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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
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どこを触ってもいいですから引き離してください!

「何やってんのよあんたたちはっ!?」

 すっかり元気を取り戻した霧ヶ峰の叱責(しっせき)の対象になったのは、甲賀沼と鷹司だ。

「……ごめんなさい」

 甲賀沼は、予想外に素直に頭を下げる。

 こういうときは素直なんだよな、こいつ――。

「私も悪かったと思っている。許してくれ――姫君」

「ううん、私が力不足だったから……」

 姫ヶ崎が、鷹司に謝罪されて両手をあたふたと振る。

「私がもっと頑張ってれば――」

「姫ヶ崎殿は良くやったと思うぞ」

 御影が、そう言って姫ヶ崎の肩を叩く。

「そうよ。本当に感謝してるわ」

「感謝してたら顔に()り入れたりしないだろうが……‼」

 甲賀沼――戦犯の癖して呑気なことを。

 口の減らない奴っていうのはこういう奴のことを言うのかもしれない。

 でも――。

 甲賀沼の運動神経を考えれば、よく耐えてくれた方だと思う。

「お前は良く頑張ったよ――」

 俺は、甲賀沼の細い肩に手を乗せる。

「だって、ほかならぬお兄ちゃんのためだから」

 そう言って、俺に上目遣いをする甲賀沼。

 こいつの妙な「お兄ちゃん」ごっこ、まだ続いてたのか――。

 紗那が今舌打ちしたような気がしたが大丈夫か。まあ、あとは紗那と甲賀沼の問題だ――。


「それでは!」

 気を取り直して、と言って、紗那はポンと手を叩く。

 このしぐさ、バレー部の中で流行してたりするのか?

 それはともかくとして――。

「いよいよ最後の戦いです!」

 そうだ――。

 二回目はあえなく騎馬が崩れてしまったが、今度はそういうわけにはいかない。

 紗那の目指す、女子バスケ部打倒が掛かっているのだ。

「もう一度バスケ部の騎馬を崩さなければ、わたくしも気が収まらないのです」

「うんうん、分かるよ、その気持ち――」

 女子バレー部二人は、やる気満々だ。姫ヶ崎には、若干の疲れが見えるが。

「姫ヶ崎――」

 俺は、一応姫ヶ崎に確認を取ることにした。

「さすがに二回連続だったら疲れたんじゃないのか?」

 何せ、二回とも相手はあの女子バスケ部だ。

 俺と御影だから、体力が持ったようなものである。

 しかも、二回戦目の最後の方は、騎手を支えられなかったし。

 おまけに、騎手に蹴りを入れられる始末だ。

 休んでいた方がいいと、俺は思う。

 それでも、姫ヶ崎は首を振った。

「ううん――私も、紗那ちゃんと一緒にやりたいって気持ちはあるし」

 それに――。

「杉内君だって、頑張ってるし」

 そうだ――病み上がりの俺の姿を見て。

 姫ヶ崎が頑張ろうとしているのだとしたら。

 それを止める権利は、俺にはない。

「――分かった」

「では、出陣です!」

 紗那の合図とともに、俺たちは騎馬を組む。

 バスケ部を倒すために――。

 いけない、いけない――俺も紗那に引っ張られてるぞ。あくまでも本来の目的は――。


「女子バスケ部、覚悟!」

 紗那は、俺たち四人が作る騎馬の上で立ち上がらんばかりの威勢を見せている。

「狙うは女子バスケ部のみです! 後の騎馬には興味ありません!」

 優勝はどうした、優勝は――。

 一番多く騎馬を崩したチームが優勝のはずだ。最初からバスケ部に当たって行ったって、優勝できるわけじゃないぞ――。

 そうも言いたくなったが、優勝を重ねているバスケ部の四人を崩すことが出来れば、優勝するにも等しい栄誉(えいよ)であることは間違いないだろう。

 少なくとも、紗那にとってはそっちの方がずっと意味のある事――らしい。

 そして、姫ヶ崎にとっても――なのか?

