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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
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皆が団結して人馬一体とならなければ、この戦いを勝ち抜く事などできません

「杉内鳳明」

 俺より背は少し低い癖に、なぜか見下ろす気満々の視線を俺にぶつけて、鷹司は言う。

「待たせてくれたな。やっと回復したというわけか」

 だったら、私の出る幕はなくなるわけだ、と鷹司は続ける――。

 いや待て。

「鷹司様も出てくださらなければ困ります!」

 選手たちの待機場所から立ち去ろうとする、鷹司の半袖の運動着から露出した白い腕をつかんで、引き留めようとする紗那。

 おそらく、鷹司にここまで大胆に身体的接触を試みた奴は、紗那が初めてに違いない。

 そうだ――今日は、体育祭の当日。

 頭の()れも収まり、熱も下がって、俺は完璧に復調していた。

 これも、姫ヶ崎のおかげだ。

 姫ヶ崎がいなければどうなっていたことか――。

 体育祭云々以前に、この寮の面々は空中分解していた可能性だってあるわけで。

 尤も、だから今は一枚岩になっている、なんてこともないのだが――。

 それは鷹司と霧ヶ峰の二人を見てもすぐ分かることだ。

「あんたってば、本当にいい加減にしなさいよ」 

 腕を組んで、苛立(いらだ)った声を上げるのは、霧ヶ峰だ。

「本当に協調性ってもんがないんだから、蕭条(しょうじょう)の女王様は厄介でございますわね」

 揶揄(やゆ)するようにお嬢様言葉を使う、霧ヶ峰。

「君にそんなことを言われる筋合いはないな。ミニ風紀委員さんよ」

 鷹司が、霧ヶ峰に冷笑するように言い返す。

「全く、これから騎馬を組むというのに……これでは話にならないぞ」

 御影が、額を手で押さえながら呟く。

「そりゃそうだけどねえ……大体、練習だって真面目に出て来たことあった?」

「昔の話を混ぜっ返すのは、あまり賢明な者のすることだとは思えないがね」

 胸を張って返す鷹司。

「それに、ヒーローは遅れてやってくるものだと言っただろう。尤も、ただわめくだけが能のミニ風紀委員さんにそこまでの記憶力も期待していないがね」

「あっんったっねえっ……!」

 怒りに身を震わせる霧ヶ峰と、それでもなお挑発するような視線を投げかける鷹司。

「今の話とは、関係ない事かもしれないけど……」

 そんな二人をよそに、甲賀沼が挙手して発言する。

「どうして体育祭にはりんご(あめ)や焼きそばの屋台がないのかしら。私は、それがずっと不思議だったのだけど」

「りんご飴……焼きそば……?」 

 不思議そうな表情を浮かべる姫ヶ崎。当たり前の反応だろう。

 というか、本当に関係ないぞこの話。

「金魚(すく)いも、綿あめもない」

「それが、どうかしたのですか?」

 紗那の質問に、甲賀沼が返す。

「だって不思議じゃない。体育祭だって、祭りと言う言葉が入っている以上は、お祭りの一つでしょう。だったら、そういう屋台の一つも出て然るべきじゃないかしら」

「確かに、そうだね」

 納得する――というよりは屁理屈に押し切られているように見える姫ヶ崎。

「まあ、私もお面をねだるような歳でもないけどね」

 綿あめはねだるけど――という甲賀沼。

 食べ物にしか興味ないだけだろそれ――。

「でも射的があるから、まあよしとしましょう」

 体育祭で使う、あの空砲のことか?

 あれは射的とは全く違うものだと思うんだが――。

 なんてこいつの発言をまともに考え出したら負けだ。

「とにかく!」

 甲賀沼の話を契機とばかりに、手をパチンと叩く姫ヶ崎。

「最後まで騎馬を崩さないように、皆で頑張ろうね!」

 彼女がそう言うと、御影が「そうだな」と言うのを皮切りにして、一触即発だった霧ヶ峰と鷹司も、「私は射的でキャラメルの箱の天使のマークだけ狙って穴を開けるのが小学生の頃の夢だったの」なんて誰に言うともなしに言っていた甲賀沼も、皆姫ヶ崎に視線を合わせて頷いた。

 この五人の中にも、姫ヶ崎を中心として連帯感のようなものが生まれたみたいだ。

 俺は、姫ヶ崎に向かって微笑みを向ける。

 彼女は照れるような顔をしながら、微かに瞼を動かした。

 きっと、ウインクのつもりなのだろう。

 とりあえず、一件落着――。

 いや。

 ただ一人、安心できない奴がいる――。

「私は認めません!」

 紗那が、姫ヶ崎に文字通り食ってかかった。

「私たちの目標は、あくまで打倒女子バスケ部、アンド一位獲得! 騎馬を崩さないことが目標ではありません!」

「おい、紗那お前……」

 こいつ完全に当初の目標忘れてるな――。

「私は絶対に女子バスケ部に勝ちたいのです‼ 私の言っていることは遠すぎる理想でしょうか!? 叶わぬ夢なのでしょうか!?」

「あんたねえ、誰もそんなこと言ってないじゃない」

 ヒートアップする紗那を、霧ヶ峰が制止にかかる。

「そもそも騎馬が崩れたら、女子バスケ部に勝てるわけないでしょ」

「それはそうですが……」

 うなだれる紗那に、数十秒前とは打って変わった冷静な口調で鷹司が言う。

「そうだぞ、鬼門院紗那。霧ヶ峰眩香は気に食わんが、奴の言っていることにも一理ある」

「いちいち人を怒らすようなことを言わないと気が済まないのあんたはっ……!?」

 肩を怒らせる霧ヶ峰。

 相手が鷹司だからこの程度で済んでいるだけで、相手が俺なら多分鉄拳が飛んでいるところだ。

「まあまあ、二人とも……」

 見かねた姫ヶ崎が、二人の間に割って入る。

「そうです。皆が団結して人馬一体とならなければ、この戦いを勝ち抜く事などできません」

 紗那も、二人に諭すように言う。

 ただ。

 ちゃっかり騎馬の奴らのこと馬扱いしたぞこいつ――。

 納得いかないな。

「まもなくだぞ――」

 そんな俺の強烈な違和感をよそに、運動場の東側にそびえたつ時計台に視線を送り、御影がそう呟く。

 辺りを見渡すと、皆緊張した表情を浮かべている。

 霧ヶ峰と鷹司の二人も、さっきまで()めていたのが嘘のようだ。

 そして、それは弘学寮の出場者だけではない。この場に集まった生徒たち、全員にそれは言える。

 皆、目の前の騎馬戦のことだけを考えている。

 道明寺ほかけのなりきりセットを着ている俺の異様な風体に、誰も気づかないほどに――。


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