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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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御影様……おチョロい!おチョロいです!

「それにしても、鷹司様です‼」

 紗那は、話題が変わってさっきの怒りをぶり返したようだ。

「甲賀沼様と兄様、お二人に私を担がせるなんて!」

「……いい加減誰が上になるのか合意形成してくれ……」

「あんまりです! 本家に言いつけます!」

 鬼門院の家の内部――多分妙子さんとかその辺のごく狭い範囲――で鷹司のことが取りざたされても、鷹司の家にはあまり影響はないだろうが。

 鬼門院は財閥の家系、鷹司は大地主。全く接点はない。

「じゃあさっそく練習を始めましょう」

 甲賀沼が俺によじ登る――って。

 これじゃあ肩車だろうが――。

 でも意外と軽いな、などと思っていると、突然俺の視界が暗転する。

「お前――ッ!」 

 こいつ、肩車の禁じ手使いやがった――。

 俺の視界を隠すように、顔の前に手を掛ける。

「これで転んだら、俺はいいけどお前は振り落とされるな」

 俺がそう言うと甲賀沼は「……っ」と蚊の鳴くような声を出して、手を俺の顔から外す。

 体育祭まで後三週間。

 日が進むにつれて、こんなこともやっていられなくなる。

「付け髪がぐちゃぐちゃになりますから早くお降りください甲賀沼様」

 紗那がやや本気になって言うと、甲賀沼はその迫力に気おされたように俺の肩から下りる。

「さあ、次はわたくしが騎手となり兄様の肩に……あ、勿論付け髪は外していただいて……」

 紗那――お前もか。

 やるとは思っていたが――。


 四日目。

 姫ヶ崎は、昨日も徹夜だったらしく、今日も休むことにしたそうだ。霧ヶ峰は今日も今日とて、書類の整理だという。

 あの生徒会長に目をつけられたからかと思っていたが、もともとそういう予定だったのだと霧ヶ峰は言っていた。

 そんなわけで、俺と御影、紗那の三人で、運動場で練習を開始したころにはもう五時を回っていた。

 御影の信頼は、今日の練習での態度――必要以上に触らないという極めて普通で常識的なものだ――を通してある程度取り戻せたようだったが――。

「御影様……おチョロい! おチョロいです!」

 そんな日本語があるかどうか辞書で調べさせたくなったが、紗那の言う通り、俺も時々御影が変な男に(だま)されないか心配になる。

 でも心配なのは姫ヶ崎だ。

 やはり、練習に出たくないのではないだろうか。 

 俺がいるせいで――。

 俺が姫ヶ崎のことを考えて気落ちしていると、それとは裏腹な能天気極まりない声が、運動場の東の方から聞こえて来た。


「これはこれは皆の衆……ご精が出ますなあ」

 本物の道明寺ほかけだ。

 そういえば、道明寺はテニス部の所属だった。運動場の東側にあるテニスコートから、今丁度出て来たところなのだろう。

 テニスウェアが妙に似合っているところなど、スーパー美少女の本領発揮だ。「スーパー」と「美少女」の間に「変態」が入るにしても。

「美少女がくんずほぐれつ騎馬戦の練習ですかな」

 美少女と言っても今日は該当者が二人しかいない。

「是非とも、私も参加したいところですなあ……デュフフフ」

 この笑顔を写真に収めて、「この女の子の笑い方はどんなものでしょうか」という問題を出されても誰も正答にはたどり着けないだろう。

「よろしければ、道明寺様も参加されますか?」

 紗那は、あろうことか道明寺にそう尋ねる。

「はい! 喜んで!」

 道明寺は満面の笑みでそう答えるや否や、ものすごい速さで俺たちのもとへと向かってくる。正面から見ると、かなり恐怖を覚える構図だ。

「デュフフフ……これでダブル道明寺の完成ですなあ」

 道明寺は俺と肩を並べて言う。

「杉内少年の方が私より大きいですから、私のことは小道明寺と呼んでもらっても構いませんぞ」

「では、御影様が前。小道明寺様と大道明寺様が後ろになって、騎馬を作ってください。私が騎手ですので」

 そう言って、道明寺と御影と、俺に手を組ませる。

 それにしても、大道明寺って……。

「同じ道明寺の好。一緒に優勝、目指しましょう」

 お前が出るわけじゃないんだけどな――。

 いや、本物の道明寺に出てもらうのもいいかも知れない。

 ――それはないか。ぶつかる騎馬、ぶつかる騎馬の女子たちの「美少女エネルギー」を道明寺が吸収してしまうのがオチだ。しかもその吸収過程は多分会場の父兄には顔をしかめられ風紀委員には連行される類のものだろう。

 やはり俺が出るしかないのか――。


「姫ヶ崎殿は」

 御影が、ふと声を掛けてくる。

「今日も休みか。少し心配だな」

 彼女の言葉の調子からは、「少し」だとは思えなかった。

「ああ、疲れてそうだったしな――」

 俺はそう答えるが、姫ヶ崎が何をしているのかを知っている。

 夜遅くまで起きて、何をしているのかを。

 でも、それは本来俺が知っていてはいけないことだ。

「まあ何にせよ、身体を休めるのが一番だろう」

 御影は俺が姫ヶ崎の胸を触ったから彼女が休んでいるわけではないということは分かってくれていた。

「昨日はすまなかったな」

「いや、御影だって部活あるし」

「でも杉内殿は、部活動をしながら練習にも参加している」

 確かに、御影にはそう見えているのだろう。

 今日も、部活を終えて練習を始めたので、かなり遅い時間になってしまった。でも、御影の剣道部ほどきついものでもない。

「貴殿は私の見込んだ通り、ただの変態ではないな」 

 ――俺は本当に御影に信用されてもらえたのだろうか?

 さすがにそこまで言われると少し心配になって来た。

 いや、これは安心すべきことなのだろうか……?

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