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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

人外ってなんですか

作者: 華美
掲載日:2018/06/05

  この世界は、ある意味で平和ではある。膨大な人の数はいない。だが代わりに危険が溢れている。まさに弱肉強食の世界。人々同士の争いはないが、生存をかけての自然と言える殺戮は当たり前のように起こっている。

  その中で、人はどう生きていたか。場所によって様々だ。生き物が住むのが難しい場所に無理をして建物を作り込み住んだり、高い壁を作って空からの襲撃にのみ耐えるように作りこもったり。或いは共存という形で温厚な生物と暮らしていたりする。生物の数は少なくはないし、多くもない。

  この世界で特色があるといえば、人のような知性を持ち、さらに力を持っている種族がいることか。それらを人は亜人、人外、化物などと呼ぶ。さすがに数は少なく、人とわざわざ関わりを持とうという種族はいない。


  「旅に出ます、私」


 その世界で、そう告げたものは、女の人だった。この女性は高い壁の中に暮らしている。外に出たいなどと酔狂だと言われながらも、彼女は決意を固めた表情で一晩のうちに外に出た。この決意が、どう繋がっていくのか。その話をしようと思う。


  彼女は頭のおかしい人間だとよく言われていた。壁の中に住む人々は、約100年以上そこにいる。だから親は外の恐怖を語り継ぎ、この平和が壊れぬよう外に出るということは、禁句の言葉となっていた。彼女ももちろん親から念を押すように、何度も外の怖さを教えてられていた。


  「ねぇ、お母様。私達に似ている種族がいるというのは本当ですか?」


 彼女はよく出掛ける。好奇心旺盛で、食糧を得るために外に出る人の跡をつけて、よく話を聞いていた。もちろん恐ろしいという事を聞かされていたが、違う種族を聞いて、見たくなったのだという。


  「いけませんよ。外は危険なのですから。外に出れば化物に食べられてしまうのですから」


 母親はそう言いつつも、娘の状態を心配した。もしかしたらいつか、居なくなってしまうのでは。そんな時に彼女は姿を消してしまった。一冊の本を残して。


  『外の人達』


 タイトルには、そう書かれていた。


  その彼女は、外に出る男達の荷に隠れていた。その服装は身軽で、昨日までは長かった綺麗な髪をざっくりと切ってしまっていた。腰には短剣を差し、二日分の乾燥した食料を持っていた。


  「きっと、話せるはず」


 聞いた話によれば、食料と引き換えに見逃してもらったこともあるということだ。彼女は外を知らない。だからこそ、危険だと言われてもさほど危機感はなかった。


  「わぁぁっ!化物っ…」


 突然の叫びに彼女はビクリと体を震わせて、荷の隙間から外を覗き見た。


  「ひっ」


 男が斬られたところだった。ズブリ、と嫌な音が響いて血がドバドバと流れていく。それを後ろから見ているので相手の姿はわからない。ただ声が聞こえた。


  「引けといった。お前達は荒らし過ぎた」


 亜人だわ。彼女はそう判断して、身を縮ませた。見つかれば殺されてしまうかもしれない。外は危険だ。…なのに私は聞きもせずに好奇心で出てしまった。


  「お母様…」


 甘く見ていました。ごめんなさい、もう帰れないかもしれないです。彼女は動くことも出来ずに息をひそませる。


  「荷物ある。持って帰る?」


 ぐるぐると頭の中で、見つかった時の自分に起こることを考えて涙を浮かべる。


  「荷台ごと引いてけ。貴重な食料もあるしな」


 ガタガタと荷台が動き出す。彼女は息をひそめたまま手を合わせて祈りを捧げる。でもどこかで理解はしていた。見つかることは避けられないと。


  「それにしても…重い」


  「大量にあるんだと思う」


 会話を聞きながら、どこかに入ったのだと気づく。ザワザワと話し声が聞こえてきたからだ。大勢の中で逃げれるはずはない。彼女は恐怖のあまり外が見れなかった。


  「おい、それはなんだ」


 誰かが声をかけたことで荷台が止まる。呼吸が漏れぬように口元を押さえて、震えたままの体をかき抱いた。


  「…荒らした人の持ってたもの」


  「じゃあ、俺が持ってく。…一人で大丈夫だ」


 荷台を運ぶ人が変わったのか、先程より高く持ち上げられて、彼女は落ちぬように荷に掴まった。


  そして、ガラガラと早いスピードで移動していく。


  (声が、聞こえなくなってきました?)


 声が聞こえなくなり、ガタンガタンと石の上を歩いているような衝撃が襲う。丸まりながら外を見ようとして、急に動きが止まった。


  「あ」


 荷が重くのしかかり、思わず声を上げてしまう。もう、おしまい。そう考えて目を瞑る。


  「やっぱりか。おい、怖がるな。目を開けろ」


 荷がどかされ、手に鋭い何かが当たる。ビクリと震えて目を開ける。

 真紅の瞳がこちらをじっと見つめていた。茶色のふさふさとした耳が、頭の上に付いている。手に触れている彼の手を見ると、鋭い爪が生えた私達人とは違う手が見えた。少し目線を逸らすと、くるりと巻いた細い茶色の尻尾が見えた。


