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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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さあ紗那女史、お背中を洗って差し上げましょう

 四日目の練習は、結局夜十時までかかった。

 紗那が、ここに来て俄然(がぜん)「出るからには女子バスケ部を打倒しようではありませんか!」と息巻きだしたからだ。

 女子バスケ部と言えば、女子の運動系の部活の中でもかなりの強豪の部類に入る。

 もしや紗那、バレー部で何か言われてきたな――。

 この四月から紗那が所属している女子バレー部は、今のところ負け続きだ。

 女子バレー部にとっては、この騎馬戦は自分たちの部活の沽券(こけん)がかかわる一大イベントらしい。それは、「女子バレー部」としてエントリーした部員は勿論、それ以外の部員にとってもそうだ。

 他のチームから出ている部員の誰かが女子バスケ部を倒しても、女子バレー部にとっては勝利を意味する。

 それに付き合わされる俺たちにとってはたまったものではないが、御影も乗り気になったようだし、俺が口出しすることでもないだろう。

 その一方で、鷹司が練習に出たがらない理由は、こういうところにあるのかもしれないとも思った。

 体育会系同士のぶつかり合い。

 文芸部の幽霊部員、鷹司にとっては全く関係のない話だ。

 そう考えると、鷹司がかたくなに練習に出ない気持ちも分かる。

 そんなことを口にすると、紗那には怒られるだろうが。


 結局、道明寺も最後まで練習に付き合ってくれた。

 しかも、寮に来て風呂にまで入って行った。

 弘学寮の風呂は、共用の風呂が一つあるだけ。いくら金持ちの御曹司御令嬢が集まる蕭条学園と言えど、そこまでの設備は整っていない。

 しかもボロで有名な弘学寮だ。

 風呂の中の音が、外まで響く。

 おかげで俺は紗那、御影、そして後から練習に参加した甲賀沼と霧ヶ峰が道明寺にいいようにされる場面をすべて耳にしてしまったというわけだ。

 最初は、普通のよくある「洗いっこ」らしかったのだが――。

「さあ紗那女史、お背中を洗って差し上げましょう」

 道明寺が言うと、疲れていた紗那は警戒することもなく道明寺にその白い背中を向けた――という情景を、俺は唯一入ってくる音の情報から推察する。

 紗那の背中をまともに見たのなんて小学校に入る前くらいが最後だから何とも言えないが。

「では、お言葉に甘えて……」

 しかし、様子が変わってきたのはそれからで……。

「ひゃっ! 道明寺様、どこを触られるのですか⁉」

「デュフフフ……いい反応ですなあ」

「ちょっとあんたねえ、いたずらもいい加減になさい」

 見かねた霧ヶ峰が止めに入るも、逆に道明寺の餌食(えじき)になってしまったという様子が俺の部屋にも筒抜けだった。

「どこ触ってんのよあんたはっ⁉」

「次は御影女史ですかな」

 そしてこの期に及んで全く警戒を見せない御影は大したものだと思って俺も感心してしまった。

「じゃあ頼むぞ」

「ではでは……御影女史、大きい物をお持ちで……」

「いっ、言うなッ!」

 しかし丸腰の御影は、道明寺に抵抗することも叶わなかったようで。

 風呂場の中では、さすがに体術も使えなかったらしい。

「てぇいっ」

「ひっ! いきなり何をするか、道明寺殿!」

「これは疲れを(いや)すマッサージの一つで……」

 それが大嘘だってのは誰が聞いても分かるんだよお前は――。

 そうは思ってもいちいち突っ込みに入れないのが辛いところだ。

 しかしそこは紗那にまで「おチョロい」と言われた御影のこと、それをうかうか信じて痴態(ちたい)を演じる羽目になったようだった。

 その時点でもう俺は次の日からあの五人と普通に接するのが難しくなることが大いに考えられたので、いそいそと自分の部屋を出ることにした。

 それにしても、紗那のあんな声を聞いたのは初めてだ。

 俺の知らない間に大人になりやがって――。


 そして――。

 結局俺がその夜眠れなかったのは、そんなことがあったせいではない。

 確かに健全な高校生である俺としては、それだって十分眠れない理由にはなっただろう。

 他に心配ごとがなければ、の話である。

 俺の頭にあったのは、裸の美少女たちが浴室で絡み合う桃色絵図ではない。

 姫ヶ崎――。

 今日もまた、料理の練習を続けているのだろうか。

 まるで、俺に復讐を挑むかのように。

 そうだ――。

 これは、姫ヶ崎の復讐なのかもしれない。

 そうでもなければ、これほど継続することはできないはずだ。そこに、強い感情がなければ。

 姫ヶ崎は負けず嫌いだと、霧ヶ峰は言っていた。

 その本当の意味が、俺にもようやく分かったような気がする。

 姫ヶ崎は、今日もあの手狭な調理スペースに面と向かって立っているに違いない。

 まるで、自分の感情を叩きつけるかのように――。

 俺が、こんなことを考えるのは。

 決して夢うつつの状態で考えたからではないはずだ。

 逆に、時間が進み、夜が深まっていくにつれて、俺の頭は()えわたり、姫ヶ崎のこと以外考えられなくなってしまうのだった。

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