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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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……というわけで、紗那さんが私と杉内君を担ぎ上げるから姫ヶ崎さんはゆっくり休んでいて

 翌日。

 偽道明寺ほかけ――もとい俺の騎馬戦練習、三日目。

 今日は霧ヶ峰は生徒会の仕事、御影は剣道部の練習で練習には参加できないそうだ。そのため、紗那、姫ヶ崎、甲賀沼、俺の四人で練習をすることになった。

「鷹司様が、練習に全く出てくださりません!」

 憤懣(ふんまん)やるかたないといった様子で、紗那が言う。

「兄様の方からも何か言ってください‼」

「俺が言っても、多分聞かないと思うんだが……」

 あいつは自分がやりたいと思わなければ、絶対にこういうことには参加しないだろう。

 姫ヶ崎は、目の下にクマを作って明らかに眠そうな顔をしている。

「お前――」

 姫ヶ崎の夜更かしの理由を知っているのは、俺だけだ。

 でも、それをここで口にするわけにはいかない。

「姫ヶ崎様、顔色が悪いですね。今日は休まれた方が……」

 紗那が心配そうな顔をして言うと、姫ヶ崎は弱弱しい微笑みを浮かべて返す。

「私は大丈夫だから」

「ですが、お顔が……」

「それに、今日私が休んだら練習にならないし」

 姫ヶ崎は、思いのほか強い口調で言う。

「それじゃあ、皆に悪いから」

 姫ヶ崎はそう言って、辺りを見渡す。

 一瞬だけ俺と目が合った。

 しかし、姫ヶ崎はすぐに視線を隣の紗那に移した。

 やはり――俺から目をそらそうとしているのだろうか。


 そんな姫ヶ崎に、甲賀沼が一歩近づく。

「その心配はないわ」

 姫ヶ崎の肩に手を乗せて、彼女は言う。

「私たちで何とかするから、姫ヶ崎さんは休んでいてちょうだい」 

 姫ヶ崎のことを、心から心配しての言葉なのだろうが――。

 甲賀沼の方が身長が低い癖にそんな体勢を取ろうとするから、自然と甲賀沼がつま先立ちになる。

 少し甲賀沼の言葉に感動したのにこれではぶち壊しだ。

 姫ヶ崎も気を使って腰をかがめるし。

「でも……」

「大丈夫よ。私と紗那さんで杉内君を担ぎ上げるから」

「ええ、姫ヶ崎様が心配することはありません。私と甲賀沼様で頑張って……ってええ⁉」

 頼んでもいないのに紗那はノリツッコミを披歴(ひれき)する。

「わたくしもですか⁉」

 紗那が目を見開いて続ける。でも当然だろう。

「あなた、杉内君のためなら無限のエネルギーを産出できるんでしょう。うちの部の後輩から『エネルギー保存の法則を覆す存在がうちのクラスにある』と話には聞いているわ」

「ええ、わたくしは兄様のためなら何でもしますよ。それこそエネルギー保存の法則も相対性理論もすべて覆す――って! 話が誇張され過ぎです!」

 甲賀沼は紗那のノリツッコミ第二弾を気に入ったらしく、反論そっちのけで拍手をする。


「とにかく、わたくしは遠慮させていただきますからね。甲賀沼様と二人で兄様を担ぐなど」

 大体、兄様はわたくし一人で担げます、と紗那は頬を膨らませる。

 担ぐのはいいのか――?

「そう……じゃあ紗那さんと杉内君で、私を担ぎ上げて」

「兄様との共同作業なら、わたくしもやぶさかではない……って! 甲賀沼様! まさか自分だけ楽をされようと……」

「騎手って結構辛いのよ。あなたもそれは分かっているでしょう」

「それもそうですが……」

「特に相手がカツラだった時なんて、相手の帽子と一緒に取ってしまった時の精神的な負担はかなりきついものがあるわ」

「そういう辛さはわたくしには理解しかねます」

「ああいうときって、どうリアクションするのが正解なのかしら。帽子をそっと戻すのが最適解なのかしら。でもそれだと利敵行為になってしまうし、かといって意気揚々と奪っていくのも非情過ぎるし……」

「カツラだけお戻しになれば良いのではないでしょうか!」

 紗那ももう自棄(やけ)気味だ。

 と言うか紗那が突っ込みに回ること自体俺にとってはなかなか新鮮だ。


「……というわけで、紗那さんが私と杉内君を担ぎ上げるから姫ヶ崎さんはゆっくり休んでいて」

「私の負担が随分と増えたようですね……‼」

 紗那は半分本気で怒っているような口調で言うが、姫ヶ崎は「じゃあ、お言葉に甘えて……」と、運動場を歩き去って行った。

 ゆっくり休んでいて、と言うのは、甲賀沼の本心だろう。

 俺も、姫ヶ崎には休んでもらった方がいいと思う。

 昨日徹夜だったみたいだし。

 俺の異様な風体にも結局気づかなかったし――。


「お前は気づいてるよな――俺の変な恰好に」

 甲賀沼にも一応訊いてみる。

「変な恰好? ああ、杉内君もそう思っていたのね。私はてっきりあなたがそう言う趣味なのだと思ったから、今まで黙っていたんだけど。ほら、あなたって私と初対面の時からオネエ系男子だったじゃない」

「記憶を改竄(かいざん)するな‼」

 でも――今の俺の格好だったらそう思われても仕方ないかもしれない。一概に、甲賀沼を責めるわけにもいかないか。

 頭には、鮮やかな青のヘアピース。

 体操服も、男子用のそれではなく、今の時代に良くそんなもんが残っていたものだと思わずにはいられない赤のブルマ。

 そして、胸には本人からわざわざサイズを聞き出して特製したというパッド。

 紗那の言う「道明寺なりきりセット」を装着させられている状態だ。

「俺……結局道明寺なんだな……」

「ご安心ください。道明寺様も『私が杉内少年だなんて照れますな』と言われてましたし」

 怒ってはいないのだろうが。

 あいつの反応、ちょっと頓珍漢(とんちんかん)すぎやしないか――。


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