 そんなことを考えている間にも、俺たちの騎馬は女子バスケ部のそれに向かって歩みを進めていく。

 (おもむろ)に、御影が立ち止まった。

 俺は前方を見る。

 そこには、女子バスケ部員の壁が立ちはだかっていた――。

 まさに、壁のように俺には見えた。

 これが、最終戦で見せる絶対王者のオーラなのか――!?

 とても、四人で作った騎馬だとは思えないほどの威圧感だ。

 今までは小手調べだったということか。

 いや。 

 紗那の率いる騎馬が来たので、復讐に燃えているのだ――。

 一回戦で崩された復讐に。

 双方、(にら)み合って――。

 先に飛び込んでいったのは、俺たちの騎馬の先頭を務める御影の方だった。

「先手必勝――!」

「御影様! 止まってください!」

 紗那が青ざめたような声でそう告げるが、いくら御影とは言え、そう急に止まれるものではない。

「もらった!」

 バスケ部の女子が、俺たちに組み付いてくる。

 女子たちにもみくちゃにされるが、今の俺にとってはただ苦しいだけだ。

 しかも、胸とか尻に触れてはいけない俺の方が、バスケ部員たちより明らかに不利だ。

 いや――ルール上は触れても問題ないのかもしれないが、俺もその辺の線引きはしっかりしておきたい。いくら戦いとはいえ――。

「兄様! もっと必死に!」

 それを許してくれない奴もいるようだが。

「どこを触ってもいいですから引き離してください!」

「そうだぞ! 騎馬戦の道に男も女もない!」

 俺が女子に接触した事故の時、騒いでいた奴はどこのどいつだよ――。

 そんな反論を考えている場合でもない。

 今にも、俺たちの騎馬は崩れようとしている――。

「紗那ちゃん! 帽子を押さえて!」

 姫ヶ崎が、声を張り上げる。

 そうだ――騎馬戦は騎馬を崩すことだけが勝敗の決め手ではない。

 向こうの騎馬を崩しにかかって、帽子を取られてしまっては意味がない。

「わ! 分かりました!」

 紗那の慌てている様子が、組み合っている俺にも伝わってくる。

 あいつ、今まで忘れてたな――。

「ちょ、ちょっとあんた、痛いじゃない、あっ……」

 必死で脚を振り乱している霧ヶ峰の声が聞こえてくる。

 でも、俺だって自分のことに精一杯だ。

 と言うかどれだけ強いんだ、女子バスケ部って……。

 俺たちより一人少ないはずじゃないか――。

「紗那殿、しっかり掴まっておれ!」

 そう言って、バスケ部員の一人の腕を脚で払いのける御影。

「こいつ、剣道部の――」

 しかし、相手が発したと思われるその声は、俺の横面に叩きつけられる腕の感触に消されて最後まで聞こえない。

 誰かが咳き込んでいる声がする――。

 もはや、それがこちらの騎馬のメンバーなのか、向こうの奴なのかも分からない。

 騎馬が完全に一体と化していた。

 周りの騎馬も、俺たちには組み付いてこない。

 完璧なタイマン勝負と言うわけだ――。

 いや、こっちの方が一人多い。

 一年生だろうか、騎手を務める小さなバスケ部員が紗那に腕を伸ばしているのが見える。

「紗那っ!」

 俺が叫ぶと、御影の腕がそれをブロックした。

 それを機とばかりに、腕に組みついてくる先頭の部長。

 部長対決――なんて言ってもいられない。

 お互いに、他人に見せられないような顔してるぞ――。

 どんな顔だったかは、黙っておいてやろう。

 そういう俺だって、ボロボロに違いない。

「は、放せ、狼藉(ろうぜき)者――!」

 多分、御影も自分の言った言葉なんて覚えていないだろう。

 それくらい、両者とも本気で、この状況はカオスだ。

 俺の目の前には、誰のか分からない腕しか見えない。

 完全な肉弾戦――。

 もはや、騎馬戦なんだか何なんだか、俺にも分からなくなっていた――その瞬間。

 その場に秩序を取り戻すように、笛の音が鳴り響いた。

「皆様」

 それまでとは打って変わったような、温度の低い紗那の声が響く。

「わたくしを下ろしてください」

 弘学寮チーム――敗退。

 女子バスケ部に勝つことは叶わなかった。

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