ウルスラー•ネバーヤング
土砂降りの雨が止もうとしていた。
それは奇跡のような光景だった。
コクピットを開放し、その目に見たものは10数騎にも及ぶ機体の残骸。
襟足に繋がれたプラグは限界を超えて稼働させた機体からの膨大なフィードバックにより高熱を帯び、その首筋の皮膚を灼きつかせていた。
朦朧とする意識の中で男はその声を聞いた。
言った通りだぜ……。
今日、今、この瞬間が。
お前の新しい人生の始まりだ。
なぁ……ウルスラー。
世界を戦火で覆い尽くした幾度目かの大戦が終結した。
ある者は大切なものを失い。
ある者は癒える事の無い傷を負いながらも。
それでも人は再び歩みを始めようとしていた。
しかし戦火に巻かれた地域に。
そしてそこに暮らす人々に刻まれた傷跡はやはり深く、大きく。
そして紛争はいまだ各地で頻発していた……。
男は苛立っていた。
自分達の拠点から敵である反政府軍の本拠地と思しき目標地点まで、一寸先の視界も確保できないアフリカのジャングルを進むことはや3日。
男が乗り込むのは今では戦場の主力兵器となり、瞬く間に従来の通常兵器を席巻した人型武装強化外骨格。
通称 アームズ・フレーム。
そのAFがいくら圧倒的な制圧力を持つとはいえ、この深い密林に分散しゲリラ化した相手にその力を十二分に発揮することは難しい。
おまけにこちらは相手の本拠地も、数さえ把握してないときてる。
そんな中で偵察機によりジャングルの中に、敵の拠点らしき集落を発見したのがこの作戦のはじまりだ。
「目標の座標地点にて、敵の本拠地と思しき集落を発見」
「やつらめ……。 ついに見つけたぞ。 聞いた通りだ! ウルスラー! 行ってくれ!」
先を行く斥候隊からの無線が響き、小隊長は待ちかねたように男に命令を下す。
「了解。 行きます。」
ウルスラー・ネバーヤング。
それがこのアームズ・フレームのパイロットたる男の名だ。
歳は二十代の後半。
しかし小綺麗に整い分けられた黒髪と、その線の細い顔立ちが彼を実年齢より幾分も若く見せていた。
作戦を前に目を閉じ、深く息を吐きだす…。
その落ち着き払った佇まいは彼の見てくれとは真逆の、その年齢からイメージされる以上の豊富な実戦経験を感じさせた。
呼吸を止め目を見開き機体の待機モードを解除。
そして同時にスラスターを全開でフカした。
目標地点までの距離はおよそ1000m。
AFの機動力であれば一瞬だ。
肉眼で目標を確認。
そのまま突っ込み集落の中心に躍り出る。
「この集落の敵ゲリラ兵に告ぐ!! 武器を捨て直ちに投降しろ!!」
「繰り返す!! 武器を捨て、直ちに投降しろ!!」
両腕に対人AF用アサルトライフルを構え機体の拡声器で投降を呼びかけるウルスラー。
しかし、敵兵の気配はない。
行軍の時からうっすらと頭の隅にあった予感が確信へと変わってゆく。
なかば脱力しながらも、素早く機体の索敵モードを起動する。
結果は案の定……。
「索敵反応無し。……クレイン小隊長。 この集落は既に放棄されているもようです。」
無線越しにどこからともなく聞こえる溜息。
それは3日間の行軍が徒労に終わった瞬間だった。
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