表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
92/149

はいはい、二人は熱々ですよー

「兄様!」

 紗那は、俺に会って早々、全身から憤怒(ふんぬ)のオーラを放って叫んだ。

「なぜ来てくれなかったのですか!?」

 俺の胸を両の拳で叩く紗那。

「わたくしが一番走者だというのに……兄様がどこかでご覧になっていることを思いながら、走りましたのに……!」

「分かった、分かったから泣くなって、紗那……」

 俺が紗那の頭を撫でると、紗那は「えへへ」と笑みを浮かべて泣き止んだ。

 現金な奴だな、こいつも。

 さっきまでの憤怒のオーラはどこへやったのか、俺は本気で知りたいと思う。

「でも、姫ヶ崎様といい雰囲気だったようですね」

 紗那は、一転して厳しい表情を浮かべて言う。

 怒りのオーラ復活――。

 でも。

 俺は、最初自分の耳を疑った。

 そして、次に紗那が適当なことを言っているのではないかと考えた。

 なぜ紗那が、俺が姫ヶ崎と二人でいたことを知っているのか――?

 そして、悪い雰囲気ではなかったことも。

 紗那の徒競走の観戦をすっぽかして、姫ヶ崎と話していたのだから、当然紗那はそのことは知らないはずだ――。

 そう考えて、思い当たった。

 今日は体育祭。珍しく、この蕭条学園の校地内に保護者が立ち入れる日だ。高校の体育祭とは言え、校内には保護者の姿も多い。

 妙子さんが来ていないなんて、どうして思ってたんだ――。

 紗那に俺の日常生活の監視を任せているような相手だ。合法的に校内に立ち入れる日に、姿を見せないなんてありえないことだった。

 いや――来ても姿は見せない。

 その可能性を、考えておくべきだったのだ。

「母様から聞きましたよ。姫ヶ崎様、兄様を前にして真っ赤になっていたとか」

「いや、それは……暑かったから、じゃないか?」

「はいはい、二人は熱々ですよー」

 口をとがらせて言う紗那。しかし、一転して真剣な表情になる。


「やはり、姫ヶ崎様は鬼門院の家には……」

「俺の婚約者にはできない、ってか」

 妙子さんから言われたのだろう。または、鬼門院家の周辺の誰かから。

「姫ヶ崎様が、とても性根(しょうね)の真っすぐな、素晴らしいお方だというのは、鬼門院の家も理解しています。でも、今のままでは家のことなど、とても任せられないと――」

「そうか――」

 やはり――。

 鬼門院の家の人間の考えることは、俺の思いとは正反対のものだ。

 きっと鬼門院の人間の理屈に従うなら、俺のことを思って料理なんて作らなくてもいい、技術があって家を回すことが上手く出来さえすればそれでいい、そういうことになるのだろう。

 鬼門院の嫁は、家を次代に回していく歯車でしかないのだから。

 鬼門院家は、お家が大事。

 その他のことなんて、二の次だ。

 なら――俺にも考えがある。

 誰が姫ヶ崎みたいな奴を、みすみす鬼門院の家なんかに放り込んだりするものか。

 俺が意を決していることは、紗那にも伝わったらしく、彼女は心配そうな表情を浮かべて俺を見つめていた。

 紗那だって、姫ヶ崎のことは良く知っている。

 でも紗那は、鬼門院の人間だ。

 紗那も――きっと、紗那なりに懊悩(おうのう)しているのだろう。

 俺だって、そのくらいのことは理解しているつもりだ。

 理解しているつもりだけど――。

 俺と紗那は時が過ぎるのも忘れて、その場に静止していた。


「あ、ちょっとあんたこんなところで何ぼさっと突っ立ってんのよ」

 俺を現実に引き戻したのは、霧ヶ峰の声だった。

「そこ、仕出しのトラックが通るんだから道開けておきなさい」

 そうだ――。

 蕭条学園の体育祭では、普通の高校とは違って昼休みに仕出し弁当が振る舞われる。さすがの資金力、といったところだ。

 でも、こちらとしては生徒に振る舞ってもらえるとありがたいのだが。

 仕出し弁当が振る舞われるのは、来賓(らいひん)と教職員だけだ。

 あの蜥蜴(とかげ)がそんな豪勢(ごうせい)なものを食べると思うと無性に腹が立ってくる。

「それとも、あんたも手伝ってくれるの?」

 霧ヶ峰がそう言うので、俺は慌ててその場から下がった。

「それに、一般生徒は運動場で観戦してなさい。何が楽しくてこの炎天下の中、こんなところに突っ立ってんだか」

「あのなあ、そこまで言うこと……」

 俺がそう抗議する間もなく、霧ヶ峰は俺に何かを投げてよこす。

 慌てて受け取ったけれど――。

「これ爆発物とかじゃないだろうな」

「あんたは私が何だと思ってるわけ!?」

 両手で掴んだ、ひんやりとした物体を見ると、それは缶ジュースだった。

「……悪いな」

「……その、なんと言うか……今日はあんたも頑張ってくれたし、今日のあんた、なんか……」

 って。

「ジュースついでに何言わせようとしてんのよあんたはっ!?」

「ちょ、ちょっと待て俺は何も……!」

 霧ヶ峰の鉄拳制裁が飛ぶ。

 こいつ――今からこんなに全力出し切って大丈夫なのか。

 霧ヶ峰も確か、午後から徒競走だったはずだぞ。

 でも殴られて忠告する義理なんてないので、それは黙っておいた。

「ほら、あんたもこんなところにいないで、先輩たちの競技でも見てきなさい」

 彼女はそう言うと、忙しそうにその場を立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