じゃあ、AK-47と生徒会副会長はどっちが強いのかしら
というわけで。
「ホームルームにも遅刻して、授業にも遅刻するってどういうことなのよ!?」
賀茂川楓子の罰に加えて、もう一つ乗り越えなければいけないハードルがあるわけで。
「全く、こっちの身にもなってみなさいよ。あんたと同じ寮だなんて、とっくに皆知ってるんだから」
遅刻指導がやりづらくなるということだろう。
俺には、関係ない話だけど。
それが顔に出てしまったらしく、霧ヶ峰が「あっんったっねえっ‼」と鬼の形相でこちらを睨んでくる。
こいつが生徒にも関わらず、遅刻指導をしているのは、本人の趣味だから――もちろんそれも、霧ヶ峰の場合はあるのだろうが、理由は決してそれだけではない。
霧ヶ峰眩香は、生徒会の副会長だ。
この蕭条学園にあって、生徒会の副会長の座につけるのだから、相当出来る奴ではあるんだが。
しかも何で、いつも俺ばっかり――。
「だらしないったらありゃしない」
霧ヶ峰は、今日のところはもうあきらめたのか、そうため息をついて席に着く。
「生徒会の副会長って」
そう耳打ちしてくるのは、甲賀沼周。
科学技術部とかいう、正式に認められているんだかいないんだか分からないような部活に所属している、変な奴。
「どのくらい強いのかしら」
「強いって……まあ、会長の次くらいじゃないか?」
権力的な意味では、そうなるだろう。
まあ、生徒会長と副会長では、かなり権限に差があることは、ここの生徒会に限って言えばかなり広く知られた事実であるが――。
「じゃあ、AK-47と生徒会副会長はどっちが強いのかしら」
「いやどういう比較だよそれ……」
生徒会副会長と、世界で最も多く使われた軍用銃って、どこをどう比較すればいいんだ――?
「AK-47を使えば、生徒会の副会長なんて簡単に殺すことができるわね」
「日常会話で差しはさむにはかなり物騒なワードが聞こえたが?」
「まあこの程度のワードなら大丈夫でしょう。いざとなれば私が判断するわ」
「お前が判断するのか……」
俺の突っ込みを無視して、甲賀沼は話を続ける。
「でもその一方で、生徒会副会長は自分の意思でAK-47を道具として使うことが出来る。こういう場合、どっちが強いと言ったらいいのかしらね」
今日はやけに哲学的な問題だな――。
「なるほど、哲学だな」
そして黙ってはいられないこの新女王。
「IQ5.3の杉内鳳明にこの問題のはらむ哲学的意義が果たして理解できるか見ものだな。尤も、私とて期待はしていないがな」
「誰がIQ5.3だ……!」
さすがにそんな低くないと思うぞ。
正確に測ったことはないから、実際のところは分からないが。
でも本当だったらかなりショックな数字だ。
「そしてもう一つ、哲学的な問題と言えば、AK-47と某秋葉原を中心に活躍する巨大アイドルグループとの名前の共通性という問題ね」
「それは多分ただの偶然だぞ」
と言うか、こいつ自分の立てた問いに飽きてないか。
まあ甲賀沼と一緒にいれば、こんなことは日常茶飯事だが。
「皆の衆、何を話しておるのだ」
そう言って、俺たちの席に近づいて来たのは、御影千佳。
傍らには、姫ヶ崎――聖花もいる。
この前、あんなことになってしまったから、また気まずくなってしまうのではないか――なんて思い悩んだこともあったが、それはどうやら杞憂に終わったらしく、俺には普通に接してくれている――今のところは。
変わったことと言えば、お互いに名前で呼び合うようになったことくらいか。
かくいう俺は、まだ慣れないけれど。
「ああ、今杉内鳳明がIQ5.3で、主体と客体のどちらにより強い権力が存在するかと言う至極哲学的な問題を思考するに堪える頭脳を持っていないという話をしていたのだよ」
「そんな話してるのはお前だけだ!」
甲賀沼は全然別の話してたし。
鷹司の言い分に、御影は顎に手を当てる。
「何……そうだったのか」
「お前は人を信用するのはいいけど少しは疑うってことも知ってくれ」
「た、多分大丈夫だよ。これから100くらい余裕で上がるって」
必死のフォローを入れる聖花。
「お前もな……」
しかもIQってそんなに急激に伸びるもんなのか――?
御影も姫ヶ崎も、二人とも裏を返せばそれだけ善良な人間ではあるということなんだろうが。
この凶悪な新女王――鷹司知紗季に比べれば。
「確かに……それは難しい問題だ。剣と人との有り方にも通ずる」
「いや、そんな深く考えなくてもいいと思うんだが……」
「ほら、やはり耐えられず話題をそらしただろう」
鷹司が、勝ち誇ったような視線を俺にぶつける。
「やはり杉内鳳明、この問題を論ずるには少々頭が足りなかったようだな」
言い返すのも癪なので、俺は鷹司の言葉を黙殺することに決めた。
こいつにはこうするのが、多分一番いい対処法だろう――。




