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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第四章「最後はやっぱり愛、ですよね!」
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……兄様も参加されなくては駄目なのです

「やはり、良くありませんか」

 昨日の騒乱を、さすがに紗那も反省したらしく。

 すっかりしょげ返って、俺の枕元に膝を並べてそう尋ねた。

「ああ――」

 さっき、一人で熱を測った。三十九・七度。

 俺は平熱も三十五度くらいでそんなに高くない方だから、四十度くらいは行っているかもしれないと思っていたが、そこまではなかったようだった。

 でも体感では、ほとんど四十度だ。

「昨日はすみませんでした」

「ああ……もうお前以外は部屋に入れない」

「兄様……」

 何を勘違いしてか、紗那の顔が一気に赤くなる。

「兄様……そんな大胆な」

「お前を部屋に入れるのもどうしようかなあ……すぐそんな発想をする奴は危険すぎて部屋に上げられないかなあ」

「兄様! 今の発言取り消します!」

 紗那はそう言うが、誤解を取り消すとは言っていないのがポイントだ。

 こういう言葉で何度か足を掬われた経験のある俺としては何とも言えない。

「でも、困りました」

 紗那が、真面目な表情になって切り出す。

「兄様には、ゆっくり休んでいただきたいのですが……体育祭まで、あと六日でしょう」

 それまでに俺が回復しなければ、騎馬戦に出場することはできなくなってしまう――。

 もともと出場する気なんてなかったが、あれほど練習に付き合わされたのに、今更出られませんでしたでは後味が悪すぎる。

 大体あの時間はどうなるんだ――。

 俺たちが、今までずっと練習してきた時間は。

 これじゃあ、姫ヶ崎と御影の触り損じゃないか――。

 いや、姫ヶ崎と御影にとっては触られ損というのか?

 それも違うな――俺の投げ飛ばされ損、殴られ損、その他もろもろ損……考えるだけで嫌気がさしてきた。

 まあとにかく、そんなことはさておき。

 やはり俺にだって、ここまで練習を続けてきたのだから、出たいという気持ちはある。

「まあ――他の奴らがどうか分からないけど」

 鷹司は、結局練習に一回も顔を出さなかった。

 その他にも、紗那が「やる」と言うから練習には仕方なく顔を出しているが、実はそんなにやりたくないという奴も、寮にはいるかもしれない。

 何より、もともとは紗那が全員の同意を得もしないで勝手に言いだした話だ。

「でも……」

 紗那は、悲し気な表情を浮かべた。

「やはり私は、七人で出たいと思っています」

「それは――」

 鬼門院の嫁を選ぶための、その手段としてではなく、と言う意味だろうか。

 なるほど――。

 こいつ、練習をしている間に騎馬戦自体が楽しくなってきやがったんだな――。

 「女子バスケ部に勝つ!」だなんて息巻いていた時から、その気配はあったのだが。

 でも、紗那にとってはいい傾向だろう。

 紗那の、この寮の皆に対する考え方も変わってきているのかもしれない。

 鬼門院の家を存続させるための、言ってみれば道具――最初は、そんな風に考えている節もあった。

 でも今は、そんなことは考えていないはずだ。

 この中から俺に婚約者を選んでもらう、と言う宿願は変わっていないにしても。

 それは紗那にとって――そして俺たちにとって、大きな進歩だと言っていいのではないだろうか。

「せっかく、今まで練習してきたことですし……」

 紗那は、まるで俺の反応を推し測るように、おずおずと俺の顔を覗き込みながら言う。

「この七人で勝ちたい、ってことだろ」

 俺が言うと、紗那ははっとした表情で「はい」と答える。

「一人たりとも、欠けてはならないのです。なぜだか――わたくし、そう考えるようになってまいりました」

 もしかして、俺に鷹司の衣装を着せて練習に参加させたのだって、紗那なりの意図があってのことだったのかもしれない。

 鷹司を挑発して練習に参加させるという、紗那なりの意図が。

 でも――。

 結局七人全員が出ることはできなくなる。

 少なくとも、今のところはその可能性が高い。

 こうして、俺が臥せっている以上は――。

「五人で出ればいいのではないか、と言う意見も出ています」 

 きっと、鷹司の意見だろう。俺と鷹司自身を除いて、五人。

「そして、道明寺様に代わりに出ていただいてはどうかという意見も」

 これは誰が言ったのか分からないが――案外、筋の通った意見ではある。エントリーシートに書かれているのは、俺の名前ではなく道明寺の名前だ。

「でもわたくしは……兄様と」

 紗那は、ほとんど涙声になって言う。

 よく泣くところは、本当に変わらないな、こいつは。

「……兄様も参加されなくては駄目なのです」

 きっと、こいつにとっては、俺を含めたこの寮の七人で出ることに、何か意味があるのだ。

 正直に言って、俺には良く分からない。

 でも、それが紗那の希望なら、叶えてやりたいという気持ちはある。

 それでも、俺が体育祭までに復調するとは約束できない。

 こればかりは、俺の意思でどうにかなるわけでもない。

 そもそも倒れたのだって俺の意思ではなかった。本当だったら、あそこで俺が紙袋を紗那に叩きつけて、ついでに鷹司を運動場まで引きずりだして、練習に連れてきて――。

 後一週間あっても、勝てるかどうかは分からない。

 でも、紗那も満足する結果は得られたはずだ。 

 しかし――。

 実際は、俺はこうして部屋で寝ていることしかできない。

 俺が、いい兄だなんて嘘だ。

 本当の俺は、こんなにも不甲斐ない奴。

「紗那……」

 俺は、紗那が手を握っている感触を感じる。

「ごめんな……」

 紗那は、言葉を返すことはしなかった。


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