  「獣人…さん?」


  「ん?まぁそうだが。お前、売られたやつなのか?」


 え?と彼女は獣人の瞳を見上げて、首を傾げた。さっきはあんなにも怖かったのに、真紅の瞳を見ると安心する。優しく声をかけてくれるからかもしれない。


  「え、と。あの…だとしたらどうなるんですか?あの男の方達のように殺されてしまうのですか?」


 獣人が片眉を上げて、考え込んだ。その間、尻尾がゆらりゆらりと左右に揺れる。


  「食べられて、しまいますか?」


  「ふっ。ないない。俺達は違うぞ?相手から手を出してこなきゃ殺しはしない。安心しろ」

 

 笑う顔は人とそう変わらない。だが、口元には鋭い犬歯が見えた。だが、この短い間でも感情があるのだと気づいてしまった。


  「まだ震えてるな。怖かったか」


 獣人は手をパッと離して、尻尾でポンポンと腕を叩く。さり気ない優しさに、私はボロボロと涙を流す。


  「怖かった…!人が死んで、私がどうなるんだろうって。とっても怖かった!」


 しばらく泣き続ける間、獣人はずっと目を離さずに尻尾で慰めてくれた。


  暫くして泣き止んだ時、獣人は切り株に座り込み話し始めた。


  「数年前、人が転がり込んできた…」


 その頃は、容赦なく殺そうとしたという。だが、その人はとんでもない強さで、ことごとくそれをかわし続けた。


  「しかも、困ってる獣人をひょいひょい助けながらだ。最初はもちろん警戒を強めたんだが、その男は陽気でな」


 追っかけて、勝手に川で溺れてしまった獣人を泳いで助けて、そこを襲われても動じないおかしな人だったらしい。


  「戦闘派の奴らは頑固だったが、女子供が心を許し始めてな。よく追われてる男を助ける手助けをしたんだ」

 

 途中からは、あまりにも滑稽に見える追いかけっこに観戦気分で野次が集まって、笑いが絶えなかったという。


  「男はこう言ったんだ。やっぱお前らも変わんねぇな!ってな」


 結局、戦闘派の獣人には最後まで敵対視されていたが、この村のほとんどの獣人は人との関係を考え直した。


  「だが、上手くいかねぇな。今でも争ってるし、あちらが歩み寄る気配もないわけだ」


 男は最後、人が獣人を襲ってきた時にその身を犠牲にしてしまったという。


  「男は無駄な殺生はしないと、言った。その結果、仲間である人に殺されてしまったんだよ」


 私はぐっと拳に力を入れる。なんて勝手なことだろう。仲間を、殺すだなんて。


  「でもな、その男は最後にこう言っていた。誰かを守れるんなら、こんな最後も悪くねぇな。そう言って、笑いながら死んだらしい」


 その男の話はあの壁の中では聞いたことはない。獣人の生活も、感情が私たちと変わらないことも何一つ知らなかった。


  「現実は上手くいかねぇからよ。俺たちの中にも人は見たら殺すべきだと言うやつも多い」

 

 変わらない。人外だろうと人だろうと、他の生き物であっても。自分たちそれぞれが思う気持ちに従って、狭い世界で動いてしまう時もある。


  「とにかく、ここは危ないから送るぞ?途中までならな」


 その言葉に辺りを見回すと、村からは遠い森の中なのだと気づく。


  「何故私に気づいたんですか?」


  「俺は気配に敏感でな。息を殺しててもいることはわかったし、人だろうと思ったんだ」


 獣人の彼は立ち上がると、こちらに手を伸ばした。


  「他の奴らは時間的に出てこないし、荷台ごと運んでたんじゃ遅いだろう?このまま行けるか?」


  「はい」


 手を取ると、柔らかい手のひらに触れた。爪で傷つけないように優しく包んでくれる。


  「このまま行きましょう。途中までで大丈夫ですから」


 むず痒く、頬が真っ赤になるのに自分でも気づきながら歩き出す。手は繋いだままで。彼は表情には変化なかったが、ユラユラと尻尾を泳がせていた。


  「ここまでだな」


 無言で歩き続けて、ついに終わりが来る。私は笑顔で手を離して、一歩後ろへと下がる。


  「ありがとうございます!えっと…とても心地よい帰り道でした」


  「そ、そうか。気をつけてな」


 彼は恥ずかしそうにはにかんで、その場を去ろうと歩き出してしまう。私は耐えきれずに、声をあげた。


  「いつか、私と貴方が分かり合える日が来るように、私なりの伝え方をしていこうと思います」


 彼は不思議そうな表情で振り返ってその意味を理解したのか、


  「あぁ、いつか会える日が来るといいな」


 そういった時、高い壁が光を灯すのを目にした。それを見た彼は慌てたように走って行ってしまう。その尻尾に私がたまたま持っていたリボンをつけて。もう会うことはないだろうから、せめてもの気持ちだけを。


  彼女は壁の中に無事に戻り、さんざん怒られた。母親には抱きしめられてから叩かれるという、驚きもあったのだが。


  「お母様、私は本を書くわ」


 彼女は、本を書く。出版した時の批判は多くあったが、そこに書かれた物語は見たものの心を揺らすものだった。


  『外の者達との出会い』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 集団がいがみ合い、種族が違っても、個人間では理解し合える相手がいるという良い物語だと思いました。 [気になる点] 段落の最初の一文字が空いていないことが気になりました。 [一言] 応援して…
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