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 ゆさゆさと何かに揺すぶられ目を覚ます。


「っ……!」


 目を開けてすぐ映ったのは見知らぬ女の子の顔。それに驚いた私の心臓はこれ以上ないほど激しく動く。下手をすると呼吸ができなくなる感じだ。


 状況判断が上手くできず固まったまま、じっと見知らぬ女の子の目を見つめる。


 すると私の顔を覗いていた人物は離れて、ほっとしたように笑った。


「あ、よかった。おねえちゃん、ぜんぜんおきないからしんぱいしたんだよ」


「え……?」


 体を起こして、女の子の後ろの景色に慌てて回りを見る。


 辺り一面の花畑。風に吹かれて、ゆらゆらと揺れる花たちが私の手に触れる。


 私はクローゼットの中で寝たはずだ。なぜ花畑にいる。


「っ……!」


 まさか、また別の世界に召喚されたのか。


 どくどくと先ほどとは違う速さで脈打つ。嫌な汗もかいてきた。


「おねえちゃん。だいじょうぶ? どこかいたいの?」


「え……あ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


「んふふ。よかったあ!」


 女の子は安心したように笑って、私の前にちょこんと座った。そして下に咲いていた花の茎を千切って私に差し出してくれた。


 それをぎこちなく受け取って、これからのことを考える。すると女の子から聞き逃すことができない言葉が聞こえてきた。


「おねえちゃんはまだだれにもいらないってされてないのにね、きえちゃうのかなっておもったよ」


「え……?」


「あのね、わたししってるの。ここじゃないところでね、いらないってされたひとはきえちゃうのよ。みんなきえちゃうの。それでね、こわいのになっちゃうの」


「それって……」


 あの世界のことだよね。つまり私はまだあの世界に繋がっている。いや、もしかすると別の世界の話かもしれないけど。でもそんな偶然があるとは思えない。


「ここがどこかあなたは知ってる? もし知ってたらお姉さんに教えてほしいな」


「ここ? ここはね、さいごのばしょだよ」


「最後の場所?」


「うん。わたしのことをいらないっていったひとのさいごのばしょ! わたしここでまってるんだ! そのひとがきてくれるの!」


 女の子はにっこり笑った。そしていろいろと話をしてくれた。


 そしてここへ来てからかなり時間が経ったんじゃないかなと思っていると、女の子の小さな手が私の手を掴んだ。


「あのね、おねえちゃんにおねがいがあるの」


「なあに?」


「またわたしとおはなししてほしいの。いらないってされてから、おはなししたのおねえちゃんがはじめて。だからね、もっとおはなししたいの。だけどおねえちゃんはもういかなきゃいけないから……つぎにきてくれたときもおはなししたいの」


「……うん、わかった。またお話ししよう」


 私の返事を聞いた女の子は、ぱあっと花が咲いたように笑って私に抱きついてきた。


 そして私の頬にちゅうっとキスをして「おねえちゃんをまもるおまじないだよ」と言われたのを最後に私の意識はまた暗闇に落ちていった。



       *******



「ん……」


 目を開けると、昨夜寝たクローゼットの中だった。


 私は息を吐いて、少しだけ安心する。別にこの世界にいたいわけではないけど、こことは違う世界に召喚されるのもごめんだ。またいろいろと面倒なことになるだろうし。何よりここより状況が悪化する場合もある。それを考えると、まだこの世界にいるほうがいいだろう。


 とりあえず支度をしなきゃ。あまり遅いとギルベルト・フライクが心配して部屋に強行突破なんてことがあるかもしれない。


 私はのそりと動いてクローゼットを開ける。そしてクローゼットから出て、確認の意を込めて辺りを見回す。


「部屋だね……」


 うん。部屋の中だ。間違っても花畑ではない。


 ほっと一息ついて洗面所へ向かう。そして歯磨きをしながら思案する。


 恐らくあの子も不浄にされた救世主なんだろうけど。でもどうして私はあそこにいたんだろう。私は力を使いたいと思ってなかったのに。


 ……もしかすると無意識に楓さんの力が発動したのかもしれない。それならあそこにいたのも頷ける。ただ楓さんの力って『視ることと共有』だったはず。干渉できるとは言っていなかった。


「でも、花さんは楓さんから作戦に協力してほしいって言われているから……」


 そうすると、やはり楓さんの力は視ることだけじゃない。だって花さんに干渉している。


『話す時間がなかったのかな』


「あ……」


 そうか。話す時間がなかったんだ。だから簡単な力の説明をした。もしくは楓さん本人も『干渉』できることに関して認識しきれていなかったか。


 いや、でもあれだけ力を使いこなしていた楓さんが認識しきれていないなんてことはないはず。


「時間がなかったっていうのが正解なんだろうな」


 とりあえず身支度を終えて、鏡で確認する。


 隈もできていないし、顔色もまあまあいい。あとは口角を上げて、笑顔の練習。


 まだまだ考えたいことやまとめたいことはあるけど、そろそろ出て彼を待つくらいのほうがいいだろう。


「よし。行くか」


 部屋をぐるりと見回し、忘れ物がないか確認する。確認ができたので部屋から出ると、少し離れた場所でギルベルト・フライクが待っていた。そして私に気づいたギルベルト・フライクは笑顔でこちらに向かってくる。


