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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第四章「最後はやっぱり愛、ですよね!」
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鷹司女史は言葉責めをしながら首に葱を巻くのが上手と評判ですからなあ

 俺が倒れてから、ちょうど二日後。

 あれから、少しは熱が下がり、朝測ったら三十八度台になっていた。それでも、平熱と比べればかなり高い。

 体育祭までは後五日だが、多分騎馬戦には出られないだろう。

 他の競技なんてどうでもいいが、紗那のあんな姿、あんな表情を見た手前、騎馬戦だけはどうでもいいとは思えない。

「兄様」

 そんなことを考えているさなか、紗那が部屋に入って来た。

 いつものように、ノックをすることもなく。

「黒瀬様と道明寺様が、お見舞いに上がっております」

 紗那はそう言うが、廊下から聞こえてくる足音は確実にそれよりも多い。

「黒瀬様、道明寺様、どうぞこちらへ」

 まるで自分の部屋であるかのごとく、二人を俺の部屋に案内する紗那。 

 そう思っている間に、俺の部屋を後にし、廊下の外に出て「お待たせ」と言う声が聞こえてくる。

 多分、紗那の同級生か何かなのだろう。

 紗那も俺を通すことなく、普通に人間関係を築けているとして、俺は少し安心した。

 いや――でも、小さいころから紗那の方がずっと社交性はあったか。

 俺が心配するまでもないことだった。

 でも、紗那に友達ができていることを知ると、やはり安心する。

 というか――紗那は俺とその周辺の人物以外には、普通の話し方をするんだな――。紗那の友達なんか会ったことも見たこともないので、知らなかった。


「まったく、いい兄っぷりですなあ」

 そう言って道明寺が部屋に入ってくる。

 俺の思考がこいつに漏れていたのか? いやでも、三十八度もある今の俺ならやりかねない。

「いえ、言わなくても分かります」

 道明寺が言う。

「紗那女史の声を聞いた時の安心しきった顔……」

 ああ、なるほど。知らず知らずのうちに顔がほころんでいたというわけか。

「よう、杉内」

 そう言って道明寺に続くのは、黒瀬。

 今日は黒瀬がまともに見える――つい一昨日、あんなことがあったからかもしれないが、こいつは美少女の前以外では、意外とまともだったりする。

 そして道明寺も、今日は印象が違うような気がした。

 やはり道明寺は美少女に囲まれている時が一番可愛い。

「元気……なわけないよな」

 そう言って、俺の寝床の傍らに腰を下ろす二人。

「しかし紗那ちゃんたちに寄ってたかって看病してもらえるなんて、お前は前世でどんな功徳を積んだんだ?」

 唐突に病人に向かってそれを言うか――。

 前言撤回。

 あれが功徳の結果だったら徳なんて積まない方が身のためだ。

「そうそう。風邪冥利に尽きるでしょうなあ」

「風邪冥利って何だよ風邪冥利って……」

「あ、そういえば」

 今日のプリントは渡ってるよな、と黒瀬が問う。

「霧ヶ峰が届けてるはずなんだが……あ、あった」

 床の上に放置されているプリント類を見遣って、黒瀬が言う。

 そうか――俺が寝ている間に、霧ヶ峰が届けてくれたというわけだな。

「霧ヶ峰女史に任せておけば安心ですなあ」

 道明寺はそう感心したように言う。確かに、霧ヶ峰の妙な安心感は否定しないが。


「こういうとき、どういうものがいいか分からなかったから、とりあえず果物だけ持って来た」

 そう言って、一か月くらい前、俺たちがカレーの材料を買いに行ったスーパーのレジ袋を鞄から取り出す黒瀬。

「今日は、杉内少年のお見舞いに上がったのですぞ」

 道明寺が、黒瀬の持っているレジ袋から果物を取り出して、俺に見せる。

 実のところ、俺はこの二日間まともに食事もとっていない。かといって、いきなり普通の食事に戻れるわけもなかった。

 正直に言ってこういうものは有難い。

「でもなあ……」

 黒瀬がため息をつくように言う。

「俺たちが剥くより、お前と一緒に住んでる美少女たちに剥いてもらった方が、お前も嬉しいだろ」

 いや――そんなことはない。

 一昨日の惨状を見ていないからそんなことを言えるのだ。

 できれば、道明寺の方に剥いてもらいたいけれど。

「仕方ないですなあ、杉内少年は」

 俺の希望を聞くこともなく、道明寺は笑ってそう言う。

 そういえば、こいつの料理なんて食べたことがないな。一体どんなものなのだろう。クラスも違うから、家庭科の班も一緒にならないし――。

 たかが果物の皮を剥くくらいの話から、俺の想像はそんなところに飛んだ。

 黒瀬は、土産の果物を袋に入れたまま旧式の冷蔵庫に仕舞う。

 大体この寮は冷蔵庫もかなり古い。しかも小さい。前の光潤寮の冷蔵庫の方が、新しくて立派だった。

 備え付けになっているので文句も言えないが。

 俺たちが入居する前にきちんと修理されているのか、それすらも心配になる。


「これは私からのお見舞いですぞ」

 そう言って、黒瀬と一緒に行ったのだろうか、同じ駅前のスーパーのビニール袋から、アイスクリームの箱となぜか葱を出す道明寺。

 俺が不思議そうな顔をしていると、道明寺が言った。

「知りませんかな。葱を首に巻いて寝ると、風邪の直りが早くなると昔から言いますから。鷹司女史にでも巻いてもらって下され」

 俺が不思議に思ったのは、それを考えて葱を買ってくる道明寺自身だ。

 いまだにそんな民間習俗を信じているのか――どこのおばあちゃん子だ。

 しかもなぜ鷹司をわざわざ指名した。

「鷹司女史は言葉責めをしながら首に葱を巻くのが上手と評判ですからなあ」

 知らなくてもいい情報を自慢げに語る道明寺。

 しかも多分「首に葱を巻く」と言うのは誤りで「首を葱で絞める」と言うのが正しいと思う。

 いろいろ言いたいことはあったが、道明寺の好意は有難く受け取ることにした。

「では、冷凍庫でいいですかな」 

 そう言って、勝手に旧式冷蔵庫の下の部屋、冷凍庫とも言えない冷凍室にビニール袋を入れる道明寺。


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