだ。邪魔者に立ち去れと言って何が悪い。救世主様は早く私と二人っきりになりたいんですよ。ねえ、救世主様」


 いやいやいやいやいや。どっちも嫌だしお断りだから。しかも言いながら私の手に指を絡めるな。そんなことをして許されるのは恋人だけだ。言っておくけど、私に恋人はいない。いないから、ただただこの状況が気持ちが悪い。


 下手に機嫌を損ねるのは得策ではないからと、慎重になりすぎて何も話せずにいる私が悪いのかもしれない。だけど考えて話さないと危ないし。下手すぎる嘘はまた刺されたり、最悪監禁なんてことになる可能性がある。


 ……でもなあ、このままというのも困る。だってこのままだと行きたいところに行けなくなるし。


「……」


 あ、あれ……あの柱の側にいる人って確か。


 あー、ほら、あの、国王が私に付き従うとか言ってた内の一人の……誰だっけ。姿に見覚えがあっても、名前が思い出せない。


 その人が私の腕を掴んで言い合っている二人を見て、静かにこちらに向かって歩いてくる。そして私たちの前まで来ると、低くて渋いいい声で二人に告げた。


「お前たち。すまないが彼女は私と不浄退治に必要なものを買いに行かなければならないんだ。だから放してくれないか」


「それなら俺もお供しますよ。団長だけだともしものときに困るでしょう」


「私もお供しますよ。私ならもしものときに役立ちますし」


 おいおいおいおい。本気か。本気なのか。なんで諦めてくれないんだ。性格は捨て置き、顔立ちだけならさぞモテるだろう二人に取り合われるような人間ではないぞ。私は。


 それからずっと気づかないようにしていたけど、この人たちの私への好感度の高さはなんなんだ。私が救世主だからか。救世主が好きなのか。ならば救世主と結ばれるがいいさ。


 くそう……その救世主が私だよ。非常に残念なことにな。


 この世界では救世主と恋人になったり夫婦になると何か特典がつくのか。だから私への好感度が高いのか。でもな、私は忘れていないぞ。救世主の活動とか言われて必死に掃除してた私への扱いを。だから彼らに対する私の好感度は絶対に上がらない。もし例え上がったとしても恋ではないし、愛でもない。鬱陶しい顔見知りから、ただの顔見知りになるくらいの上がり方だ。


 それからまったく関係ないけど、恐らく助け船を出してくれたのであろうダンディーな団長。もしくはこの人も私への好感度が高すぎて私と一緒にいたいんだ的な感じかもしれないが。だがしかし仮にも団長の言葉だぞ。なぜ両隣のこの二人にまったく効果がないんだ。むしろ意地でも私と一緒に出掛ける気じゃないか。


 いや、もう本当に勘弁してくれ。私は一人で買い物に行きたいし、ゆっくり見て回りたいんだよ。


「お前たちの気持ちは有り難いが、今回は遠慮してくれ。あまり人数が多いと目立ってしまうからな」


 両隣にいる二人は渋々といった様子で了承して私から離れた。そして今度は自分と出掛けようねと両者から言われ、頬にキスされた。


 ……は。何してくれてるんだ。この男どもは。一度ぶん殴ってやろうか。いや、むしろ一度ぶん殴らせてくれ。


 と、思った感情を隠し曖昧に笑う。そして軽く手を振り見送る。


 ……ほんっとうに疲れた。なんで朝からこんなに疲れないといけないの。私まだ城の中なんだけど。肉体的にというか精神的にすっごく疲れた。もう嫌だ。帰りたい。今すぐ私を元の世界へ帰してくれよ。お願いだから。まあ、無理だろうな。帰れるのならもう帰れてるだろうし。


 ……ああ、そうだ。あとで両頬拭こう。あの人たちの唇の感触が残ってるし。それを考えると、すぐに拭わなかった私偉いな。うん。よくやった。


「救世主殿」


「な、なんでしょうか?」


「あなたはどこへ行くおつもりだったのですか?」


「え、あ、市場に行こうかなと。賑やかで楽しいと聞いたので」


 私の言葉を聞いた団長が少し考える素振りを見せて「では、市場まで送らせてください」と、私が言うのもなんだけど無理矢理作ったような下手くそな笑みを浮かべて言った。


 あ……この人、たぶん私と一緒だ。


 私は直感的にそう思った。

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