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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
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聖花と紗那ちゃんの手作り料理を独り占めしちゃって……図々しいにもほどがあるわよ!

「いい加減にしなさい!」

 そう言って、立ち上がったのは霧ヶ峰だ。

「霧ヶ峰……こいつにもっと言ってやってくれ……」

 俺は、口に何のから揚げかよく分からないものを押し込んでくる紗那を指しながら言う。

 しかし、霧ヶ峰の怒りの相手は違ったようで。

「杉内ぃ……聖花と紗那ちゃんの手作り料理を独り占めしちゃって……図々しいにもほどがあるわよ!」

「え……」

 こっちはそれで苦労していたところなのだが。

「その……私にも……」

 え――。

 こいつも、何か食べさせてくれるのか……?

「私にも食べさせなさいっ!」

「え!?」

 やっぱり、あの量じゃ足りなかったんじゃないか――。

 そうは思ったが、霧ヶ峰は「道明寺さんに食べられちゃったんだから仕方ないでしょ!?」と怒鳴る。それは災難なことで――。

 道明寺も生きるのに大量のエネルギー必要としてそうだからな。

 いや――単に霧ヶ峰のお手製料理が食べたかっただけかも知れない。

「それに、こういうのは皆で……交換して……食べるもんでしょうよ普通……」

 霧ヶ峰に似つかない、すごく牧歌的な光景が思い浮かんだのだが。

「でも俺には交換するようなものもないぞ」

「私にだってそんなもんないわよ!」

 じゃあ図々しいのはどっちだ――。

 あ。道明寺ほかけだ。


「申し訳ありません。わたくし、兄様の分しかお作りしてこなかったものですから……」

 俺と霧ヶ峰の間に割って入って、ご丁寧に謝罪する紗那。

「いいよ、私のもあるし。杉内君はこっち食べたら?」

 姫ヶ崎が、自分の持って来た重箱を示しながら言う。

「それは駄目です! 兄様、兄様は是非ご安心してわたくしの料理をお食べください! 霧ヶ峰様は是非とも姫ヶ崎様の……!」

「そ、そうね。じゃあそうするわ」

「デュフフフ……ぜひ私にも食べさせてほしいですなあ」

「あんたはさっき食べたでしょうが!」

 大口を開ける道明寺を押し返そうとする霧ヶ峰。

「兄様! 今です! さあお口を開けて! 道明寺様に食べられてしまわないうちに!」

「おい待て! 何でお前はそんなに俺にだけ食べさせることに(こだわ)るんだよ!? 普通に皆に分けたらいいだろうが!?」

「駄目です! これは兄様への愛情弁当なのです!」

「おーい、俺にも食べさせてくれよ……」

「その愛情、私にも是非分けていただきたいところですなあ!」

「そうだよ! 杉内君はこっちも! 道明寺さんも食べて!」

「おおっ! 姫ヶ崎女史からの積極的なアプローチ……この機を逃すわけにはいきませんな!」

「聖花! この女の子の手料理馬鹿に間違っても食べさせちゃ駄目よ! 私のでさえほとんど取られたんだから!」

「『女の子の手料理馬鹿』……霧ヶ峰様、なかなかのパワーワードです!」

「おい黒瀬……見てないで助けてくれよ!」

「いや……俺がお前の立場だったら絶対に助けなんて求めないぞ……」

「ちょっとあんた!? 聖花に手出ししたら承知しないわよ!?」


 現在の状況は――。

 俺を真ん中にして、紗那、姫ヶ崎、道明寺、そして霧ヶ峰の身体が密着しあっているという、高校生男子としては喜ぶべき状況なのかもしれないけれど。

 俺はこの状況を素直に喜べない。

 だって言ったら悪いが、紗那の料理と姫ヶ崎の料理、どっこいどっこいの二つに一つだぞ――。

 それと道明寺、美少女オーラ二百パーセントで俺に身体を押し付けてくれるのは本当にやめてくれ――しかも体操服で。

 こいつには俺が変な気を起こさないという確信でもあるのだろうか?

 それに霧ヶ峰も――。

 しかも、それらの多感な高校生男子における諸問題を差し引いても、この状況は暑苦しくて仕方ない。

「紗那! 姫ヶ崎! 分かった、分かったから一旦離れてくれ!」

 俺は、(あえ)ぐように必死でそう叫んだ。


「紗那!」

 俺は、紗那の頭を叩く。

「痛い! でも快感っ……!」

 頭を押さえながら言う紗那。

 そうだった――ついとっさに手が出てしまったが、こいつには逆効果だった。

 それにしても。

「お前が俺に独り占めさせようとするから揉めるんだろうが!」

「でも兄様はわたくし一人の兄様です! ゆえに兄様はわたくしの愛妹(あいまい)弁当だけを口にされるのが必然!」

 まあ、他に姉弟もいないし、紗那の言っていることも正しい――。

 いや。そう言う問題ではない。

「それに、姫ヶ崎も……もっとゆっくり食べさせてくれ」

「……ごめんなさい……」

 俺が言うと、シュンとする姫ヶ崎。

 素直な娘ではあるんだけどな、本当に……。

 でも、何か不満があるようにも見えるな――。


「ねえ」

 俺のそんな思考を(さえぎ)るように、姫ヶ崎の声が耳に入ってくる。

「紗那ちゃんは……紗那ちゃんは、杉内君の……鳳明君の妹だから、鳳明君が紗那ちゃんを名前で呼ぶのは、当たり前なんだよね」

「まあ……そうだな」

 確かに、俺と紗那は苗字は違うが、血の繋がった兄妹だ。

 普通は、兄妹二人が苗字で呼び合うなんてことはしない。

 複雑な家庭の事情がある俺たちだってそうだ。

 つまり。

「それは、紗那ちゃんが鳳明君の家族だから――」

「まあ、それはそうだな」

 家族だから――というより、家族として認めているからかも知れない。

 まず考えられない仮定だが、我が妹から家族として認められていなかったような場合には、もしかしたら苗字で呼ばれる可能性だってあるかも知れないし――。

 俺は、姫ヶ崎にそんなことを言った。

 大体はそんな内容だったと思うが、詳しいことは覚えていない。

 なぜって――。

 それは、姫ヶ崎の次の言葉が、予想外過ぎて、そして衝撃的過ぎたから。

 姫ヶ崎がこんなことを言いだすだなんて、思いもしなかった――。


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