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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第四章「最後はやっぱり愛、ですよね!」
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兄様がもう二度とお目覚めにならないかと、わたくし気が気ではなく……

 俺が目を開くと、そこには紗那の心配そうな顔があった。

「兄様‼ お目覚めになられたのですね」

 まるで俺が車にでもぶつかって意識を失っていたかのように、大袈裟に言う紗那。

 俺が意識を失っていたというところまでは合っているが。

 そして、俺の背中には何やら柔らかい感触が。

 どうやら俺は運動場で倒れて、そのまま紗那に保健室のベッドに運ばれたらしい。

 保健室と言っても、そこは蕭条学園。ごく一般的な高校の保健室に比べれば、かなり広い部類に入るだろう。そして、ベッドの数も多い。

 俺はその一つに寝かされているというわけだ。

「あんたが倒れたって聞いたから、聖花たちが保健室まで運んでくれたのよ」

 霧ヶ峰が、わざわざご丁寧に状況を説明してくれた。

 俺の身に異変が起こったことを聞きつけて、わざわざ生徒会室から飛び出してきたのだという。

「わ、悪いな……」

「聖花はもう行ったわよ」

 あんたが、なかなか目を覚まさなかったからね――と霧ヶ峰は言う。

 俺の体感時間にしてみれば一瞬。

 そんなに眠り込んでいたつもりはなかったのだが。

 それに、悪いなという言葉は何も姫ヶ崎だけに言ったものではない。

 霧ヶ峰は誤解していたようだが、俺はそれを正すことはせず、窓の外に視線を移した。

「あ――」

 姫ヶ崎たちも帰るわけだ。

 運動場にいた時は、まだ陽が高かったのに、保健室の窓を通して見る空はすっかり暗くなっていた。

 壁にかかった時計を見る。九時十三分――。

「兄様がもう二度とお目覚めにならないかと、わたくし気が気ではなく……」

 瞳に涙さえ浮かべる紗那。

 そんな彼女を見て霧ヶ峰もちょっと引いているように見えるが、「あんたをこんなに心配してくれるのなんて、この娘くらいじゃないの……」と言う。

 そりゃ悪かったな――。

 どうせ他に心配してくれる人なんていない。というか、お前がもっと心配しろ。

 いや――でも紗那が本気で心配してくれているのは事実だ。それこそ、大袈裟なくらい。

 俺がそんなことを考えていると、引き戸が開く音が聞こえた。

「おお、起きたか」

 その声を聞いて、俺はドアの方に視線を動かす。寝ているので全身を見ることはかなわなかったが、ベッドに身体を横たえながらでもあの位置で頭頂部が見える。

 こんなに背が高い知り合いは、御影しかいない。

「貴殿には熱があるようだな」

 頭がボーっとしているのは、そのせいか。

「最初は熱中症ではないかと思ったのだが、保健室に連れ込んでもなかなか熱が取れなくてな。おそらく、風邪ではないかと思うのだが」

 熱が取れなくて――それをどういう手段で知ったのかは気になるところだが。

「とにかく、貴殿はゆっくり休まれるとよい」

「でも、ずっと保健室で寝かせとくわけにもいかないでしょう」

 確かに霧ヶ峰の言う通りだ。このまま夜通し保健室にいるわけにもいかない。

「兄様、立てますか?」

 そう言って、紗那が俺に手を差し伸べる。

「ああ」

 俺は紗那の助けを借りないで、ベッドから立ち上がった。まだ少し、足がふらつく。

「兄様‼」

 紗那が慌てて俺の身体を支える。

「思ったより、深刻そうね……」

「紗那殿だけでは重いだろう。私も手伝うぞ」

 そう言って、御影が俺の腕を肩に回そうとする。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……」

 一人手持無沙汰になった霧ヶ峰が言う。

「ああ、霧ヶ峰殿は須甲先生に鍵を返してきてくれ」

「……分かったわよ」

 霧ヶ峰は、なぜか嫌々ながら、という表情を浮かべて返答する。

 さすがの須甲先生も、この時間になると校内には残っていない。校地の中にある教職員寮に住んでいるので、今なら直接行って鍵を返せるだろう。

 でも、確かにここから教職員寮まで行くのは面倒ではある。

「では頼んだぞ、霧ヶ峰殿」

 保健室に一人残った霧ヶ峰にそう言い残し、「では、参るか」と言って御影は俺の身体を支えながら一歩踏み出す。

 今の俺は相当情けない恰好だろうな、という考えだけが、俺の朦朧(もうろう)とした頭に浮かんでは消えていった。


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