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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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ボケ防止に効果があるのってミョウガだったかしら

 しかし――。

 翌日の、五日目の練習。

 俺の予想に反して、姫ヶ崎が運動場に姿を見せるようになった。

 料理の練習はペースを減らして、ということにしたのだろうか。

 いや。俺は、そうは思えない。

 相変わらず、姫ヶ崎は夜な夜な料理の練習をしているのだろう。

 ここまでくれば、もう執念(しゅうねん)だ――。

 姫ヶ崎の粘り強いところ、頑張り屋なところ、生真面目なところは、確かに美点だろう。

 でも、いくらなんでもやり過ぎなのではないだろうか。

 引っ込みがつかなくなるのは、分かるにしてもだ。

 俺はそう思ったが、姫ヶ崎にそれを言う資格は、俺にはない。

 俺が、姫ヶ崎に火をつけてしまったのだから――。

 そう思って、俺が姫ヶ崎の顔を見てみると、その疲れ切った表情の中に、俺への恨みが(こも)っているようで。

 俺は、目をそらさずにはいられなかった。


 考えてみれば、俺は姫ヶ崎に三回も恨まれるようなことをしている計算になる。

 一回目は、無理やりこの寮に連れてこさせたこと。

 二回目は、カレー対決での審査の件。カレーを一滴だけ飲んですぐに吐き出したこと。

 三回目は、騎馬戦の練習中の事故。姫ヶ崎の胸に俺の頭が載る形になってしまった。無理やり触ったのだと思われているかもしれない。

 三度目はともかく、一回目と二回目は男とか女とか関係なく人として最悪の所業だ。

 だから――。

 姫ヶ崎と微妙な関係になるのも、当然と言えば当然か。

 一度目の時は、俺たちにアドバイスまでしてくれた姫ヶ崎だったが、それだって本当はどう思っているかなんて分からない。

 俺はどうすればいいんだ――。

 誰に訊いても正解なんて出てこないのは分かり切っているのに、そんな言葉がつい口から洩れそうになる。

 今、姫ヶ崎は何をしているのだろうか?

 今夜はしっかり寝ているのだろうか――。

 その夜も、夜通しそんなことばかり考えて過ぎていったことは、言うまでもない。

 

「兄様⁉」

 紗那が、驚いた顔で俺を見つめている。

「どうされたのですか⁉」

「いや、これはちょっと……」 

 姫ヶ崎のことを考えていたら眠れなかった、とも言えない。

 どこをどう歪曲されて話が広がるか分かったものではない。

 それが今の姫ヶ崎の耳に入ったりしたら、目も当てられない。

「だいぶお疲れのようです……」

「そうね」

 甲賀沼が、俺の顔を覗き込む。

 こいつもいつもふざけた奴だが、顔は腹が立つほどいいので、普通なら俺も心をくすぐられるところなのだろうが、今の俺はそれさえ感じなかった。

「野球部と騎馬戦練習を両立して、疲れがたまるのも仕方がない……」

「おいちょっと待て、俺は卓球部だが」

「でも目の下に(すみ)塗ってるじゃない」

 そうか――目の下のクマが、そう見えたのだろう。

 一日や二日徹夜しても問題ない。そう思っていたが、やはり一週間近くも続くとクマも濃くなるらしい。

「あれの正式名称はアイブラックっていうらしいわね。日本人は欧米人と比べて顔が扁平(へんぺい)だから、塗ってもあまり効果はないと言われているけど。確かに私と杉内君だったら、杉内君の方は塗ってもあまり効果は無さそうね」

「お前は欧米人じゃないだろ――」

 エリザベス・佐藤をまだ引っ張ってるのかこいつは――。

「まあそれはいいとして。歌舞伎と騎馬戦練習を両立して、疲れがたまるのも仕方がない……」

「俺が作ってるのはその隈じゃないんだよ」

「歌舞伎と野球部を両立して、疲れがたまるのも仕方がない……」

「騎馬戦なくなってるじゃねえか」

「本当に良く頑張ったわね……」

 そう言って、甲賀沼は突然俺の頭を()でだす。

 普段なら抵抗しているはずなのだが、俺はとことんまで疲れていたので甲賀沼にされるがままにした。

「他人として誇りに思うわ」

「そこで他人って言葉が出て来るとは思わなかったな」

「どうぞ安らかに……」

「死んだみたいに言うな……と言うか本当に疲れてるんだからボケるのも控えてくれないか」

「ボケ防止に効果があるのってミョウガだったかしら」

「多分それは逆の効能だと思うぞ……ってそのボケじゃないんだよ俺が言ってるのは!」

 こいつと会話していると本当に疲れる。

 今日は特に。

「兄様……あまりお怒りになるとお身体にさわります」

 心配してくれるのは紗那だけだ。

 今日は御影もいない。霧ヶ峰もいない。遅くとも参加できるのは六時を回ってからだという。皆それぞれに、他にやることがあるのだ。

 そして、件の姫ヶ崎も後から参加するという。

 ――と言うか。

「お前は科学技術部はいいのか……?」

「ええ。今日は活動はないわ。全国ツアーが始まると忙しくなるけど」

「ちょっと待ってくれ、今本当に突っ込めないんだ……」 

 突っ込みを入れるのにもかなりの体力を要するということを、俺は身をもって知る。

 それに、紗那は俺に身体を寄せて来るし。

「何だよ、紗那……」

「あまり突っ込まれるとお身体に触ります」

「最初に言った時から薄々おかしいとは思ってたんだよ……お前があのまま引き下がるわけはないってな……」

 それに――。

「お前も俺に突っ込ませる気か……」

 本当に疲れているのだから、いい加減にしてほしい。

 霧ヶ峰が練習に最初から参加してくれないのは本当に痛いと思った。いろいろな意味で。


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