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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
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お前な……避けるのはいいけど、もう少し下に配慮して動いてくれないか……

 その後は。

 俺たちの騎馬は、快進撃を続けた。

 女子の騎馬戦の中に男子が一人入っているのだから、よくよく考えれば反則のような気もするが、この快進撃には紗那のいささか暴力的な指示と御影の身のこなしの貢献が大きい。

 結局最後まで残ったのは、三十七組中五組だけであった。

「道明寺様の騎馬も、残っているようですね」

 すっかり閑散(かんさん)とした運動場を見渡して、紗那が言う。

「ぜえ……はあ……」

 霧ヶ峰は、すでに体力の限界に達しているようだった。

「こんなんあと二回やんなきゃいけないの……」

「では鷹司様と交代されますか?」

 騎馬を崩して位置に戻るよう指示がされると、紗那は霧ヶ峰に尋ねた。

 後ろでは、鷹司が腕を組んで立っている。

「霧ヶ峰眩香、そんなに私と交代したいか」

「はあ……はあ……頼めるならね……」

 すっかり息も上がり、絞り出すような声で言う霧ヶ峰。

「そうか……では、何かの代償が必要だな」

「な、何よそれ……」

 反論しようにも、もうその気力が残っていないようだ。

「例えば、今後一年間私の命令には(そむ)かないと約束するとかはどうだろうか」

 かなり強気に出たな――。

「あるいは、今後七年間にわたって日曜日は私の命令に従うというのもあるぞ」

「だ……誰があんたなんかに……」

「騎馬を代わってくれと頼むのだったら、何かそれに相応しい返礼をするというのが礼儀と言うものだろう」

「あんたってのは……」

 荒い息を吐く霧ヶ峰を見て、さすがにやり過ぎたと思ったのか、鷹司は、

「冗談だよ。全く、これだから洒落(しゃれ)の分からないミニ風紀委員は困ったものだ」

と言って、霧ヶ峰と位置を交代した。

 ただ、霧ヶ峰が意外に体力がないというのは盲点だった。

 俺を殴るときのパワーから考えると、もっと体力が持ってもよさそうなものだが。持久力はあまりないことが分かった。

 その点も考慮して組み合わせを考えておくべきだった、と思う。

「では、わたくしは甲賀沼様と」

「これからは、私を紗那ちゃんだと思って可愛がってね、お兄ちゃん」

 何を勘違いしてか、甲賀沼は俺に上目遣いな視線を投げる。

 お前にとって「お兄ちゃん」ってどんな存在なんだよ――。

 こいつ絶対リアル兄貴居ないな。

 いてもこういうことをしかねない奴も、目の前にいるけど。

「ん? どうされましたか、兄様?」

 紗那に言われて、俺は紗那から目をそらす。

 ともかく、甲賀沼の発言は無視することにしようと俺は心に決めた。

 俺はこんな甲賀沼のおふざけなんかに心を動かされたりしない――。


 結局、二回戦の騎馬は先頭に御影、真ん中に俺と姫ヶ崎、一番後ろに鷹司という形になった。騎手を務めるのは、甲賀沼である。

「兄様! 頑張ってください!」

 もう道明寺なりきり作戦は終わったのか、大声で俺に声援を送る紗那。

 尤も、俺が道明寺ほかけだと思う人なんて、本物の道明寺が参戦した以上、いるはずもないからまあいいんだけど――。

「ありがとう。私も紗那ちゃんの兄として頑張るわ」

 お前に言ったんじゃないんだよ――妹になったり兄になったり忙しい奴だなこいつは。

 そんな突っ込みを入れる暇もなく、放送部員が大袈裟な前口上を終える。

「位置について、用意!」

 空砲の音が鳴り響き、二回戦が始まった。

 バスケ部の騎馬が、早くも俺たちをめがけて突進してきた。

 一回戦の復讐、と言うことだろう。向こうも本気で向かってくるはずだ。

 しかし、相手はこちらの騎馬の上に見覚えのない騎手が鎮座(ちんざ)していることに、少し動揺しているようだった。

「あのバレー部の奴じゃないのか……」

 そんな声が、向こうの騎馬から聞こえてくる。

「私も、バレー部なんだけどな……」

 姫ヶ崎が悲し気に呟く。部活ではあまり目立たないのだろう。

「とにかく、そんなことより帽子だ!」

 そう言って、騎手が甲賀沼の頭に手を伸ばす。

 対する甲賀沼は、全身を使ってバスケ部員の魔手(ましゅ)を逃れた。

 意外と素早い身のこなしだ――。

 しかし甲賀沼の動きがあまりにも大きいので、その度に騎馬を建て直すのに時間がかかる。

「お前な……避けるのはいいけど、もう少し下に配慮して動いてくれないか……」

「シュー、シュー、シュー」

 あまりにも下手な、カンフーの真似事をする甲賀沼。

 その度に、下の四人が動かざるを得ない。

「私はこれでも十分配慮はしているつもりよ。でもこうでもしないと敵の攻撃はかわせないわ」

「今は攻撃受けてないんだからいいだろ……」

「甲賀沼殿! 無意味に動くのは止めろ! 騎馬が崩れる!」

 騎馬の先頭で甲賀沼を支える御影も、彼女を抑えるのに必死だ。

「鷹司からも何か言ってやってくれよ……」

「私には関わりのないことだ。あとは君たちで何とかしてくれ」 

 こいつ――。

 鷹司に振ったのが間違いだったようだ。

 俺や姫ヶ崎と手を組んで、ついてきているだけなのか――?

「お前もしっかりやれ!」

「貴様にそんなことを指図されるいわれはないな。それに、今日は機嫌が悪いんでな。ああ、それは貴様のせいではないから気にするな。あのミニ風紀委員が――」

 こいつが支えていないから、甲賀沼の体勢が不安定になってるんじゃないのか――?

 でも騎手は本来三人で支えるもの。

 それは分かってはいるが、それにしてもだ。

「ごめんね、杉内君……」

 姫ヶ崎が、息を荒くして言う。

「私、もう駄目かもしれない……」

 そう言い終わらないうちに、甲賀沼が振り回していた脚が姫ヶ崎に当たり――。

 俺たちの騎馬は、あえなく崩壊した。

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