私、今日お弁当作って来たんだ。でも、うっかり作り過ぎちゃって……
霧ヶ峰に命令されるのは毎度ながら癪だが、言っていることはその通りなので、俺も運動場へと向かうことにした。
俺も、もともとあんなところで突っ立っているつもりはなかったし。
というわけで。
二年生の観客席に戻ると、そこにはなぜか紗那が座っていた。しかも、俺が座っていたはずの席に。
「兄様! もうすぐお弁当の時間ですよ!」
一体どこへ行かれていたのですか、という紗那。
「……それより、なんでお前らがいるんだよ」
俺は、紗那の問いには答えないで、紗那の後ろの二人に視線を送った。
黒瀬と道明寺。
よりにもよって、どうしてこいつらと紗那が一緒にいるんだ。
「今日は大活躍だったな、杉内」
俺の怪訝な表情に本当に気づいていないのか、黒瀬は快活な笑みを浮かべて言う。
「女子の騎馬戦に参加した男子なんて、お前が多分初めてじゃないのか?」
「まあ、そうでしょうね。兄様は騎馬戦界のパイオニアです」
「何でお前が先に答えるんだよ……」
しかもそんな先駆者になったって嬉しくもなんともない。
「そういえば、仮装みたいなのしてたけど、あれ結局何だったんだ? 渡辺は何かの余興じゃないかって言ってたんだが」
何か知ってるか、と黒瀬は道明寺に訊く。
「ああ! あれは」
男子二人と紗那に囲まれて、美少女オーラ三十パーセントの道明寺が、人差し指を立てて言う。
「杉内少年は、私の格好をしていたのでありますよ」
「そうだったのか!?」
ただでさえ道明寺と紗那という、二人の美少女と一緒で――俺もこの二人が見た目だけはいいのは認める――テンションが上がっている黒瀬が、一層大声を上げる。
「声がでかいんだよお前は!」
「でも、女子たちに混じって騎馬戦なんて羨ましい限りだぜ。お前が誰かに恨まれるんじゃないかと思って、俺はそろそろ本気で心配だぞ」
不吉な予言をする黒瀬だった。
「電信柱にぶつかるとかですな。是非とも、未来ある少年には気を付けて欲しいところです」
「小さいな……」
妙に軽い不幸を考える道明寺だった。
「騎馬戦と言えば、紗那女史も普段に似合わぬ猛将ぶりでしたなあ」
紗那に視線を送り、美少女オーラ七十パーセントになる道明寺。
こいつの美少女オーラの発生スイッチって、場所じゃなくて注意の対象なんだな――と本気で考察して、それが不毛なことに俺は気づく。
「そうそう。いつものおしとやかな紗那ちゃんが、あんな鬼指揮官になるもんだから、俺もびっくりして目が離せなかったな」
お前が目が離せなかった理由は、別のところにあるんじゃないか――?
しかも紗那ってそんなにおしとやかだとは思えないのだが。
家柄が家柄だから、口調からはそんな感じを受けるが。こいつがおしとやかだったところなんて、ほとんど見たことがない。
「そうだ! お二人も、お昼ご一緒にいかがですか?」
ここに集まったのも何かの御縁ですし、と言う紗那。
褒められて気をよくしたな、こいつ――。
「お! それは本当か!?」
「美少女を囲みながらの昼食は、格別でしょうなあ」
じゃあお前は鏡でも見て食えと思ったが、確かに紗那の提案はいいかも知れない。
「霧ヶ峰様も、ご一緒にいかがですか?」
紗那が、生徒会の腕章をつけて通りかかった霧ヶ峰をその場で呼び止める。
「わ、私はいいわよ、生徒会の仕事もあるし……」
そういえば、ついさっき忙しそうにしてたな――。
「お食事の時くらい、お休みになったらよろしいのに」
紗那がそう言うと、「……分かったわよ」と言って、その場に腰を下ろす。
「お前、忙しいんじゃなかったのか?」
「……私の仕事は終わったからいいの!」
さっきと言ってることが違うぞ、と突っ込みを入れようとしたが、また殴られると嫌なので黙っておいた。
「姫ヶ崎様も是非!」
そう、紗那が霧ヶ峰の頭越しに呼びかける方向を見ると、そこには姫ヶ崎が一人で立っていた。
紗那と霧ヶ峰が手を振ると、彼女も手を振り返してこっちに走ってくる。
途中何度か転びそうになったが、手に携えた包みをひっくり返すこともなく、無事に俺たちのいる場所まで到達した。
姫ヶ崎のような天然ガールは、平地でも転んだりするから危険がいっぱいだ。
「おお! 姫も一緒ですか! それはいいですなあ!」
姫ヶ崎が入っただけで、美少女オーラ百パーセントを振り切る道明寺。
こいつの身体の仕組みを、一度でいいから見てみたいと思うのはこんな時だ。
それにしてもさすがはミス蕭条に他薦で出ただけのことはある。
姫ヶ崎は、俺と霧ヶ峰の間に腰を下ろした。
「確かに、ここが一番安全かも知れないわね……」
そう言いながらも、俺を睨みつけてくる霧ヶ峰。
俺、こいつに何かしたか?
「ところで、その包みは何ですか?」
紗那が問うと、姫ヶ崎はその包みを紗那の前に持ってきて言う。
「私、今日お弁当作って来たんだ。でも、うっかり作り過ぎちゃって……」
その言葉が嘘なことくらい、包みの大きさを見たらすぐ分かる――はずなのだが、姫ヶ崎のことだから案外本当に作り過ぎたのかも知れない。
なんせジュースと間違えてコーラを振って飲もうとする奴だ。
「でしたら、何か敷物を用意しませんと」
紗那はそう言って、ビニールシートを地面に敷く。
「準備のいいやつだな……」
まるでこの状況を見越していたかのようだ。
「では、時間も時間ですし、お食事としましょうか」