「……」


「おはよう。傷はまだ痛む?」


「え? あ、大丈夫。心配してくれてありがとう」


 ギルベルト・フライクに言われて思い出した。そうだ。私、怪我してたんだった。昨日はあまりにも疲れていたからか、シャワーを浴びたときも痛みとか感じなかったし。それに今朝は今朝であの子のことや力について考えてたから、怪我を気にしたり思い出したりする暇がなかった。服を着るときや着たあとも痛みとかなかったしなあ。


 ぱっと見た感じ化膿とかしてないから大丈夫だろう。それに昨日はお湯だったけど、傷口にあたってたからバイ菌も流れているはずだ。


「よかった。でももし痛みが出てきたり、傷口が膿んでくるようなら医者に診てもらおうね」


「あ……うん」


「大丈夫だよ。できるだけ痛くないように治療してほしいって伝えるから」


「ありがとう。痛いの嫌いだから、そうしてもらえるとありがたいよ」


 『医者』という言葉を聞いてから痛いほど激しく動く心臓をどうにか落ち着かせて、ギルベルト・フライクと言葉を交わす。


「そろそろ行こうか。あ、荷物は俺が持つから貸して」


「え、大丈夫大丈夫。少ししかないし。気持ちだけもらうね。ありがとう」


 別に大切なものや見られたら困るものとか入ってないし、むしろ渡してもいいんだけど。なんというか気持ち的に何も持っていないのは嫌だ。今の私は何かを持っているほうが少し安心できるから。


「持つのが嫌になったら言ってね。いつでも俺が持つから」


「うん。ありがとう」


 笑顔で答えて、受付まで歩き出す。受付を終えたら、あの嫌な国王のいる城に帰るだけだ。


 はあ、と思いっきり重いため息を吐きたい。だが我慢だ。せめて一人っきりのときに……と思ったけどそれも駄目だな。あの国王のことだ。私を見張らせているかもしれない。


「あっ……」


「どうした? あ、何か忘れ物とかした? それとも傷が痛む?」


「ううん、大丈夫。どっちも違うの。ちょっと筋肉痛なだけ」


「筋肉痛?」


「そう。筋肉痛。昨日走り回ったからそのせいだと思う。まあ、運動不足が原因だから仕方ないけど」


「あー、ごめん」


「ふっ、なんであなたが謝るの? 大丈夫だよ。動かしてたらそのうち慣れるし」


「いや、昨日走り回らせたの俺のせいだし。なんというか、ごめん」


「あなたって私に謝ってばかりだよね。私、あなたに謝られるようなことされてないから謝らないでよ」


「……わかったよ。でも君が嫌だなと思うようなことを俺がしたら言ってほしい。直すし、ちゃんと謝るから」


「わかった」


 私は笑顔で答えて、一度会話を終える。そしてまた城へ向かって歩き出す。


「……」


 普通に会話をしていたが……内心、心臓ばっくばくですわ。もう心臓が飛び出るんじゃないかというくらい元気よく動くものだから、途中から呼吸が苦しくなったよ。


 なぜこんなにも心臓が元気よく動いているかというと、私が既にやらかしている可能性があるからだ。


 もし見張られている場合、恐らく隠密で動いているはず。つまり私が国王に与えられた部屋で枕に八つ当たりしたり、国王のばか野郎とか言っていたのを聞かれた可能性が高い。でもばか野郎については小声だった。だから聞こえていないかもしれないし、耳がよくてばっちり聞こえていたかもしれない。どちらにせよ、やらかしているような気がする。


 それを思い出して慌てた私は、さっき小さく声を漏らしてしまったわけだ。そしてギルベルト・フライクはそれに反応するのが早かった。あんなにも素早く問いかけられるとは思っていなかったよ。


 ……いろいろと中途半端で駄目だな。このままだと私に待っているのは死だろう。それは嫌だし、全力でお断りだ。


 ちゃんと……ちゃんと動かなきゃ。


 なあなあで動いたら駄目だ。しっかり考えて、情報は頭の中でまとめる。誰かに見られるような状態にはしない。そして本心は見せず、上部だけで。でも信用しているように見せる。


「雪月」


「ん、なに?」


「大丈夫だからね」


「なにが?」


「どんなことがあっても誰が何を言っても、必ず俺が君を守るから。そして君がどんな選択をしても俺は君の味方だ」


「ありがとう……?」


 ギルベルト・フライクはふっと頬を緩ませ、そして私に近づき耳元で言葉を続けた。


「だから--」


 そう言った彼の言葉を遮るように、鐘の音が町全体に響く。


「っ……!」


 でも私の耳は彼の声を、言葉をしっかりと受け入れた。


 そしてそれを聞いた私は動揺した。だってまさかそんなことを言われるとは思っていなかったから。だけどそんな私とは違い彼はどこか満足そうに笑っていた。


「……」


「さ、帰ろうか」


「う、うん……」


 頭の中で先ほどの彼の言葉がぐるぐると回る。


 いったいどんな考えがあって彼はあんなことを言ったのか。それがわからず私はただただ隣にいるギルベルト・フライクに恐怖を感じる。


 いや、まあ……彼の考えがどんなものであれ、私の気持ちは変わらない。本心では誰も信用せず、上部だけは信用しているように見せる。


 だから別にあの言葉を気にする必要はない。


 あれこれと考えて、どうにか自分を納得させる。そしてこのことはあまり考えないようしにしようと思う。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。


 とてもゆっくりな更新ですが、完結するまで長い目で見て頂けると幸いです。

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